義祖母との出会い
義祖母と初めて対面したのは、ちょうど10年前。2014年の末に「新喜劇見にいくなら、ついでにうちくる?」的なノリで、両親と彼氏(現夫)の顔合わせを済ませた。実は、これも義姉の「大阪くるんやったらお父さんとお母さんに会ってもらい!」というありがたき「おせっかい」があったから。
両親と別れて2人で千日前をブラブラしていると、彼から「正月に俺の実家に来てって言ったら、来れる?」と言われた。
え〜らいこっちゃ〜
彼を見送った後、慌てて品の良いワンピースとカーディガンを購入し、「彼氏の実家を訪問する際のマナー」的な記事を読み漁った。笑
忘れもしない2015年1月3日、新幹線とローカル電車を乗り継いで彼の故郷を訪れた。彼に続いて義実家の玄関に入り、自己紹介をしてお土産を手渡す。
「よう来たのう」
と、真っ先に出迎えてくれたのが義祖母だった。
義祖母は私の目をじっと覗き込み、次の瞬間にクシャッと笑った。
「何を言われる?!」と、気をつけ!状態だった私は拍子抜け。
同じようにほほ笑むと、手を握って泣き始めた。
え、え、えええええ〜!!!なんで泣いてんの〜!!!
これが、おったまびっくりな義祖母と出会い。
実は、最初にプロポーズしてくれたのは義祖母だ。
客間に招き入れられた私は、義祖母に義父、義弟からの自己紹介を受ける。出身地や現在の仕事、住まいなど、あたりさわりのない話をした後、「ほんなら、あとは2人でゆっくりしてください」と3人は席を外した。
・・・はずだったが。
夫がトイレに立ったタイミングで義祖母だけが戻ってきて、私の正面に座る。
え・・何。お説教・・・?
かつてはお茶の先生をしていたという着物姿の義祖母と、正座で向かい合う。
・・・・・・
〇〇くん(夫)、早く帰ってきて!
心で叫びながら、義祖母の言葉を待つ私は、次の瞬間おったまげる。
「ほんで・・・結婚はしてくれはるんかいな?」
へ?
真剣な表情で返事を待つ義祖母に、しどろもどろで「もちろん、私は、〇〇さんと結婚したいと思っています」と伝える。
「ほな、進めてくださいな」
いやいやいや、こちとら一応女ですから!
進めるって、何を?どうやって?
内心パニクっている私を残し、「ほなよろしく頼んますね〜」と義祖母は部屋を出て行った。
「結婚してくれはるんかいな?」って言われても。ってか、私が進めることちゃうよね・・
プロポーズなんて経験ゼロなので、義祖母の依頼?に戸惑う私。
彼の家を出て、夜景を見に行っている間も、2人で食事をしている間も、義祖母の言葉が心から離れない。
そうこうしているうちに夜になり、帰る電車の時刻が近付く。
どうしよう
どうしよう
どうしよう
おばあちゃんから「お願いします!」って言われたからって、プロポーズもされてへんのに「結婚しましょ」っておかしいよなぁ。
それに、結婚したいって思っているんは私だけかもしらんし。
プロポーズ前の女だもの。思いを打ち明けた結果、吉と出るか凶と出るかは分からない。
どうしよう
どうしよう
どうしよう
乗車予定の電車が出発5分前のアナウンスを告げたとき、
「実は、おばあちゃんから”結婚はしてくれはるんかいな?"って言われたんよね。一応、伝えとこうと思って」
思い切って昼間のエピソードを話すと、隣を歩く彼が無言になる。
「・・・・・・ばあちゃん」
聞くところによると、夫は前日に地元の仲間(既婚)とプロポーズ大作戦を練っていたらしい。
私の誕生日に、夜景の見えるレストランで指輪を渡す。ベッタベタなプロポーズを計画していたそうだ。
義祖母のひと言で作戦が未遂に終わった彼は、落ち込んでいた。
「ひとまず、車に戻って話そうか」
彼の地元。最寄駅の駐車場。車の中で「結婚してください」とプロポーズを受けた。
「こんなはずじゃなかったのに・・・」と悔しがる彼に、
「シチュエーションとか、タイミングなんてどうでもええやん。2人が同じ気持ちやったってことが、めっちゃうれしい!」
と、今から考えると乙女チックなことをほざいた私。
しばらくプロポーズの禍根に苦しむ彼を見て、男性のほうがロマンチックなんやなぁと思った(我が家だけ?)。
急遽、結婚が決まった私たち。
帰る電車を見送り、彼の最寄り駅近くのビジネスホテルに泊まることにした。翌日、彼と落ち合った後、おばあちゃんがこれまた泣いて喜んでいたと聞いた。
なんでも、私たちが出て行った後、
「今日、結婚が決まるように〜!!!」って、仏壇に向かって手を合わせていたそうだ。
人の思いって、すごいなぁ。おばあちゃんがギュッギュッと結んでくれた縁。今は2人の息子も誕生し、新たな縁がつながっている。
10年のうちに骨折と大腸がんを経験し、新型コロナでふた回りほど小さくなった義祖母。
このお正月、義実家を出発する際に「またな。よろしくね」と手を握ってくれた。初めて会ったときもシワシワだったけれど、さらに細くて冷たくなった義祖母の手。思わず、「風邪を引いてしまう」と両手で包み込んだ。
「これで最後やけん」と泣くのはいつものこと。最後なんてこないでほしいと願いつつ、「また会いましょうね」と声をかけるのも、いつものこと。
先日、義父からの連絡で義祖母が肺炎になっていると聞いた。着実に、別れは近付いている。いつまでも元気でいてほしいけれど、それは残される側のエゴなのかもなぁ。
お墓の前で「お父さん、お母さん、出てきてよ。会いたい」と泣いた義祖母。5歳で亡くした我が子(義父の弟)の話を、涙ながらに語ってくれた義祖母。
「ほんま、いろんな楽しいこと、つらいことがあったけんな」
95年生きている義祖母と話すと、私たちがもがいている日常なんて「 1コマ」に過ぎないのだと気付かされる。
何を背伸びしているんだ?何を頑張らなきゃならないんだ?
私は、何者になるんだ?
大切な人たちが側にいて、笑って生活できている。私としての人生をこれからも生きていく。
それだけで充分よね。