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佐々岡政権のリリーフ投手運用を検証する

2020年シーズン、5位に沈んだ広島の負の象徴として挙げられるのが、リリーフ陣ではないでしょうか。

期待の新外国人だったDJ・ジョンソン、スコットは打ち込まれるシーンが目立ち、実績十分の中崎翔太、今村猛、一岡竜司は機能せず、頼みのフランスアの復調も7月後半までずれ込みました。
上記事情からシーズン開幕から1か月経ってもクローザーが定まらず、接戦を勝ち切ることが出来ないことで、6/7月は12勝18敗の借金6とチームは波に乗り損ねてしまいました。

しかし、その後は塹江敦哉の台頭に始まり、島内颯太郎が高い奪三振能力を武器に一時勝ち試合を担ったり、ケムナ誠も一軍レベルの打者をも捻じ込む力強いストレートで最終的にはセットアッパーを務めたりと、若手の台頭も目立ったプラスの側面もあったのも事実です。

プラスマイナス様々なことがあった中ですが、リリーフ投手というと前政権ではその運用面が色々と問題視されていたことは、広島ファンの記憶にもまだ新しいのではないでしょうか?
投手出身の佐々岡真司監督が現場のトップに座った2020年は、どのような変化が生じていたのか気になるところです。
ということで、以下では2019年と2020年の投手運用を比較することで、監督交代でどのような変化が生じたのか、解き明かしていこうと思います。

1.条件設定

まずどのようにして比較していくかを明確にしてから、比較を進めていこうと思います。

①連投数/週間登板数/回跨ぎ回数比較
登板数上位の投手について、投手運用管理の対象として挙がりやすい連投数、週ごとの負担を一定に抑えられているかを確認する週間登板数、連投よりもキツいという声も挙がる回跨ぎの3項目から、変化を探っていきます。

②終盤イニングの点差別登板状況
勝ちパターンに組み込まれている投手が、どれだけ無駄なく登板を重ねているかについて、試合終盤の7回~10回(2019年は12回)の点差別登板状況から、明らかにしていきます。

③個人シチュエーション別登板割合
登板数上位の投手について、それぞれどのようなシチュエーションでの登板が多かったかを明らかにすることで、個々にどのような特徴があったかを確認していきます。

上記3点から、2019年と2020年の投手運用を比較し、どのような変化があったのかを明らかにしていこうと思います。

2.連投数/週間登板数/回跨ぎ回数比較

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※連投数については、試合単位のもので、移動日等は考慮していない点はご容赦ください。

登板数上位6名を抜き出し、連投数/週間登板数/回跨ぎ回数をそれぞれ比較したものが、上記表になります。

連投数

2019年と2020年を比べると、2019年の方が単純に試合数が多いため、連投数は多くなっていますが、4連投以上の連投は両年ともに3連投以下のものと比べても少なく、2019年は7度、2020年は1度とやはり3連投というのが一つの目安になっていることが分かります。
この点に関しては、監督や投手コーチが変わろうが、変わらない方針であると言えそうです。
(下記記事を見ても、3連投を一つの目安としていることが分かります)

週間登板数

続いて週間登板数ですが、あまり違いが見られなかった連投数とは違い、少々傾向に違いが見られます。

というのは、2020年はどの投手も週間2登板の頻度が最も多くなっており、2019年は週間2登板よりは週間3登板の方に比重が寄っているという点です。
週間4登板以上も、2020年の7度に対し2019年は14度と、試合数の違いを考慮してもなお2019年の方が多い、という傾向も見て取れます。
逆に、週間1登板は2019年の方が多くなっていますが、結果的に週ごとにばらつきが生じる結果となり、登板数管理という点では2020年の方に分があると取れそうです。

上記より、2020年の方が2019年より各投手の週間登板を抑えられていたと言えるのではないでしょうか。
ただ、2019年は二桁連勝もあれば二桁連敗もあったりと、非常に波の大きいシーズンだっただけに、投手起用も連勝期と連敗期でばらつきが出がちな傾向にありました。
一方の2020年は、連勝連敗が少なく、どちらかというと登板管理しやすい状況にあったのは確かです。
登板傾向のばらつきには、このような点が要素としてある、ということだけは頭に入れておくべきでしょう。

回跨ぎ回数

最後に回跨ぎ回数ですが、こちらも見た目に分かりやすく、2020年の30度に対し2019年は48度と、試合数を考慮しても2019年の方が多いという状態です。
とりわけ目立つのが、両年ともにクローザーを務めたフランスアで、2019年には10度あった回跨ぎが、2020年には5度に減少しています。
2019年はセーブ失敗した後も、もう1イニング登板することも数度あったため、2020年は2019年と比べてセーブ失敗の回数を抑えられたのも、一つ要因かもしれません。

ただこの点に関しても、2020年は延長10回で打ち切りとなったことを考慮する必要があるでしょう。
終盤のイニングが減れば、当然回跨ぎ数も減少していくこととなります。
2020年当初のリリーフの層の薄さを考えると、延長にもつれ込めばフランスアや塹江の回跨ぎ登板は増えたでしょうし、単に2020年の方が回跨ぎ数が少ないからといって、そちらの方が確実に優れているとは言えないところです。

2章まとめ

本章では、連投数/週間登板数/回跨ぎ回数の3点から比較してきましたが、ここまでは週間登板数や回跨ぎ数の部分から2020年の方が若干優れているとは言えそうです。
ただ、ここまで監督交代によって生じた大きな変化は、感じられない結果となっていますが、次章以降の検証では何か明確な変化は果たして出てくるのでしょうか?

3.終盤イニングの点差別登板状況

続いては、勝ちパターンに組み込まれた投手たちが、どのようなシチュエーションで登板を重ねていたのかについて、試合終盤の点差別に確認していこうと思います。

その前に、年中同じ投手が勝ちパターンに入り続けることはほとんどありえないので、勝ちパターンを担った投手について、期間別に最初に定義付けしておきます。

2019年
①一岡竜司→フランスア→中崎翔太(開幕~5/31)
②一岡竜司→レグナルト→フランスア(6/1~6/15)
③中村恭平→レグナルト→フランスア(6/16~7/2)
④レグナルト→フランスア(7/3~7/16)
⑤遠藤淳志→今村猛→フランスア(7/17~8/4)
⑥菊池保則→今村猛or中崎翔太→フランスア(8/6~8/11)
⑦菊池保則→中村恭平or今村猛→中崎翔太(8/12~8/24)
⑧菊池保則→中村恭平or遠藤淳志→フランスア(8/25~8/31)
⑨菊池保則→中村恭平→フランスア(9/1~9/14)
⑩菊池保則→フランスア(9/15~閉幕)

2020年
①菊池保則→スコット(開幕~7/3)
②塹江敦哉→菊池保則(7/4~7/22)
③フランスアor菊池保則→塹江敦哉→一岡竜司(7/23~8/5)
④塹江敦哉→フランスア(8/6~8/18)
⑤島内颯太郎→塹江敦哉→フランスア(8/19~9/8)
⑥塹江敦哉→フランスア(9/9~9/14)
⑦ケムナ誠→塹江敦哉→フランスア(9/15~閉幕)

上記のような勝ちパターンの変化を適用して、勝ちパターンの投手がどのように終盤のイニングを担っていったのかを確認していきます。

同点・リード時

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まず同点・リード時と、勝ちパターンの投手の登板機会の多くなる場面を見ていきましょう。
なお上記表のパーセンテージは、そのイニング/点差の際に勝ちパターンに組み込まれた投手が、どれだけ投げたかを示しています。
100%であれば、そのシチュエーションだと全て勝ちパターンの投手が登場したことを示しますし、逆に0%だと全く勝ちパターンの投手が出てきていないことを示すことになります。

ホールド/セーブシチュエーションの0~3点差ですが、両年ともに8回/9回の部分は、ほぼ100%勝ちパターンの投手が担っているいます。
ですので、この部分については機械的にセットアッパー、クローザーと当てはめていく形で、両年に特に違いはないと言えそうです。

一方、7回の部分は両年に差が見て取れる部分です。
2019年はどのシチュエーションでも80%以上を誇っていますが、2020年は2点差時の80%を除いては非常に低い数値が並んでおり、トータルでも56.5%と2019年と比べて20%以上低下していることが分かります。
おそらく7回を継続的に担う投手が中々定まらなかったことが起因なのでしょうが、結果的には一投手へかかる負担を軽減したとも取れる形となりました。

4点差以上と、リリーフへの考え方に差が出そうな部分はどうなのでしょうか?
4点差時は両年ともにほぼ100%勝ちパターンの投手が登板していることから、4点差は決して色んな投手を試せる点差ではないとの認識が、チーム内にはあるようです。

5点差以上になるとまた少し状況が変わり、こちらも2020年の方がとりわけ7回/8回で勝ちパターンの投手の登板が明らかに減少しています。
こちらも上記のように、単純に勝ちパターンが中々定まらなかったのが大きな要因と考えられますが、やはり特定投手の負荷軽減には繋がったようです。

ビハインド時

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続いてビハインド時についても、同様にして確認していきます。

2019年1点ビハインドであれば、勝ちパターンの投手を投入するケースが多々見られ、特に8回1点ビハインドという状況では、64.3%とビハインドの全シチュエーションの中で最高の確率を記録しています。
おそらく、残り少ない攻撃に弾みを付けるために、8回をきっちり抑えたいという意図が働いたのでしょう。

2020年と比較すると、全体的には同様の傾向が見えますが、大きな違いが生じているのが、この8回ビハインド時の運用です。
上述の1点ビハインドという状況では、2020年のその割合は33.3%と半減しており、攻撃に向けて勢いを作りに行くというよりは、投手運用の面を重視した起用を行っていたことが窺えます。

ビハインド時を全体的に見ても、2020年は勝ちパターンの投手の登板割合は減少しており、勝ちパターンの投手が出てくる場面が減少したとはいえ、その分ビハインドでの登板が増えるということは生じてなさそうです。
ですので、ビハインド時の投手運用について、勝ちパターンの投手の観点から見ると、余計な登板が減少し、より管理されたものになったと言えそうです。

3章まとめ

本章での検証から、2020年は勝ちパターンの投手が中々定まらなかったという事情はありながらも、全体的に勝ちパターンの投手の負荷を減らすことが出来ていることが分かりました。
前章では明確な違いを見出せませんでしたが、本章では意図的かどうかまでは図れなかったものの、違いという部分は見えてきたかと思います。

4.個人シチュエーション別登板割合

最後は登板数上位の投手について、各個人がどのようなシチュエーションでの登板が多かったかを確認することで、個人単位の掘り下げを行いたいと思います。

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この表のシチュエーション分けについてですが、H/Sシチュエーションというのが、文字通りホールドやセーブが記録される場面での登板のことで、主に同点or3点リード時までの登板を指します。
4~5点リードと、1~3点ビハインドはその名前の通りで、大量リードは6点以上リード時、敗戦処理は4点以上ビハインド時を指しています。

2019年と2020年を比較してみると、一番に目に付くのは、H/Sシチュエーションでの登板割合の差になるでしょう。
2019年は登板上位投手全員が、このシチュエーションでの登板が最も多い一方で、2020年はフランスア、塹江、ケムナがそれに該当するだけで、むしろビハインドでの登板割合が高い投手の数の方が、多くなっています。
この数値の差は、それだけ2020年は勝ちパターンの構築に苦しんだ、ということの表れとも取れそうです。

また通年勝ちパターンに定着した投手にフォーカスしてみると、対象は2019年/2020年両年のフランスアであり、2020年の塹江になるでしょうが、気になるのは2020年のH/Sシチュエーションでの登板割合の低さです。
2019年のフランスアの73.1%に対し、開幕1か月後の定着となったとはいえフランスアが64.2%、塹江に至っては57.7%という数値になっています。
特に塹江は4~5点リードや、1~3点ビハインドといった、勝ちパターンの投手が出てくるか微妙な点差での登板が目立っており、その点については、しっかり登板管理出来ていたかは微妙なところではあります。

ただ、9月以降だと8回のホールドシチュエーション自体が少なく、塹江もこの間登板した24試合中10試合しかホールドシチュエーションでの登板がありませんでした。
となると、登板間隔を大きく空けないための登板が増えるため、このような登板割合になってしまったと考えられるのではないでしょうか。

ですので、個々で見ると多少の差こそあれども、接戦の少なさや勝ちパターンを担える投手不足等の状況によるものが大きく、少なくともここから運用面の変化は読み取れないと言えそうです。

4章まとめ

個人個人まで登板時シチュエーションを落とし込むことで、2020年の方が好ましくない登板状況にありましたが、それも結局は運用面以外の部分から生じていることが分かりました。
2章や3章とも総合すると、運用の妙というよりは、外部要因による部分が大きそうです。

5.まとめ

・連投数に差は少ないものの、2020年の方が週間登板数や回跨ぎ数は低めに抑えられており、若干2020年の方に分がある
・試合終盤の状況別に見ると、2020年の方が勝ちパターンの投手が不要な場面で登板することが少なく、登板管理面で2019年と差が生じている
・個々の投手別に見ると、塹江のように2020年の方が勝ちパターンの投手がH/Sシチュエーションで登板する割合が高くなっているが、接戦の少なさなど外部要因に大きく影響を受けている

全体的には、2020年の方が2019年より登板管理が出来ているような結果となりました。
しかし、ここで出した数値だけでリリーフ投手運用が意図をもって良化したとは、必ずしも言えないのではないでしょうか。

というのも、文中で何度か述べてきましたが、2020年は接戦の少なさや勝ちパターンが中々確立出来なかったという特徴があり、運用以外の要因によって数値が良化したとも考えられるからです。

ですので、本当にリリーフ投手運用が良化したのかは、来年以降も検証を続けていき、どのような傾向を示すかをチェックしていく他ありません。
来季の一軍投手コーチは新たに横山竜士、永川勝浩体制となりますが、ここでも何か変化はあるのか、来季終了した時点でまたこのような検証を行っていこうと思います。

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