『発酵文化人類学』は、きみの感覚を発酵させる1冊。
『発酵文化人類学』という本は、タイトルの通り「発酵」に関する本だ。ただの発酵の解説本ではない。科学の本でもなければ、難しい学問の本でもない。
文化としての「発酵」という現象を、さまざまな視点で考えていく一冊だ。発酵を再定義するような一冊だ。
正直言ってしまうと、はじめ悔しかった。
ぼくは大学院で生物工学を専攻し、発酵工学の延長にある専門分野で学んできた。だから、発酵のおもしろさをわかっているつもりだった。だけど、わかっていなかった。
こんなにも魅力的で、おもしろい現象として、文化として、行為として捉えられるのだなんて、わかっていなかった。
読み進んでいくうちに、悔しさは憧れに発酵していった。気がつけば、「発酵」に魅了されていた。
そして、目に見えないマイクロメートルの世界を感じ、その世界とぼくたちが繋がっていると感じた。
その感覚は、「じぶんはここにいる」という感覚と、一人ではないという勇気が内から湧いてくるようだった。
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本書では、発酵デザイナー・小倉ヒラクによって、『発酵』という現象が、マイクロメートルの微生物の営みとして語られ、人が紡いできた文化として語られる。文化人類学の視点で語られ、芸術として語られる。「弱さ」を「強さ」に変える行為として、すべての人を「つくる側」の立場にする、遊びとして語られる。
発酵という現象はとても身近なものだ。「乾杯!」と仕事終わりに飲むビール。少し気取ってレストランで飲むワイン。ばーちゃんと飲んだ日本酒。桜の下で、顔を赤くしながら飲むチューハイ。たくさんの感情とともにあるアルコールは、微生物の発酵によってできている。
食卓に並ぶ味噌汁や醤油やお酢も発酵によってつくられる。
この身近な「発酵」への認識が、この本を通して、広がり深くなっていく。だから、おもしろい。だから、まったく違う世界への冒険も楽しい。
「思い出」のそばにいつもあるお酒が、もっと「世界」を味わうための入口なのだ。
発酵への認識が、アップデートされていくのと同時に、小倉ヒラクの言葉で、いま見えている世界も再定義されていく。「発酵」を通してみることで、ミクロの世界とマクロの世界とが、構造的な相似形であると気がつく。微生物どうしの営みと、人間社会の営みの共通点。醸造家と芸術家の共通点…それらを発見していく過程を経て、世界を、それまでとは違った見方で見ることができる。
読み終わった後のビールの味は、いつもと少し違って感じた。
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その感覚を味わっていたとき、ぼくは大きな喜びを感じていた。
この感覚が好きなのだ。いままでとは違うかたちで「わかる」ような感覚。同じなんだけど、違っているようにみえるその瞬間。
いつもの世界が、より鮮明に、細かく見える、その瞬間。その瞬間が好きなのだ。
そして、その瞬間を作りたいとも思った。
世界への、入口をつくってみたい。
なにかがわかる入口をつくってみたい。
自分の中の、ふたをして腐りかけていたような思いが、にじみ出てきた気がする。この感覚、この思いを、「発酵」させていきたい。
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