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プール戦記



「温水プールに行くとき、何を持っていきますか?」
と聞かれて、タオルやゴーグルを忘れたとしても、

・水着
・水泳帽

を思い浮かべたとしたら、あなたはプールによく慣れた方だと思う。

プールがなかった田舎町に、プールができた。
そこには、
プールを知らない人達が、やってきた。


そこで働いた、私の記憶をさかのぼります。




ーーーーーーーーーーー




「えっ、なんで君、ここに来たの!??」

緊張して向かったアルバイトの面接で、そう言われました。

泳ぐことが大好きで、どうしてもプールで働きたかった私は、その時、住んでいた学生寮から電車で1時間半もかかる場所にある温水プールにいました。新しくできたプールがあると聞いて、他のプールも知らなかったし、ここしかない!と思って面接を申し込んでいたのです。


人と話すことは苦手だけど、絶対プールで働きたい!という気持ちは強かったので、

「泳げます」「掃除もがんばります」

面接中、思いついた言葉を声に出していきました。泳げることが雇用の最低条件だと思っていたので、「4泳法できます」「タイムは、」と自己ベストまで伝えた私。必死でした。



結果は、合格!




プールで働けるチャンスを得ます。

オープンからまだ数ヶ月のプールは、とてもキレイでピッカピカ。陽にあたりライトにあたり、水面はまぶしいほどに輝いていました。


アルバイトのリーダーは、茶髪のロン毛でよく笑う、サーファー風のお兄さん。プールがよく似合います。海も川も似合いそう。

他にも、私と同い年くらいのお兄さん3人と、少し年上かな?という感じのお姉さん、そしてそのお姉さんのお母さんがいらっしゃいました。(親子で一緒にアルバイトを始めたんだそうです)

最後に新入りの私を合わせて、計7名のチーム。皆さんとても優しそうで安心しました。


念願のプールだぁー!!!



大好きな場所で働けるなんて。もちろん緊張もありましたが、ワクワクしながら私の『プールでアルバイト』がスタートしました。




更衣室で競泳用の水着に着替えます。その上から短パンをはきます。そして、手渡された新しいTシャツ(背中に大きく『ライフガード』と英語で書かれたTシャツ)を着ます。

な、なんか、すごく、かっこいい。

この『ライフガードTシャツ』に憧れていたことを、着るとき初めて自覚しました。そして小さなハンカチをポケットにしまい、肩から笛をかけて、準備OK!


「大変なこともあるけど、一緒にがんばろうね。」


年上のお姉さんに言われました。大変なことって何だろう?この時は全く想像できなかったのですが、本当に大変なことが起きていました。ざっと挙げるとこんな感じです。

① 飛び込みおじいちゃん
② コースロープおじさん
③ カーラーおばさん
④ 全裸おばあちゃんズ
⑤ 衝撃の事実


( ;∀;)


いきます。プール戦記スタート!




① 飛び込みおじいちゃん

プールの監視台に座っていた私は、プールサイドの向こうから、畑で鍛えたらしい筋肉質な足で歩いてくるおじいちゃんを見つけました。よく晴れた日だったので、陽に当たって、おじいちゃんの足が光って見えたのを覚えています。


その、おじいちゃんが・・・

その、おじいちゃんが・・・


道路標識か?と思うほど大きく書かれた『飛び込み禁止』表示板の前で、大の字ジャンプでプールにダイブしました。違反です。違反者発見っ!

ふ、ふぇ、、 フェヲ、フカナケレバ、、

緊張していた私は、笛をふけませんでした。

ドキドキしながらおじいちゃんの、その後の行動を見守り、次の監視台当番に状況を引き継ぐことしかできなくて……、次の当番のお兄さんは優しく頷いてくれました。私の緊張は、少しだけ和らぎました。



② コースロープおじさん

すぐに、次のトラブル発生です。コースロープが、、見えていないらしいおじさんがいるんです。長い2本のコースロープの間を進むのが正しい利用であって、

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2本だろうが、3本だろうが、
コースロープを垂直に泳ぎつづけるおじさんがやってきました。

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これは危ない!ぶつかってしまいそう!

もぐっては、伸び~~~
もぐっては、伸び~~~~~

とても気持ちよさそうですが、これは違反です。違反者発見っ!
私は、今度こそと、笛をふきました。


ぷひゅっ…  ぷひょっ…


笛、鳴らないー!!!
  ( ;∀;)
練習不足とはこのこと。緊張も加われば、音なんて出ないんですよ。

音が出たところで、9割もぐって伸び~~~しているおじさんに聞こえる可能性は低いんじゃないか?水面におじさんの顔が出た一瞬どう狙うか!?どうしよう??早くしないとぶつかっちゃうよ!!慌てていたら、私に1つの考えが浮かびました。



ー このおじさんは、日本語が話せないんじゃないか?ー



もしも、英語で話すことになったらどうしよう?!あぁ、ムリだって、英単語ひとっつも出てこないよ、、、どうする私!!?

悶々と悩みながら、監視台を登ったり、降りたりしていたら、私のもとに、他のスタッフの男性が駆け寄ってきてくれました。「どうしたの?」って。こちらに耳を傾けて、話を聞いてくれて。(優しい。優しすぎるお兄さんです。。)

男性スタッフは、もぐっては伸び~しているコースロープおじさんが、プールサイドに近づいてきた時さりげなく呼び止め、腕と指を使ってスッと方向を示しました。

ほほぅ!
こうすれば、よかったのかー。


おじさんは見事、コースロープの間を導かれるように進んでいきました。


同じチームの素晴らしい立ち振る舞いを見て、ジーーーンと感動した後に、何もできない自分が恥ずかしくなって、チーン。沈む。「この仕事向いてないんじゃないか、、」初日にして深く凹みました。


数分後、


年上のお姉さんが話しかけてくれて、「ここのゆでたまごおいしいんだよ~」と教えてくれました。食堂のゆでたまごは、1個50円。休憩のときに食べました。本当に、とても、おいしかったです。

ー お姉さんと、ずっと、この穏やかな時間を過ごしたい ー

そう思った私。の目の前に、すごい珍客が現れます。さっそく穏やかではない時間の始まりでした。



③ カーラーおばさん

私と年上のお姉さんが、2人並んで受付当番のときです。

(え、、嘘~!!?)\(◎o◎)/

頭全体に、でっかいカーラーを巻いたおばさんが、プールチケットを購入して、私たちのいる受付前にやってきました。そのカーラーの数ったら、もう、数十個はあったかと。

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まさに、今、パーマ中!
誰が見てもそう思う、髪型をしています。

(あぁ、これ、絶対だめだよね・・・)
(規則には書いてなかったけど、これ絶対だめだよね・・・)

私は、立ち上がりました。お姉さんも、立ち上がりました。

「プールでは、水泳帽をかぶる規則になっておりまして、」

言いました。すると意外。私たちの声を聞いたカーラーおばさんは、「あら、そうなの?知らなかったわ」と言ってすぐに去っていきました。私たちは、プールを守ることができたような喜びに満ちていました。

30分後・・・


信じられない光景が、目の中に飛び込んできます。





カーラーおばさんが、

プールサイドに、いる。





(えっ、なぜ???)ざわざわする私。

(どど、どうする!?)慌てるスタッフ一同。

おばさんは、たくさん巻いたカーラー頭の上に、大きな大きな水泳帽をかぶっています。すごい頭。すごいボリューム。美容院でしか見たことのない頭がプールにあるんですから。も~~~~~、パニック!!!Σ(゚Д゚)

慌てながらも、スタッフそれぞれの話を聞いてわかったことは、私たちの受付当番が終わったあとに、おばさんは特大サイズの水泳帽をどこかでゲットして、戻ってきたらしい。

「大丈夫、大丈夫。」

受付で男性スタッフにそう話したおばさんは、『水泳帽ちゃんと持ってきたわよ』と言ったのかも。

大丈夫と聞いた男性スタッフは、『水泳帽も持っているし、頭についた物も全部取って、シャワーしてから入水するわよ』と聞こえたのかも。


ー 交錯する大丈夫 ー


大丈夫なのか?大丈夫??
えーーーーーと、なにがだっけ?!
わたわた考えているうちに、カーラーおばさん、

入水。





あぁ~~~~~~~~~!!!





私が先だったか、男性スタッフが先だったか、おばさんの元へ駆け寄り(←プールサイドを走ってはいけません。)注意をしました。
この時、間違いなく私は、パーマ液のことを心配していました。
どこのメーカーのどのパーマ液かはわからないけれど、でもどこぞの正体不明なパーマ液が、温水プールに撒かれてしまう。。。これはきっと、良くない!

私のこの不安な気持ちを(おそらく私以外のスタッフ全員の気持ちも)感知したのか、おばさんはまた「大丈夫」という言葉で返してきました。


「大丈夫よ、私ウォーキングだけだからね。」


あ、大丈夫だって。水中ウォーキングだからって。
ほんとに大丈夫なの???
わからーないーーー( ;∀;)

この時、私たちスタッフの気持ちはシンクロしていたと思います。みんなが真剣に、どうすればいいのか悩んで、意見を言い合って、今後のプールのために考えて、、、そうこうしている間に、、、カーラーおばさんは水中ウォーキングを終え、去って行ったんですけど。






《パーマしながら 入水禁止》






プールに、新しい歴史が刻まれました。

私はこの日、とても焦って驚いた気持ちをリーダーに伝えました。するとリーダーは、こんなことを教えてくれました。もっと大変なことがあったんだよ、と・・・



④ 全裸おばあちゃんズ

この田舎町に、この新しいプールができてすぐのこと。陽気に話すおばあちゃん2人組が、世間話をしながらシャワーをくぐり、プールサイドに入ってきたそうです。



全裸で。



事件。事件ですよ。
おばあちゃんたちは、

「な~に? ダメなの?  冷たいお風呂じゃないの~?」

と言ったそうです。その時、オープニングスタッフ総出で、全裸での利用を食い止め、プールとは、と時間をかけて説明したんだそうです。

(そうか。だからスタッフの皆、仲がいいんだ。)
(大変な時期を、乗り越えてきたんだなぁ・・・)

そう思いました。
そして、この後、さらに驚くことを知るんです。



⑤ 衝撃の事実

リーダーは、休憩時間も、仕事が終わってからも、時間を見つけては泳いでいました。私も、泳ぐのが好きだから泳いでいました。他のスタッフもみんな、泳いでいました。

泳ぐのが好きな人が、集まったんだな~。

そう思っていました。違かったんです。
リーダーが、言いました。





「僕たち、みんな、

 泳げなかったからね~。」




えぇーーーーーーーーーーーー!!!




なんで、気づかなかったんだろう、、、
ここは、プールがなかった田舎町。
泳げない人が、多い町。


スタッフもみんな、泳げなかっただなんて。


『ライフガード』と背中に書かれたTシャツを着て、泳げない。
監視台に立ち、笛をふくけど、泳げない。
すごいプレッシャーがあったのでは、、と気づきました。


ライフガードの本を読んで、マネて、全員が自主的に練習し、泳げるようになったんだそうです。

すごい!( ;∀;)

そしてその泳ぐ姿を、プールに来る人たちが見て、マネて、泳げる人が増えていきました。講習会が開かれるようにもなりました。その時から、何年も経っています。プールのなかった町は、プールのある町になり、その歴史とともに、泳げる人が増えつづけています。すごい。本当に、『ライフガード』だ!!!!!




町の大きな変化に、心が震えました。


働くことは、変化を起こすこと。


この時の出会いと経験に、感謝しています。







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