森下暢仁の進化は続く
8/14には無四球でスタメン全員から三振を奪いプロ入り初完封を成し遂げ、翌登板では首位を走る巨人を8回1失点に封じるなど、チームトップの6勝を挙げ防御率はリーグ4位相当と、森下暢仁はルーキーながら素晴らしい活躍を続けています。
それまでの登板では球数が多く、4試合続けて消化イニングが5~6イニングとそのボールの質の割に思ったより消化できていませんでしたが、8/14の完封勝利以降は何かを掴んだのか、3回で降板した9/4の登板を除いては常に7イニング以上を消化し、イニングイート力の向上が見て取れます。
開幕当初からその力を見せつけていましたが、直近で更なる進化を感じさせる森下の投球について、何がその要因なのかについて探っていきます。
1.成績から見る変化
8/7までの登板と8/14以降の登板での成績を比較してみると、同登板数ながら防御率、被打率、K%、BB%、P/IPと全ての面で向上しており、8/14の完封勝利あたりから何かを掴み始めたことが窺える成績となっています。
中でも著しいのがBB%の向上具合で、それまでは11.0%と四球を出すことが多く、敗戦投手となった2試合は5イニングで4四球、5イニングで5四球と四球で走者を溜めてしまう傾向にありました。
それが8/14の無四球完封以降は安定した制球力を発揮し、いずれの試合も四球の数は2以下でBB%も3.9%まで低下しています。
あの完封勝利を機に、とりわけ制球面で何かを掴んだのかもしれません。
制球面で何かを掴んだためか、P/IPも18.3から16.1まで落ちており、1イニングあたりの球数も明らかに減っています。
K%が23.9%から29.0%まで向上する中、球数を減らしながらイニングイート出来るようになっているのは、素晴らしいの一言以外ありません。
直近の姿は、最早エースと呼んでも差し支えないくらいの投球レベルに至っているのです。
2.増したストレートの威力
成績面で上記のような改善が見られるのは、何が要因なのでしょうか?
まず球種別の成績から探っていこうと思います。
8/7以前と8/14以降で球種別成績を比較すると、顕著な変化を見せているのがストレートのところです。
平均球速は若干低下しながらも、投球割合は大幅に上昇し、空振り率被打率ともに向上していることが分かります。
開幕から2登板の平均球速は150㎞を超えるなど、プレシーズン痛打を浴びることの多かったストレートの球速を上げることで、打者をねじ伏せようと試みましたが、その後のコンディション不良もあってか、そこからどうもアプローチを変えたようです。
その変化を確認するために、登板日ごとの平均球速と空振り率の推移を見ると、初登板こそ平均球速151㎞で空振り率も10%を超えましたが、その後は7%前後で推移し、7/31と8/7に至っては4.2%/0%とストレートの威力が落ちてしまっていたことが分かります。
決して平均球速が落ちたわけではありませんが、フォームや球質に何か問題があったのかもしれません。
そんな状態だったストレートが一気に好転したのが、やはり完封勝利を挙げた8/14の登板でした。
この日の登板では、雨中でコンディション不良を抱えながら投げていた7/9を除いては最遅の146.2㎞という平均球速ながら、空振り率は初登板時に次ぐ8.7%と前2登板から大きく向上させています。
そこからは8/21の登板を除いては、以前のように平均150㎞とまではいきませんが146㎞~148㎞前後の安定した球速帯で、空振り率も安定して8%~10%を記録するようになりました。
それまでは試行錯誤を繰り返していたストレートの力感を、8/14の登板を機に掴んだのかもしれません。
3.坂倉とのコンビによる配球傾向の変化
その威力が増したストレートをより活かしているのは、8/7からバッテリーを組む坂倉将吾の配球にあります。
それまでバッテリーを組んでいた會澤翼とどのような違いがあるかと言うと、端的にはストレートとカーブの投球割合です。
會澤とのバッテリー時ではストレートの投球割合は43.6%なのが、坂倉とのバッテリー時には55.9%まで上昇しており、それとともにカーブの投球割合も坂倉とバッテリー時の方が上です。
この2球種の投球割合が上昇しているということは、最も球速差の出せるボールでより緩急を付けようとの意識があるのでしょう。
そして、奇しくも坂倉とバッテリーを組み始めた辺りから、上述のようにストレートの威力がアップしていることが見て取れます。
たまたま森下がきっかけを掴むタイミングで、坂倉とバッテリーを組み始めただけとの見方も出来ますが、會澤とは異なるこの配球傾向にもストレートの威力が増すきっかけがあったのではないでしょうか?
そのきっかけとは、カーブの投球割合を増やしたことです。
というのも、森下のような縦割れのカーブを投じるには、しっかり上から投げ下ろす必要があり、フォームを縦回転に修正するような効果も持ちます。
そのような効果を持つカーブを増やしたことで、リリースポイントが上がって、ストレートの質にとってプラスに働いた可能性もあるのではないかと推測されます。
これによってストレートの威力が増して、投球割合を増やしても被打率を1割台に抑えるだけの質を備えるようになり、直近の好成績に繋がっていると考えられるのではないでしょうか。
上記にプラスして、カットボールとチェンジアップというストレートとカーブの中間の球速帯で、ストレートに偽装できるボールもあるがあるために、相手打者がストレートだけに絞れないことも、ここまでストレートが打たれない要因だと考えられます。
4.今後への課題
ストレートの威力が増し、その投球割合を増やしたことが直近の好成績に結び付いていると言えそうですが、この投球スタイルのまま通用し続けるかというと、そう上手くもいかないでしょう。
坂倉とのコンビだと、どのカウントでもストレートの高い投球割合は変わらないため、少し球威が落ちたところを狙われると、相手打線に捕まる可能性も大いにあるはずです。
その対策として有効になってくるのは、ストレートと同じ軌道から大きく縦に落ちていくカットボールです。
坂倉とのコンビでは投球割合が大きく減少していますが、左右両打者のアウトコースに投げ込めてカウントが稼げるボールで、決め球としても使えるレベルのボールです。
時に軌道が膨らんでストレートと同じ軌道に乗せられないこともありますが、そこにさえ気を付ければ十二分にカウント球としても決め球としても機能してくれるボールになることでしょう。
一つ一つのボールの質やコントロールは素晴らしいので、自身の状態や相手打者の狙いも鑑みながら、ピッチセレクトを考えていければ、更に安定した投球も見込めるでしょうし、新人王の獲得もより近いものとなるはずです。