マガジンのカバー画像

嘘にまみれる毎日

490
毎日一つ嘘をつきます。誰も傷つけない嘘を。
運営しているクリエイター

#掌編小説

【嘘】美味しい満月

【嘘】美味しい満月

うさぎは月で餅つきをしているのではない。
月がお餅なのだ。
砂糖醤油で食べたい気持ち。

【嘘】線路沿いの暗くなる空

【嘘】線路沿いの暗くなる空

自転車に乗っている。

とりあえず、線路沿いをひたすらに進んでみようと思った。
特に理由は無いんだけど、自転車に乗ってるし、何より涼しいし。

気持ち良い風に吹かれながら、すいすいと進む。

すいすいと進むと、一定間隔で駅が現れる。だいたいが寂れた無人駅だけど、たまに少し栄えた雰囲気だけある駅に出くわす。
雰囲気だけで、人はいない。
一人もいない。

そうやって何駅も通り過ぎ、どんどんと進む。

もっとみる
【嘘】夜空へ

【嘘】夜空へ

便利さや合理性と逆行する魅力が、味わいとして確立している。そんなこと、大昔からずっとそうだ。
不便で面倒で大変で、手間も時間もかかる。
だからこそ愛着が湧き、愛おしく想う。

天の川銀河へ行くために、わざわざ鉄道に乗ったのも、それが一番趣深いからだ。

【嘘】空の絵

【嘘】空の絵

雲の上で出会った、そこで暮らす少年に「空の絵を描いてください」とお願いをしたら、満面の笑顔の自画像を描いてくれた。

【嘘】走って、回す

【嘘】走って、回す

空高く、うんと高く。
巨大なハムスターがパラシュートを付けてゆっくりと落ちている。
空を覆うほどのジャンガリアンハムスターだ。
手足をぱたぱたと忙しそうに動かしている。

ぼすん、と大きな音をたて、雲の上に無事着地したハムスターは、そのまま一目散に走りだした。

ハムスターが走る。
すると、瞬く間に夜になる。
ハムスターが走る。
あっという間に朝がくる。
ハムスターは走り、宇宙が回り、そして疲れた

もっとみる
【嘘】アラスカの空より

【嘘】アラスカの空より

オーロラはカーテンのようだ、とはよく言われている。
まあ、実際にカーテンなので、良い観察眼だと感心はするが、もう少しだけちゃんと見て欲しい。
光が空に向かって垂れているのはわかるかな。
本当はちゃんと床まで伸ばしたかったのだけど、採寸を誤ってね。ちょこっとばかりつんつるてんな格好になってしまったのだ。
妻には「どこがちょこっとなのよ」と怒られた。
実は間違えて出窓用のを買ったのだ。とは、いまさら言

もっとみる
【嘘】嘘はバレる

【嘘】嘘はバレる

友人と話している最中、急に雲の形が気になって、ちらっと空を見てしまった。
どうやらその仕草が心理学的に嘘を付いている所作だったらしく、友人からは厳しく追求されてしまった。
実際に嘘を付いていたので仕方がないのだが、心理学とはなんとも適当なものだ。

そんな事を思っていたら、後日また嘘を付いていると、急に雲の形が気になってきた。

そして気が付いた。
嘘を付くと雲は猫の形になる。

こうして嘘はバレ

もっとみる
【嘘】空が青い

【嘘】空が青い

意識の殻に穴が空いた。
ちょうど頭の一番上のところ。

意識は一気に雪崩出て、希釈され世界へ溶け込んだ。
だけど身体はいまだ形作り、自分として存在している。
己と世界は曖昧に混ざり、それでも変わらず命は続いてる。

空想も想像も夢も、今はすべてがなんとなく世界と等しいが、ただ、急に空が青くなっていった気がした。

前からだと言われたら、そうなのかもしれないけれど。

【嘘】バネに夢中

【嘘】バネに夢中

ボールペンをバラしたらバネが出てきた。
指先で潰したり、伸ばしたり、くるくる回しながら螺旋を辿ったりとしていたら、気が付くともう休み時間になっていた。
書き途中のノートには「ラクダよりもペンギンの、かさ」とだけ書かれていて、続きを確認しようにも黒板はもう綺麗に消されていた。
なんだかよく分からない。
今日の授業の内容はテストに出ないといいな、と願うと、バネがぴょんと跳んで、「気にするなよ」と言って

もっとみる
【嘘】黒鍵とスキップ

【嘘】黒鍵とスキップ

子供のころは、ピアノの黒鍵の上をスキップをするように走っていた。
後ろから、綺麗な音楽がついて来るようになった。
すぐに追い抜かれ、大人になるとどこかへ行ってしまった。
スキップはもう、しばらくしてないな。

【嘘】記憶の中の黒板消しクリーナー

【嘘】記憶の中の黒板消しクリーナー

教室を思い出すといつも不安になる。
なにかが、変。ずっと。

違和感は最初から感じていた。
黒板が真っ黒なんだ。
確かにそうだ。本来、黒板は緑色のはずだったんだ。

あの黒板消しのせいだ。消しすぎた。なにもかもなくなってる。

早く黒板消しクリーナーを用意しないと。それもとんでもなく大きな。
一回、吸い込ませて綺麗にしよう、全部。

全部。

【嘘】茄子ロケット

【嘘】茄子ロケット

茄子を詰めたロケット。
それを太陽へと打ち上げる。
これでよし。

大晦日は遅くまで起きている人が多い。
そのため、どうしても多少は夢の提供が混み合ってしまう。
対策として、幾分かの夢を似通ったものにする事で、ある程度の負荷を低減させている。
幸い、おめでたい夢として共通の認識が広まっているので、それに則っておけば不満や不信は出にくい。

ロケットに詰めた茄子は、初日の出の共に夢に現れるだろう。

もっとみる
【嘘】大きさ林檎と小さな喜び

【嘘】大きさ林檎と小さな喜び

家を出ると、また、玄関の目の前で巨大な林檎が回っていた。
今日のは、おおよそ2m前後の大きさだ。
芯を軸に横方向に高速回転し、ブウウンと低い音を上げている。
回っているのは良いことだ。

急いで家の中へ戻り、キッチンから果物ナイフを手に取り、林檎へと向かう。
高速で回転していることを利用すれば、皮を剥けるはずだ。

背伸びをして、果物ナイフをそっと林檎の上の方へ添える。
キュルキュルと細長く赤色の

もっとみる
【嘘】この時期の仕事

【嘘】この時期の仕事

今年のサンタクロースは、ソリの上から袋いっぱいに入れたビー玉を夜空へと撒く事で、まとめて子供の希望を配るそうだ。
望みの多様化に対しての対策らしいが、個人的にはとても嬉しい。
夜空にきらめくビー玉は、今から楽しみだ。

でもそうなると、去年夜空に撒いた色鉛筆を片付けておかないと。

天袋にしまった折り畳み式のソリの出番かな。