TRICOLOR-2021 #2000字のドラマ
「Rimi、朝だよ〜」
だだっ広い和室にRyujiののんびりとした声がかかる。
わたしはゆっくりとベッドから起き上がった。
長い廊下を抜けると、レトロなダイニングルーム。
テーブルからこぼれ落ちそうなイングリッシュブレックファスト。なんとかちゃんの執事が作ってくれたような、豪華な朝ごはん。
こんなに食べられないなあ、と毎日思うのだが、Ryoが精一杯作ってくれたのだからと考えると少しは食欲が湧く。
わたしは今年、仮想通貨で億り人となった。
きっかけは昨年の年初「これからはビットコインだ」と書かれていたネット記事。
ブラック企業を退職して身も心も疲れ切っていた私は、ヤケ気味に全財産でビットコインを購入した。
そのあと暴落したのを見て、やはり仮想通貨なんてあてにならない、と思い忘れかけていたのだが、twitterでビットコインが盛り上がっているのを再確認し、最高値をつけた時に売却した。
晴れて億り人の仲間入りをして、冷静に考えてみると、、、
1億円では、一生遊んで暮らすことはできない。
とはいえ、会社で働く気にもなれない、、、
何して良いのかわからない。。
ふらふらと飲みに出掛けたのだが、疫病が蔓延するこの時代、飲み屋もほとんどが自粛中。
露地裏の小さなバーで、RyoとRyujiに出会った。
ぼくたちは都心の古民家で、ひっそりと暮らしている。
小学生からの幼なじみでいつも一緒に登下校し、大学まで同じ学校だった。
親友だと思っていたけれど、それが実は愛情だったと気がついたのは成人式の時。
誰にも言うことができずに大学を卒業し、LGBTに理解があることで有名な大企業に入社した。
しかし実態は単なるブラック企業で、ぼくたちがゲイだとわかるとダイバーシティー組織への異動を命じられた。宣伝材料として。
流石に馬鹿馬鹿しさを感じ、ふたりで退職した。
ささやかな退職金で都心の古民家を購入し、スマホアプリを作ったりしながら日々の糧を得ている。
息抜きに飲みに出掛けたのだが、疫病が蔓延するこの時代、飲み屋もほとんどが自粛中。
行きつけのレインボーバーで、Rimiに出会った。
テーブル一杯のイングリッシュブレックファストを食べるRimiを、Ryoが動画撮影している。
「億り人のモーニングルーティーン」としてyoutubeで生配信を始めて数ヶ月。それなりに視聴者が増え、広告代で朝ごはんくらいは賄える。
その横でRyujiは有名ミュージシャンのオンラインライブ準備の打ち合わせをしている。もちろんzoomで。
つけっぱなしのテレビからは、1年遅れのオリンピックが映し出されている。
スポンサー企業の多くが撤退したと言う、気の抜けたオリンピック。
「大企業は大変だね」とRimiがつぶやく。
「いいんじゃない、そのおかげで僕たちはのんびりと暮らしていけるのだから」とRyoが笑う。
「おっはようございます〜〜〜!!」
玄関先に、こどもたちの声が響く。
配信が終わった後、様々な事情で朝ごはんを食べられないこどもたちに、まいにちブレックファストを無料で食べさせてあげている。Ryoのアイデアだ。
ゲイの自分たちが宣伝材料になるのは嫌がったくせに、億りヒトのRimiを宣伝材料にして稼ぐとは、したたかなカップルだ。
Rimiはこどもたちと一緒にタブレットを使ったプログラミングや、仮想通貨の投資ゲームで遊んでいる。ブラック企業で習得したプログラミングスキルを教えているのだ。
こどもたちは無邪気にジャレ合っている。男の子同士、女の子同士で戯れていても、誰も注意しない。パートナーは自由に選べば良いから。
こどもたちが学校に行った後は、3人それぞれでのんびり暮らす。Ryoはスマホアプリを駆使して不用品売却、Rimiは量子コンピュータの勉強、Ryujiは日用品の買い出しに出かける。街に出て、市場調査をするのもRyujiの役割だ。オンラインライブに役立つと言う。ネットショッピングは極力利用しない。少し高くても古くからあるお店で購入することで、地域と仲良くなる作戦だ。
夕方になると、こどもたちの母親が顔を出す。少しくたびれたブランドバッグを持ってくるので、AIを使って自動査定し、大手リサイクルショップの3倍の価格で買い取ってあげている。ブランドバックは大企業で働くおじさんたちが勝手にくれたもの、何の未練もなく彼女たちは売却する。
最近はヴィンテージが流行っているので、30年以上前のバッグでも高値で売れる。
大企業を利用して稼ぐ、これが3人のコンセプトだ。
生まれた時から不景気しか知らない3人は、大企業で働けば安定した生活ができる。と親世代から教えられてきた。
女性の活躍、LGBTに優しい社会、と大学でも学んだ。
しかし、疫病と共に世の中のメッキが剥げてしまった。
なのでぼくたち3人は、大企業を利用して未来を支えるこどもたちを支援する。
彼らが大人になった時、自分たちみたいな思いをしなくても済むように。
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キャラクター設定:
Rimi(宮本理実) IQ160の天才エンジニア。20歳の時、年収1000万円で渋谷系IT企業からオファーを受け新卒入社したが、ズタボロになるまで使い捨てられて2年で退職。仮想通貨で財をなした後は、こどもたちにプログラミングを教えながらのんびりと暮らしている。
Ryo(村上怜) 料理と企画が得意な青年。20歳の時に自分がゲイだと気づく。LGBTに理解がある外資系IT企業に入社したが、宣伝材料にされたのに嫌気が差して2年で退職。パートナー(Ryuji)と二人で都心の古民家を購入し、スマホアプリ開発やせどりで稼いでいる。
Ryuji(森川隆二) データサイエンティスト。Ryoのパートナー。街歩きから生活データを集め、エンターテイメント業界に売っている。データはソシャゲやオンラインライブの企画に使われている。
記事をお読みいただき、ありがとうございます。 夢のあとおしに向けて、多くの方にお会いしたいと思っています。そのための交通費として使わせていただく予定です。