広島はなぜ4連覇を果たせなかったのか?
リーグ4連覇と35年ぶりの日本一という目標を掲げてスタートした2019年シーズン。その結果は、70勝70敗3分の4位というCSにすら駒を進められないまさかの結果に終わってしまいました。
4勝12敗というまさかのスタートとなりながらも、そこから8連勝で一気に借金を完済し、5月には月間20勝の快進撃を見せ、6/1時点では貯金14の首位に立っていました。
しかし、交流戦に入り5勝12敗と失速すると、セリーグチームとの対戦再開後も敗戦を重ね11連敗を喫することとなります。
オールスター明けに9連勝を重ね、横浜とともに首位を走る巨人に追いすがりましたが、バティスタのドーピング問題等のショッキングな事件もあり、失速。
その後も波に乗れないまま、勝てばCS確定のシーズン最終戦を落とし、阪神に大逆転でのCS出場をアシストする形となってしまいました。
そんな山あり谷ありのジェットコースターのような一年でしたが、そんな一年をなぜ優勝という形で終えることが出来なかったのかについて、以下にてまとめていきます。
1.野手編
これは3連覇を果たした過去3年強みとなっていた部分の数値を、今季の数値と比較したものです。
一目瞭然ですが、得点を含め過去3年あらゆる指標でリーグトップだったものが、今季はリーグトップクラスの指標が一つもないような状況です。
この3連覇は圧倒的な野手力が基となっていたため、このように数値が落ちてしまうと当然優勝というのは厳しくなっていきます。
なぜここまで急激な落ち込みが発生してしまったのか、一つ一つの指標の下降要因を探っていきます。
①BB%
NPBトップの23.0%を記録し圧倒的な四球奪取力を誇った丸佳浩の移籍と、1番打者として出塁に徹していた田中広輔の不振が大きく響いた形で、BB%はここ4年で最低の値へと転落してしまいました。
これにより、前年まで見せていた俊足打者が一塁ベース上からプレッシャーをかけることが出来なくなり、得点の創出にも悪影響を与えたのでしょう。
そんな中鈴木誠也がリーグ2位の16.8%を記録したものの、後ろを打つ打者の長打力を然程期待できなかったことから返す能力に乏しく、得点への跳ね返りは限定的なものとなってしまいました。
②ISO
純粋な長打力を示す指標のISOですが、過去3年リーグトップを記録していたのが、今季は4位まで転落してしまいました。
要因として考えられるのは、こちらもやはり昨季39本塁打を記録した丸の移籍や、一定の長打を期待出来た松山竜平や長野久義の打撃不振、新井貴浩とエルドレッドの引退というところでしょうか。
これにより、一振りで得点を奪うという効率的な得点方法を失ったため、どうしても安打を重ねて点を積み重ねるような、非効率的な得点方法への比重が高まり、得点能力の減退を引き起こしてしまいました。
③wFA
チームとしてどれだけストレートを捉えられていたかを示す指標ですが、昨季までは大幅にプラスであったのが、今季は-3.9と大幅な落ち込みを見せています。
個人的には、この部分の落ち込みが得点力に大きく寄与してしまったと考えています。(詳しくは「広島打線のストレート対応の劣化」の記事をご参照ください)
鈴木・バティスタとストレートに強さを見せた打者はいたものの、昨年まで大幅なプラスを叩き出していた丸・田中・松山がいずれも移籍や不調で実力を発揮できなかったのが大きく響きました。
投球の組み立ての大元となるストレートへの弱さは、根本的な得点力不足の原因となるにとどまらず、150㎞超えのストレートを持つ終盤のリリーフ投手を捉えきれないことにも繋がってきており、「逆転のカープ」が昨季までの広島の代名詞でしたが、今季は鳴りを潜めたのもここに原因があるわけです。
※逆転勝利数推移
2016年45勝(89勝) 2017年41勝(88勝) 2018年41勝(82勝) 2019年25勝(70勝)
④UBR
広島の野球の象徴ともいえる「機動力野球」ですが、その本質とは盗塁数ではなく、高い走塁技術で先の塁を奪いに行くところにあります。
そこで見るべき指標が、盗塁以外の走塁面の貢献を数値化したUBRという指標ですが、直近2年は野手各々のレベルが成熟期を迎えたためか、大幅なプラスを叩き出しています。
今季なぜ大幅に低下したのかを探ると、走塁面でもチームを引っ張っていた丸、そして1番打者を務めた田中の両名の不在もしくは故障が大きく響いたような形となりました。
走塁面でもプレッシャーをかけられず、攻撃パターンを多く持てる一三塁の状況を多く作れなかったことも、多少なりとも得点力の部分に影響しているのでしょう。
⑤UZR
ここまでは攻撃面の指標でしたが、守備面でも昨季よりは改善されましたがそれでも2年前までの守備力は取り戻せず、投手陣の足を引っ張るような形となってしまっています。
特に一塁手/左翼手を務めた松山・バティスタの数値は低く、中堅手を務めた野間峻祥・西川龍馬も高い守備力を誇った丸の穴を埋められず、といった具合です。
昨季レベルの得点力があれば、守備の多少の穴は覆い隠せてしまいますが、今季レベルの得点力ではそうもいかず、守備面が勝敗を分けるような場面も散見されました。
以上が、各種指標の低下要因分析となります。
昨季までは、高い出塁能力を持った田中広輔や丸佳浩らが出塁し、足で揺さぶりながら速球系を引き出しやすい状況を作り出したところを、鈴木誠也・松山竜平・新井貴浩・エルドレッドらのファストボールヒッターが速球系を捕まえて得点を創出するというのが基本パターンでした。
加えて、スタメン中に俊足かつ走塁能力の高い打者を多く揃えており、様々な攻めパターンのある一三塁を常に意識した攻撃を行えることも強みでした。
それらが、丸の移籍、田中の不振で出塁能力が不足し、新井・エルドレッドの引退と松山の不調でファストボールへの強さが減退したことから、上記のようなパターンによる得点創出が出来なくなったのです。
以上より、野手面では走攻守全ての面で見た「野手力」の低下が4連覇を逃した大きな要因と考えてよいでしょう。
2.投手編
続いて、投手陣はどうであったのかを確認していきます。
野手と同様に投手もチームトータルでの数値を並べてみましたが、2016年~2017年ほどの水準ではありませんが、失点は昨季より減らし、WARも昨季以上の数値を残すなどそこそこ健闘したと言えましょう。
しかし、上記で見たような野手力の低下を補うほどのものはなく、相対的には昨季も今季もリーグ5位ですから、苦しんでいる状況には変わりありません。
昨季から落ち込みを見せる投手陣について、その要因とは以下の2点に集約されるのではないでしょうか。
①怠った戦力拡充
シーズン間での再現性が野手ほどではない(=毎年入れ替わりが激しい)投手においては、常に戦力拡充を図る必要があります。
その手段がドラフトであり、新外国人発掘であり、FAであり、二軍での素材型投手の計画的な育成となってきます。
そんな中、ここ2年のドラフトでは、即戦力と呼ばれる投手は2018年ドラフト2位の島内颯太郎のみで、他は素材型投手もしくは将来のコア野手候補に充てたため、戦力拡充ができずじまいの状況となってしまいました。
新外国人投手は、フランスアが大車輪の活躍をみせたものの、その他ではレグナルトくらいで、カンポス・ヘルウェグ・ローレンスなど獲得した新外国人がイマイチで、思いのほか戦力拡充とはならなかった点も非常に痛かったと言えましょう。
そのために、二軍での素材型投手育成も追い付かず、ビルドアップを目的として二軍でもう少し漬け込む必要があるであろう、アドゥワ誠や遠藤淳志が早々に一軍の舞台で多く登板機会を得ることとなってしまいました。
薮田和樹や岡田明丈など投手陣のコアと期待された選手が長いトンネルへと入っていき、かつ中崎翔太・一岡竜司・今村猛・中田廉ら3連覇を支えたリリーフ投手も勤続疲労でパフォーマンスが落ち、上記のように戦力拡充が追い付かなくなったことで、投手陣全体としての数値はあえなく低下してしまったのです。
②稚拙な投手運用
昨年から繰り返し何度も言っていますが、稚拙な投手運用により無駄な疲労が蓄積されてしまったことも要因です。
詳細は2018年と2019年の投手運用をまとめた「畝龍実と佐々岡真司のリリーフ投手運用を比較してみる」という記事に譲りますが、勝ち試合で大差が付いているにも関わらず、勝ちパターンを担う投手の登板が多く、疲労分散の意識が希薄だったことで、より疲労が蓄積しやすい状況となってしまっていました。
加えて過去3年続けてPO出場を果たし、内2回は日本シリーズまで駒を進めたことによる疲労も加わったため、より疲労が重なり多くの投手の劣化に繋がってしまったのでしょう。
どれだけ客観的に見て素晴らしい運用を行っていても、ガタが来てしまう投手もいるため、全ての投手を劣化させない完璧な運用なんてものは存在しませんが、それでも疲労を最小限に抑え、勝負所に備えるような運用は常に意識して行わなければならないでしょうし、広島はその意識が希薄でした。
その結果が、3連覇を支えた投手たちのパフォーマンス低下に表れているわけです。
以上のように、常にテコ入れを図りつつも、現有戦力の疲労を抑え最大限活用できるような運用を行うべきであったのが、そのどちらも実施されなかったために、このように全体的なパフォーマンスが落ちる結果となってしまいました。
ですので、早くから上記2点が実施されていれば、チームの成績も変わったのかもしれません。
3.まとめ
・野手編
スピードを意識させながら、パワーで仕留めるような野球が出来なくなったことで、得点力が大幅に低下。
それにより、昨季から見られた守備力の劣化も覆い隠せなくなり、顕著な野手力の低下が表出してしまった。
・投手編
入れ替わりの激しい投手の戦力拡充を怠ったがために、様々な面にしわ寄せがいき、投手陣全体のパフォーマンスが落ちてしまった。
疲労分散意識の低い投手運用により、よりパフォーマンスの劣化が早期になってしまうことを招いてしまった。
以上が簡単ではありますが、本noteのまとめとなります。
来季以降の展望を考えると、野手のコア候補はいるためそこまで心配はいらないでしょうが、投手の面に関してはずっと同じような運用が続いています。
常に広島OBが務める投手コーチのポストに、外様の人間を当て込むのが何よりの補強となるのかもしれません。
※データ参照:1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)
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