2019年 広島各選手ワンポイント寸評~投手編~
前回の野手編に引き続いて、今回は投手についてここまで取り上げられなかった選手たちを一人ひとり分析していきたいと思います。ただこれまで一度取り上げた選手についても、不足点があると感じた選手は追加で分析対象としています。また条件としては、既に退団の決まっている選手は対象からは除き、一軍で10イニング以上登板した投手としています。
1.ジョンソン
27試合(27先発) 11勝8敗 156.2回 132被安打 45自責 ERA2.59
K%20.3 BB%8.9 HR/FB8.1 AVG.232 WHIP1.21 xFIP4.12 GB/FB1.35 WAR3.9
オープン戦最終盤のコンディション不良の影響もあってか、春先は振るわない登板が続きましたが、5月以降は見事復調。球審のストライクゾーンと合わないとフラストレーションを溜めるシーンも散見されましたが、総じて安定した投球を続け、最終戦登板前まではERA1位を守り続けるなど、左腕エースとしてさすがの投球を見せたシーズンとなりました。
ポイント:フライボーラー化の進行とカットボールの威力向上
ジョンソンと言えば、カットボールやツーシームを主体としてゴロを打たせる投球が持ち味ですが、2019年は少々その様子が異なっていました。
来日してから4年間は、GB/FB(ゴロとフライの打球比率)が1.8以上の数値を保っていましたが、2019年は1.35までその数値が変化を見せています。要するにフライ性の打球の割合が高まっているということです。その分被HRは増加しましたが、HR/FB(フライ性の打球に占める本塁打の割合)は前年以下に抑え、フライ性の打球時の被打率も.407から.290へと大幅良化したことが2019年の成績向上に繋がったのでしょう。
上記要因を考えてみると、ストレートの空振り率が5.8%と自己最高の数値を記録しており、若干ストレートの球質にホップ成分が強まるような変化があった?ことが窺い知れます。ということから、カットボールやツーシームとの軌道差も大きくなったことで、打者がボールの下を叩くケースが増え、フライ性の打球が増えたと推測されます。
加えて、カットボールの威力の向上も2019年の成績を語る上では欠かせません。wCTを見ると13.7を記録しており、前年の7.7から大きく数値を伸ばしました。それは2018年→2019年に限らず、2017年→2018年も数値は大きく伸びており、-2.1から7.7まで大きく数値を伸ばしました。ここにはカットボールの球速が大きな要因ではないかと考えられます。
故障等の影響で不振に陥った2017年は、ストレートの平均球速が前年から1.6㎞向上するとともに、カットボールは3.7㎞も向上しています。球速が上昇したことでwFTは不振の中でも6.6を記録しましたが、wCTは-2.1とマネーピッチであるはずのカットボールの威力が大幅に低下してしまいました。おそらくストレートと比してカットボールが高速化しすぎたために、ストレート待ちの打者から打者からは対応が容易になったことや、本来の変化量も失われたために、捉えられるケースが増えたのでしょう。
それが2018年にはストレートの平均球速は横ばいのまま、カットボールの平均球速は-1.1㎞しており、ストレートとカットボールの球速比が改善されています。これにより、2018年以降のカットボールの威力向上に繋がったのだでしょう。加えて2019年はストレートの球質にも若干変化が加わり、相乗効果でよりカットボールが打者にとって攻略が難しいボールとなったことで、再び大きく数値を伸ばすことになったのだと推測されます。このように年々若干ながら投球スタイルを変化させていることが、毎年の好成績に繋がっているのでしょう。
来季には36歳を迎えますが、いまだ衰える様子は見せないため、来季も左腕エースとして大瀬良大地との両輪でチームを引っ張る活躍を期待したいところです。
2.野村祐輔
18試合(18先発) 6勝5敗 95.1回 96被安打 43自責 ERA4.06
K%15.7 BB%8.2 HR/FB6.6 AVG.259 WHIP1.36 xFIP4.37 GB/FB1.54 WAR2.4
4月はERA2.25と好調な滑り出しだったものの、徐々に失速し日本ハム戦で1回5失点で降板後には故障以外で5年ぶりとなる二軍落ちも経験しました。一軍復帰後も一進一退の投球で、二年続けてフル稼働出来ず、ERAも4点台と不満の残る成績に終わりました。またFA権を取得したことによる去就も注目されましたが、FA宣言は行わずチームへの残留を表明しました。
ポイント:自己ワーストのBB%と生かしきれない投球術
野村祐輔といえば制球力の高い投手というイメージがありますが、2019年のBB%は8.2%と自己ワーストの数値となっており、制球に苦しんだことが窺い知れます。
ただ、データを探っていくとストライクゾーンにボールがいかなくなったというより、ボール球を振ってもらえないという点が大きいように思います。過去3年のデータを比較して見ると、Zone%(ストライクゾーンに投じる確率)はほぼ横ばいとなっている一方で、好成績だった2017年と比べるとO-Contact%(ボールゾーンのコンタクト率)は上昇傾向にあり、SwStr%(全体の空振り率)は低下するなど、ここ2年はイマイチボールゾーンを使った勝負が出来ていないことが分かります。
球速は遅いもののピッチトンネルを駆使して、打者に的を絞らせない投球術で抑えるタイプですが、打者を幻惑することが出来ていないために、ボールゾーンのボールを見逃され、ボール球を生かすことができていないのではないでしょうか。加えてHard%も自己ワーストの34.9となっており、タイミングを外すことで弱い打球を打たせることもできておらず、この辺りが成績悪化に結び付いたと考えられます。
試合を見ていると、一塁側にはツーシーム、三塁側にはカットボール・スライダーというような画一的な配球となっているように見受けられ、野村の投球術を生かす配球となっていないように感じます。といった所から、打者からするとコースである程度投球を絞れてしまっている側面もあるのでしょう。
また自身登板時に12失策が発生するなど、ゴロを打たせる投手にも関わらず味方のミスにも足を引っ張られた面もあります。失点52に対し、自責が43である点がそれを物語っているとも言えましょう。来季は内野守備陣の要である菊池涼介が、2Bを守っていない可能性もあるため、この問題はしばらく解決されそうにないのは野村にとって大きくマイナスに働きそうです。
とはいえ、来季再び優勝を目指すにあたって、野村の活躍は必要条件となってくるはずですので、まずは自身の投球をもう一度見直して、打者を幻惑するホンモノの投球術を見せてくれることを期待しています。
3.アドゥワ誠
19試合(14先発) 3勝5敗0S0H 91.2回 101被安打 44自責 ERA4.32
K%12.9 BB%6.7 HR/FB12.6 AVG.274 WHIP1.40 xFIP4.88 GB/FB1.28 WAR0.9
2018年は高卒2年目ながら貴重なリリーフとして、53試合への登板を果たしたアドゥワですが、2019年は先発に転向し夏場以降は二軍暮らしとなりましたが完投勝利も記録するなど、先発への適性も見せつける一年となりました。まだまだ身体が出来上がっているとは言い難く、まだまだ伸びしろを残しているため、今後が非常に楽しみな選手の一人です。
ポイント:中間球の機能不全
持ち球はストレート・スライダー・カーブ・チェンジアップと多くないですが、本人も制御できないと話すムービングファストを軸にゴロの山を築いていく投手です。
ただストレートの平均球速141.5㎞は、投球回90回以上では49人中35位と決してスピードで勝負するタイプではありません。加えて現状ではスライダーやチェンジアップといったストレートに次ぐ投球割合の中間球が、Pitch Valueを見るとともにマイナスを記録しており、あまり機能していないという状況です。そのためか、K%の低さもさることながら、ゴロ率が高い割に本塁打を浴びるケースも多く、HR/FB12.6は投球回90回以上で両リーグ6位と、球威がない分スタンドに運ばれるケースも多くありました。
この辺りを改善し、技巧派投手として長く活躍するには、ストレートに近い球速からボールを変化させていく必要があるのではないでしょうか。同僚の野村がそのような投球スタイルで長く活躍しているように、アドゥワも球速が伸び悩むようならカットボールやツーシームで球種間での偽装を強める必要があるでしょう。もしくはストレートの回転軸を意図的に弄れるようになれば、このような問題は解決することになるでしょう。まだまだ若いため、ビルドアップして根本的な出力を高めるのが一番良いのでしょうが…
2019年の成績の分析というよりは、課題という面に向き合っていきましたが、自身もストレートで勝負出来るようになることを課題として捉えているようですので、出力を上げて高身長から繰り出される高速のムービングファストという、過去にも例のない投手像を確立することを期待したいところです。
4.遠藤淳志
34試合(0先発) 1勝1敗1S6H 42.2回 36被安打 15自責 ERA3.16
K%20.2 BB%13.3 HR/FB2.0 AVG.229 WHIP1.43 xFIP4.93 GB/FB0.96 WAR0.9
2017年のドラフト6位入団ながら、高卒2年目にして一軍デビューを飾り、一時はセットアッパー役を任されたり、セーブシチュエーションで登板したりと、様々な役割を果たしました。スーッと伸びてくるようなストレートと時に130㎞台後半を記録するような高速チェンジアップは既に一軍レベルにあり、K%20.2や被打率.229は優秀な数値と言えましょう。来季は先発転向するとのことで、どれくらいの成績を収められるのか非常に興味深いところです。
ポイント:縦系の変化による投球構成
遠藤淳志の奪三振能力や被打率の低さを支えているのが、上述のようなノビのあるストレートとチェンジアップに加え、縦に割れるカーブという縦系の変化です。打者の目線をわりかし対応しやすい左右ではなく上下に振れさせることが出来ますし、緩急を使うことによって奥行きも使えるため、三次元で投球を構成することが出来ます。この辺りは遠藤の大きな強みと言えましょう。
今後の課題としては、先発転向となるともう一球種くらいは必要となるでしょうから、スライダーの精度向上は必須となるでしょう。現状では被打率.583と滅多打ちに合っており、球速・変化ともに平凡でこれといった特徴のないボールです。このボールをブラッシュアップできるかどうかで、投球の幅が大きく変わってくるでしょうし、スラッターのようなボールに仕立て上げられれば、大きく飛躍することも期待できます。
またBB%13.3という数値が物語るように、制球力も課題となってきます。その改善のためには、ストライクゾーンで勝負できるような球威を身に付けるとともに、ボール球を振らせるようなもう一段上の変化球のレベルを目指してもらいたいところです。
まだまだ課題は多いですが、素質は間違いないことは一軍の舞台でも示せたため、アドゥワと同様に今後が非常に楽しみな投手です。ですので、既にある程度の適性を示したリリーフとして使い潰すような起用ではなく、多少時間はかかってもよいので、先発として大きく育て上げることを期待したいと思います。
5.一岡竜司
33試合(0先発) 0勝0敗0S16H 31回 29被安打 10自責 ERA2.90
K%13.5 BB%7.5 HR/FB2.2 AVG.246 WHIP1.26 xFIP5.36 GB/FB0.48 WAR0.6
2017年、2018年と2年連続59試合に登板し、セットアッパーとしての地位を確立してきた一岡竜司ですが、2019年はコンディション不良に悩まされ、33試合の登板に終わってしまいました。毎年苦しくなるリリーフ運用において、一岡のような実績のある投手の存在は非常に貴重なため、来季は復活した姿を見せてもらいたいものです。
ポイント:K%の大幅な低下
ノビのあるストレートと鋭いフォークを武器として、2017年、2018年とK%が24.8、25.6をマークするなど高い奪三振能力がウリでしたが、2019年は13.5と半減しています。ERAは2.90と表面上の成績は悪くありませんが、xFIPは1以上悪化するなど投球内容は大幅に悪化してしまいました。
その要因としては、ストレートとフォークという一岡の武器となる球種が、いずれも空振り率が大きく落ちたのが大きいと考えられます。中でもフォークの空振り率の低下は深刻で、21.8%から10.1%と半分以下の数値となってしまっています。投球割合や球速が大きく変化したわけでもないため、おそらくフォークの落ちが悪くなってしまったのが要因なのでしょう。また全体的にボール球で空振りを奪えなくなっており、打者にきっちりボールを見切られていたことも分かります。
このような空振り率の低下には、投球構成も影響しているものと思われます。元来ストレートとフォークが中心の投球となるため、結果球もこの2球種となることが多いですが、バリエーションを増やすためにカットボールやカーブも決めに行く際にもう少し使いたいところです。その点、2019年は前年以上にストレートとフォークが結果球となるケースが多かったため、対応されやすかった側面は少なからず存在するのでしょう。ですので、決して質の悪くないカットボールやカーブをもっと積極的に使用していきたいところです。
2019年のような空振りをとれないフライボーラーでは、正直試合終盤で非常に使いにくい存在ですので、まずはコンディションを整えて、再びノビのあるストレートと落差の鋭いフォークで打者を三振に切って取る姿を見せてもらいましょう。
6.島内颯太郎
25試合(0先発) 0勝0敗0S0H 28.2回 19被安打 14自責 ERA4.40
K%26.0 BB%15.0 HR/FB4.8 AVG.192 WHIP1.33 xFIP4.17 GB/FB1.26 WAR0.7
2018年ドラフト2位でチームに加入し、即戦力ルーキーとして期待された豪腕でしたが、25試合に登板し、ERA4.40と何とも言えない成績に終わってしまいました。ただK%26.0と非常に高い数値を記録しており、光るものを見せたことには間違いありません。来季はセットアッパーへの定着が期待されるところです。
ポイント:威力抜群のストレートとそれを生かす配球
大学時代からノビのあるストレートとフォーク・チェンジアップで打者をねじ伏せる投球を披露しており、非常にリリーフ向きの投球スタイルでしたが、プロでもストレートの投球割合が実に74.4%を占め、フォーク・チェンジアップを含めると93.5%を占めることから、そのような投球スタイルを継続した形となりました。
普通ストレートを約75%も投じれば火だるまとなりそうですが、むしろストレートの被打率は.216とよく抑えており、プロの打者をも押し込むような代物でした。加えてフォークやチェンジアップでも空振りを奪うことができ、K%26.0と全体の被打率.192は非常に優秀と言えましょう。加えて、GB/FB1.26とゴロを打たせることもできるため、空振りを奪えながらもゴロを打たせて長打のリスクも排除できるという、試合終盤を任せるに相応しい投手と言えましょう。
それにも関わらず、ERAは4.40と非常に平凡な数値に終わっています。その要因として考えられるのが、BB%15.0という四球の多さと、異常なストレート偏重配球でしょう。
ボールが非常に荒れがちで、ストライクとボールがはっきりするため打者からすると、ボールを見切りやすいのが四球の多さに繋がっていると考えられます。この点は、もう少し制球を意識した方向にシフトすることで改善していくべきでしょう。
ストレートの投球割合74.4%という、異常なストレート偏重配球については、ストレートが良質でかつその他の球種への自信がないためにこのような事態が生じているのでしょう。ただPitch Valueを見ると、良質なはずのストレートはマイナスの数値を示すなど、チェンジアップ以外の球種はマイナスを記録しており、ボールの威力に伴った数値となっていないように感じます。
Pitch Value以外の球種別成績では、被打率等で現状でも非常に優秀な数値が並んでいますが、ストレートに絞られやすい今の配球を改善することで、よりよい数値となるように感じます。ストレートが良いからそこに依存するのではなく、よりストレートを生かす方向へと考え方をシフトしていく必要があるのではないでしょうか。
上記のような課題は決して乗り越えるのが難しいものではないと思いますので、来季は自慢のストレートをより生かせるような配球と制球面を克服し、セットアッパーとして活躍する姿を楽しみにしています。
データ参照:1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)
データで楽しむプロ野球(https://baseballdata.jp/)
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