社会学的視点から「親ガチャ」を捉える–ブライダルスタッフでの経験を事例に

 「親ガチャ」という言葉を出発点に、「文化関係資本」や「ハビトゥス」という概念について自身の社会経験を交えながら考察したい。まず初めに「親ガチャ」という言葉の意味を確認しておく。親ガチャとは、「子どもは自分で親を選ぶことができず、どういう境遇に生まれるかは運任せであることを抽選形式でカプセルトイなどを購入するガチャにたとえた言葉。数年前からネットスラングとして使われていましたが、このところSNSへの投稿が相次ぐなど若者の間で浸透しています」(東洋経済 2021)。これは、格差を感じやすい現代の若者を表象した言葉として注目を集めた。土井隆義によると、「若者が「親ガチャ」を使う理由として、格差の固定化があるため」(土井隆義2021)としている。つまり、個人の努力では限界がある経済面での問題などが現実では存在しているということである。また、ここでとりわけ言及したいのはこれらの経済資本の豊かさと文化関係資本や文化資本の豊かさには一定の相関があるということである。私自身のブライダルスタッフとしての経験からも文化的再生産の実態を感覚的ではあるが了解している。新郎新婦の紹介ムービーや祝辞などから新郎新婦の学歴や職業、生い立ちを知ることができる。また、そこでは新郎新婦の両親の職業が明示されることもある。象徴的なのは医師や経営者の家系の婚礼である。祝電の送り主は、政治家や業界を代表するような大物が多いし、婚礼全体としても落ち着いている印象がある。式には新郎新婦の友人もおり、彼らの振る舞いやテーブルマナーからも新郎新婦の大体の品格を想像できたりする。また、文化資本の文脈では「余興」のスタイルがそれらを形象していると言える。エリートの婚礼では、余興はバイオリンの演奏や動画鑑賞などが採用される確率が高く、一方でそうでない人の婚礼では漫才やモノマネ、ダンスなど大衆的なものが多い。
 
 以上の事例を参考に、親ガチャについて社会的視座を基に考える。文化関係資本は親から直接享受されなくとも生育環境や進学先での人のネットワークとして形作られる。また、ハビトゥスは行動特性として身体的に顕れるものである。上述した、華麗な振る舞いや正しいテーブルマナーの実践など、権威の高さや高級感を示す態度はまさにハビトゥスのひとつである。これらは親か子へ受け継がれている傾向があることを前述した。「親ガチャ」という言葉は、文化的再生産に対する若者の不満感を意味していると言える。ただ、触れてきた資本の様々は自らで構築できる可能性もある。方法の一例としては、「積極的な社会関係資本へのアクセス」と「他者のハビトゥスの観察」である。私自身も今後の生活を豊かにしていくために、これらをひとつのライフワークとして実践していきたい。

参考文献
NHKテキストView, 2021, 「「ハビトゥス」は普遍的に応用可能な規則」
https://textview.jp/post/culture/44420, 2021年12月24日にアクセス).
現代ビジネス, 2021, 「「親ガチャ」という言葉が、現代の若者に刺さりまくった「本質的な理由」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/87010, 2021年12月24日にアクセス).
東洋経済, 2021, 「「親ガチャ」に眉をひそめる親たちに欠けた視点」
https://toyokeizai.net/articles/-/456528?page=2, 2021年12月24日にアクセス).

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