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フクロウ・ノート(14)ミネルバ大学の「学習を科学する」②

連休前に大学院の2学期目が終わりました。今学期は改めて「学び方を学び」ました。2月25日、ドイツ・ブラジル・韓国の同級生と一緒にこれから欠席が増えるかも知れない在キーウと在モスクワの同級生が短時間で予習・復習できる方法はないか考えその日から細々と取り組みはじめたことがきっかけでした。

Web上にクラスの共有スペースを作り、授業毎にその時気が向いた人が都合がつく時間帯に予習ノートやコンセプト図を作ってシェアしたり、オンライン授業中の超重要ポイントをスクショして集めたりしています。ただでさえ皆忙しいので、質と効率を追求しています。結果としてどこまで同級生に役立っているか不明ですがミネルバ大学が大切にしている「学習を科学する」というコンセプトを見直し実践することになりました。

「学習を科学する」について、少々長いですがよかったらお付き合いください。

記憶のしくみと繰り返し学ぶことの重要性

まず記憶のしくみの理解を改めて。記憶は脳が情報を受け取り、その情報が複数の脳神経細胞(ニューロン)を介して海馬に一時的に保管され(≒短期記憶)ます。保管期間はせいぜい1分だそうです。脳神経細胞同士はシナプスによってつながっています。シナプスに伝達物質が流れて大脳皮質に情報が保管され長期記憶が作られていくそうです。長期記憶は数分から何年も保管されます。保管期間延長の決め手は、何度も思い出す機会があるかどうかです。何度も思い出す機会がある情報とは、1回の出来事でも鮮明に覚えているインパクトある体験や意識的に繰り返し思い出すプロセスを踏んだ情報です。脳内では伝達物質が何度も脳神経細胞同士を行き来するようになり、そうするとシナプス同士のつながりがどんどん強くなり伝達物質の流れがスムーズになって、保管期間が延びるそうです。詳しくはこちらの動画を観てみてください。

集中して深く考え抜くことや、絶対間違えたくないシチュエーションを作ること、そして繰り返し思い出すことで記憶がより鮮明になり理解が深まるのは脳のメカニズムを上手く使うことによるものです。

脳のしくみを頭に入れて、我々がよく使う勉強法について何に注意を払う必要があるのか、それはなぜ脳にとって理にかなっているかをまとめてみました。

繰り返し読む?

Miyatsu et al. (2018)の調査(n=1,517)によると、約78%の人々が勉強方法として繰り返し読むことをしていたそうです。一度読むよりは2回読んだほうが情報が神経細胞を多く通るので記憶されやすくなります。但し、読む回数を増やすことによる記憶への残る度合いは、2回も4回もほぼ差がなく(Dunlosky et al .,2013)、それよりも自分の言葉でまとめてみたり、その情報をリアルなシチュエーションで使ってみながら人に説明をするほうが記憶に残るのだとか(Berry,1983)。

繰り返し情報を脳に送るタイミングもめちゃめちゃ大切だそうです。一度読んだあと間髪入れずに再度読むよりも、30分空けて読むほうが(Glover and Corkhill, 1987)、そして30分空けるよりも大部分の長期記憶が消えかける24時間が過ぎた頃にもう一度読むサイクルを作ったほうが(Case, 2018)記憶の定着率が良いのだとか。そして最初に読んでから放置して3−4週間経つとすっかり忘れ去られるらしいので、一夜漬けした内容があまり頭に残らないわけです。

2度目を読むタイミング加えて、なぜその文章を読むのか明確なゴール設定をすることも記憶の定着に役立ちます(Kaakinen et al., 2002, 2003)。大学院の予習教材も全て押さえておくべきポイントや、流し読みで充分なのか、熟読する必要があるか丁寧な指示があって助かっています。

蛍光ペンや下線を引く?

Miyatsu et al. (2018)によると蛍光ペンや下線を引くことも人気の勉強法です。一部の情報を全体から浮かび上がらせることによって、その部分を記憶する効果があることが実証されているそうです(Lorch & Klusewitz 1995)。そこで重要になるのは果たして自分で線を引いた箇所が本当に覚えるべきコアな部分かどうか。つまり情報の見極め勝負になります。これは初回読むと同時にパパッと線を引くのではなく、最初は全体の意味を把握するために読み線は引かず、2回目にコアになりそうな情報を見極め線を引くと情報が丁寧に記憶に刻まれるので学習効果が高くなるそうです。が、これを正しくできる人はあまり多くなく(Nist & Kirby, 1989)トレーニングされないとかなり難儀なのだとか。

ノートを取る?

Miyatsu et al. (2018)によると、ノートを取るのも昔からよく使われている勉強法です。ノートを取るにも大きく分けて2種類あります。

ひとつめは聞いた内容をあまり考えずにそのまま書き写すこと。会議や授業で聞いたことを、又はホワイトボードに書いてあることを、ただただ書き写したりPCでメモを取るときに自動的に指を勝手に動かしていることってありませんか?それって全くもって記憶に残らず、ノートを取らないも同然という調査結果があるそうです(Bui, Myerson, and Hale, 2013)。きっと脳神経細胞同士の情報のやり取りがほぼ起きないからということですよね。ではどうすると脳神経細胞同士の情報のやり取りが起きて長期記憶に保存され、それを引き出しやすくなるのでしょうか。

ふたつめの方法は、一部繰り返しになりますが自分の言葉で要約してみたり(Bretzubg & Kulhavy, 1979)、習った内容を少ない単語数のノートや図にまとめたみたりする方法で、かなり有効(Howe, 1970)という調査結果もあるそうです。

更に、試験勉強などで時間がないとき、きちんと自分で頭を使ってまとめたノートを復習すると、そのノートには脳に保存した長期記憶を引き出すヒントがまとまっているので、記憶が蘇りやすく、改めて教科書を読むよりも学習効果が高いとか(Kobayashi, 2005, 2006)。

ただ、正しくまとめが出来ていないと全く意味がありません。小学生の大部分はこれがまだ基本的に出来ないそうです。したがって先生がまとめた骨子(ポイントになる単語をいくつかメモに書いて先生が渡してあげるだけでも◎)を見て自分なりにノートを作るようにするというプロセスを踏むことができると良いそうです(Cornelius & Owen-DeShryver, 2008)。

復習よりも人目に晒されるようなアウトプット

まず自分の頭で考えてアウトプットする重要性はこれまでのところで繰り返し述べてきました。更に、調査によると復習するよりもテストを受けたほうが学習した内容が記憶に留まりやすいそうです(Dunlosky et al .(2013))。これは授業で教授に聞いたことですが、この「テスト」とはいわゆる試験も含めて自分のアウトプットが人目に晒され評価されるというシチュエーションを指します。学んだことを人に説明してみたり、図やノートにして人に共有したりということも含まれます。人目に晒される形で脳内でまとめるというプロセスを経ることで何度も以前学んだ情報が脳神経細胞同士を行き交い、評価される緊張感もあって否応無しに集中力が高まり更に記憶が強固なものになるということなのかなと思います。

こんな感じで勉強しています

上述したような「学びを科学する」テーマから我々なりの作戦を練りました。本当は自分でまとめてアウトプットするのが一番ですが、一部の同級生がどう考えてもそんな余裕がない日もたくさんあるだろうと考え役に立つノートを力を合わせて作ることになりました。

そして過去に出てきたコンセプトが何度も出てくるのがミネルバ大学の学習法の特徴なので過去の情報を参照しやすいような単語集(定義・事例・補足説明・過去にそのテーマが出てきた授業の番号・その他役立ちそうなURL)を作ったり、習ったコンセプトを図にして教授も巻き込んでツッコミを入れてもらうことにしました。

これは私のノートの一部です。予習・復習のタイミングで更新していました。最初のは単語帳で、これまでに出てきたコンセプトの場合は、以前の書き込みに新しく学んだことを追記します。これはクラスの皆に公開していていつでも誰でも1単語でも追記したり修正できるようにしています。書くとき結構緊張感があります。

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これもクラスの皆が編集ができる私のノートの一部です。主に復習するときに作っていました。キーウの同級生が図にするのが好きなのもあって、習ったコンセプトを図にしました。教授も協力してビシバシ指摘してくれました。

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むしろ自分たちの学びかたをアップデートする効果のほうが、同級生の役に立つよりもあったかも知れません。。。成績への効果もテキメン。キーウとモスクワの同級生の役に立っているといいな、そして彼女たちがこのメモを要らなくなる平和な日が来てほしいと願うばかりです。

Berry, D. C. (1983). Metacognitive experience and transfer of logical reasoning. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 35A, 39-49.
Bretzing, B. H., & Kulhavy, R. W. (1979). Notetaking and depth of processing. Contemporary Educational Psychology, 4, 145–153.
Bui, D. C., Myerson, J., & Hale, S. (2013). Note-taking with computers: Exploring alternative strategies for improved recall. Journal of Educational Psychology, 105, 299–309.
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https://ncase.me/remember/
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Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., and Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14, 4-58.
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Stein, G. (2021, 16 december). Common Learning Techniques: Using the Science of Learning to Make the Most of Your Study Time. Medium. Geraadpleegd op 2 mei 2022, van https://medium.com/study-kit/common-learning-techniques-using-the-science-of-learning-to-make-the-most-of-your-study-time-d17028f2e537
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