理想とは
「Scusi, Accendino,,,」(すみません、ライター貸してください)。タバコを吸う時には見ず知らずの人にライターを貸してもらって吸っていた。自分のライターはあるのに。
私は憧れの地であるイタリアに留学していた。言語を通してイタリアの人・街・文化を学ぶことを目的に個人留学を選び、多くの行動が一人であった。自分のペースでしたいことに時間が注げて刺激的な毎日を送っていた。だが、何をしようにも不慣れな土地はやはり疲れる。そんな疲れた体を癒すひと時は私にとってタバコと食事の時間であった。欧州食文化の原点であるイタリアにはおいしい食べ物が数多く存在し、イタリアならではの郷土料理に心躍らせていた。
そんなある日、前日食べたピザと被らないようにカルボナーラ(パスタ)を注文した、つもりだった。しかし出てきたのはカルボナーラのピザ。私はピザにもカルボナーラがあるのかと驚きつつも、食べ進めるとやはり味に飽きる。主食を白米としている新潟人の私にとってピザを何食も連続で食べることに少し嫌気がさした。ワインで流し込みながら店内を見回していると、誰もがひとつのピザを目の前に各々のピザを食べていた。ピザ一枚をシェアしあう、一枚にいくつもの味がある日本ピザ事情と本場イタリアのピザにはやはり異なる点があった。憧れを抱いていたイタリアの食文化を楽しみたい自分と、イタリアの食文化に慣れない自分がいることに気づいた。なんだか日本の食べ物が恋しい。
ようやく完食し、ワインを目の前にふと思う。「理想の世界にいるのにどこか満たされない自分がいる、理想とは何なのか。」そして、ワインを飲み干し、店を出た。
理想とは一種の「ないものねだり」と感じた。だが、環境が変わることで自分の当たり前は幸せなものであることを教えてくれる。視点を変えていくことで幸せは増えていくものではないか。そう思いながら、またイタリア人との交流を求めて火を借りに行った。
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