中崎翔太の抱える不安要素
中崎翔太は2015年のシーズン途中にクローザーに就任して以降、2017年に一時今村猛にその役割を譲ったものの、今季ここまでその座を守り抜いてきました。
今季はここまでセーブ機会に恵まれず、内野陣の拙守に足を引っ張られながらも、防御率は2.30を記録するなど、まずまずの投球を見せています。
そんな今季の中崎について、確かに表面上の防御率は良いのですが、もう少しデータを深掘りしたり、実際に投じられているボールを見ると、このような数字で収まっているのが不思議で仕方がないものになっています。
その辺りの中崎が抱える不安要素について、以下にて簡単ではありますが解き明かしていこうと思います。
※成績は5/17終了時点のもの
1.中崎という投手の特徴
不安要素を解き明かしていく前に、まず中崎の投手としての特徴を整理していきます。
球種の面から特徴を探ってみると、フォーシーム・ツーシーム・スライダーという3球種で投球を構成していることが分かります。
フォーシームはアベレージで146㎞を記録し、スピードはあるものの、空振りを取れるようなタイプの球質ではなく、どちらかと言うとゴロを打たせやすい質のボールです。
ツーシームは右打者のインサイド、左打者のアウトサイドに投じられ、良い時はフォーシームと変わらない球速で斜めに沈んでいき、ゴロを量産できるボールです。
スライダーは2017年頃に高速化して投球割合を増やし、左右両打者のアウトサイドに多投し、こちらもゴロを打たせやすい、今や中崎の決め球となっているボールです。
偶にフォークやチェンジアップを投げますが、使えるような代物ではなく、クローザーにも関わらず、空振りを誘える落ちる系のボールを投じない、打たせて取るタイプの投手であることの想像がつきます。
続いて、打球の質等から特徴を探っていきます。
K%、BB%、WHIPはリーグ平均以下で、三振は取れず、四球も多く、走者も多く出すという、相手打者を圧倒するような投球スタイルではなく、走者を多く背負うことから、劇場型クローザーと呼ぶに相応しい投球スタイルであることが分かります。
GB/FBは1.28と、多くのゴロを打たせて取るGBPの特徴を見せており、長打リスクは回避しつつも自チームの守備力に左右されやすい投手であることが分かります。そのためか、今季最初の数登板で見られた、内野守備に足を引っ張られる試合も出てきます。
また、三振を取れないことから分かるように、SwStr%(全投球に対する空振り率)もリーグ平均以下で、O-Swing%(ボールゾーンへ投じた投球に対する打者がスイングを行う割合)もリーグ平均以下とバンバン空振りを取り、ボールゾーンへの投球を振らせるような投球というよりは、横幅を使ってゾーンの中で打たせて取るような投球が中崎の投球の特徴です。
数値には表れていませんが、9回にゾーンが広がることを最大限に利用したスライダーのコマンド能力の高さや、クローザーとして必要なメンタルの強さを持ち合わせており、上記のような投球スタイルがクローザー向きかは微妙なところですが、そのメンタリティーは間違いなくクローザー向きです。
2.今季の成績から見える不安要素
以上より、中崎の投球の特徴を確認できたところで、今季そこにどのような変化が生じているのかについて解き明かしていきます。
手法としては、上記の特徴について、昨季と今季を比較することで、変化を明らかにしていきます。
まず球種別の変化を見ていくと、分かりやすいのが球速の低下でしょう。
フォーシームは2.7㎞、スライダーは2.9㎞と大幅に球速は低下しており、クローザーを任せられる投手としては、かなり不安な球速帯へと突入しています。
他球団のクローザーと比較しても、中崎より球速が遅いのはフォーシームの平均球速が143㎞の日本ハムの秋吉亮くらいで、秋吉は変則サイドスローの投手であることを考えると、オーバースローの中崎はかなり遅いと言わざるを得ないように思います。
以前のnoteにて、血行障害持ちということもあり、春先は多少球速が出にくいという特徴があるものの、スライダーの高速化により、GB%を高めた投球スタイルで乗り切る術を覚えたのではないかと分析しましたが、スライダーの球速も同時に下がっているため、現状そのような術を取れていません。
このような球速の低下により、打ち返される打球の質や打者のリアクションにも影響は出つつあります。
上記の表④の比較を見ると、球速の低下からK%は更に低下し、また昨年に限らず常にGB%が高く、GBPの特徴を示していましたが、今季はGB%とFB%が同一の数値と、FB%の上昇が見られ、球速の低下の影響からかボールの下にバットを入れられやすくなっていることが分かります。
加えて、Hard%(強い打球を打たれた割合)は38.5%と昨季と比較して10%近くも悪化しているためか、DER(グラウンドに飛んできた打球の内アウトになった割合)は.579と極端に低い数値(リーグ平均は.695)となっています。
それに拍車をかけているのがZone%やF-Strike%の増加で、球速が低下したにも関わらずストライクゾーンに昨季以上に投じることで、より打者からすれば絞りやすくなり、かつ打ちやすくなっているのでしょう。
上記より、不安要素としては、球速の低下に伴い投じるボールの下にバットが入れられ、強い打球を飛ばされているという点になります。
3.まとめ
昨季まで→今季の変化点及び不安要素
・フォーシーム、スライダーの顕著な球速低下
・GB%の低下
・Hard%の上昇
防御率こそ2.30という数値ですが、もう少し詳しく数値を掘り下げてみると、かなり危険な水域に入りつつあることが分かります。
その大元として球速の低下という面があり、これから気温も上がってくればまた変化は出てくるかもしれませんが、このままではどこかで決壊してしまう恐れもあります。
これまでの経験値等を踏まえても、中崎にクローザーという役割を担わせるのに反対ではありませんが、このような投球内容が続くようだと、何かしらの策を講じることを考えなければならないかもしれません。