ゴールデンルーキー・森下暢仁の投球徹底分析
ロッテ入団した佐々木朗希やヤクルトに入団した奥川恭伸に代表されるように、今年も多くの選手がドラフトを経てプロ入りしましたが、その中でも最も新人王に近い選手を挙げるとすると、広島に入団した森下暢仁ではないでしょうか。
150㎞を超えるストレートと、カットボール、カーブ、チェンジアップを織り交ぜる投球スタイルで、大学No.1投手の呼び声高い投手でした。その実力はプロ入りした後も発揮され、パリーグ連覇の原動力となった西武の山賊打線を5回無失点8奪三振に封じるなど、着実に成果を出しています。
そんな森下のOP戦での投球について、成績面から詳細に分析を行うことで、森下の投手としての特徴をいち早く解き明かしていこうと思います。
1.OP戦投球成績
1-1.成績
まず森下の基本的な成績について確認していきます。
OP戦は計4試合に登板し、15回を投げ防御率は4.20という成績でした。この防御率を見ると、あまり大したことない成績のように見えますが、投球回を上回る16の奪三振を記録し、K%25.0は昨年のリーグ平均20.3を超え、BB%6.3も昨年のリーグ平均8.7を下回っています。ですので、既に三振が多く四球が少ない支配的な投球が出来ていると言えるでしょう。
もう少し詳細な成績を確認し、投手としての特徴を明らかにしていきます。
打球性質の面では、GB%がFB%を上回っており、ゴロ性の打球が多くなっています。ホップ成分の強いストレートを投じるため、ゴロ性の打球が多いのは個人的には少々意外に感じる部分でしたが、まだサンプル数が少ないため、サンプル数が増えるとまた傾向が変わるかもしれません。
その他で特筆すべきはContact%とSwStr%(空振り率)で、いずれも昨年のリーグ平均を上回る数値を記録しています。要するにバットに当てられにくいボールを投げているということです。総合力ではNPBNo.1と言っても過言ではない山本由伸のContact%が76.8で、SwStr%が11.8とほぼ同等の数値を記録していることから、そのレベル感が分かると思います。
以上より、防御率ではあまり良い数値は残っていませんが、もう少し成績を深堀りすると、空振りを奪える投手で三振が多く四球が少ないという、支配的な投球が現時点で出来ているハイレベルな投手ということが分かります。
1-2.左右別成績
続いて、打者の左右別の対戦成績を確認していきます。
右打者に対しては、被打率.192で被OPS.584と圧巻の投球を披露していることが分かります。加えてK%は34.5と、右打者に対しては藤川球児クラスの三振奪取力を発揮していることも分かります。以上より、右打者には強さを発揮していると見て良いでしょう。
一方、左打者に対しては、対右打者と比較すると数値は悪化しており、被打率は.250で被OPSは.752となっています。中でも悪化が顕著なのがK%で、対右打者の34.5から半減した17.1まで悪化しています。ですので、左打者対策は今後の課題となっていきそうです。
1-3.コース別成績
最後に投球がどのようなコースに投じられたかで、どのような投球傾向にあるかを確認していきます。
上記表の見方としては、投手側から捕手及びホームプレートを見た視点となっており、スポーツナビ一球速報データをお借りしているため、コースは25分割した形となっております。各コースの中の数値は、一行目が打数と安打、三振数を示し、右下の数値はそのコースに投じられた球数となっています。この球数をベースに多く投じられたコースは赤く、少なかったコースは青くなっています。
上記認識を持って見て頂くと、全体的には真ん中から低めにボールが集まっている傾向があり、要求されることの多い低めのゾーンにしっかり投げ切れていると言えるでしょう。また内外にも満遍なく投げられているあたり、コマンド能力の高さを窺わせます。
こちらも打者の左右別に見ていくと、左右ともにアウトコースへの投球が多いことが分かります。三振を奪う時も、基本的にはアウトコースや低めのボールゾーンを振らせる形となっており、シーズンに入っても三振奪取はこのようなパターンとなりそうです。
2.球種別成績
ここまで基本的な投球成績をベースに、森下の特徴を洗い出していきましたが、ここからは森下の投じる球種別にその成績や特徴を確認していきます。
2-1.ストレート
まずは投球の根幹となるストレートですが、投球全体の46.7%を占め、左右両打者に対しても最も投じられているボールです。平均球速は146.3㎞を記録し、チームのエースである大瀬良大地が昨年記録した146.0㎞を上回るスピード能力を見せています。あれだけ細身ながらこれだけのスピードボールを放れるのは、おそらく体の使い方が抜群に上手いのでしょう。加えて、空振り率9.0%はNPB平均の6.8%を上回っていることから、ホップ成分の強い球質であることも窺い知れます。球質は悪くないだけに、被打率.309という数値も試合を重ねれば良化していくはずです。
球種別成績から森下のストレートの威力が分かったところで、より深く考察するために、コース別にどこに投じられたのかを確認していきます。
基本的にはストライクゾーンへしっかり投じることが出来ており、高さは低めにコントロールも出来ています。やや一塁側への投球が多くなっていますが、内外角にもしっかり投げ分けが出来ていることが分かります。ですので、ストレートのコマンド能力は高いと見て良いでしょう。球質的にはホップ成分が強いため、今後は高めのストレートを意図的に使えると面白いかもしれません。
打者の左右別に見てみると、右打者に対しては、食い込むボールが無い分、ストレートをインコースに投げ込むことでベース板を広く使おうという意識が見て取れます。右打者へ投じたストレートのうち、46%がインコースであることからその意識がよく分かるかと思います。
左打者に対しては、一転してアウトコースへの投球が多くなっており、インコースには殆ど投球していません。対左打者の成績が対右打者に劣るのは、この辺りにも要因はあるのかもしれません。
以上より、森下のストレートは、球速や空振り率を見てもその威力は確かでコマンド能力の高い、投球の根幹となるボールであることが分かります。課題としては、高めの使い方や左打者のインコースに投げ切るコマンドくらいでしょうか。いずれにせよ、非常にレベルの高いボールであることに違いはありません。
2-2.カットボール
続いて森下自身が自信があるボールと話すカットボールについてですが、投球割合では27.2%とストレートに次ぐ割合を誇っています。平均135.5㎞で鋭く曲がるボールで、空振り率12.7%とこちらもNPB平均11.3%を上回る数値を叩き出し、被打率も.053と1割を切るなど、自信があると語るだけの数値をここまでは記録していることがよく分かります。球質的にはいわゆるスラッターのようなボールであり、しっかりトレンドを押さえたボールを持っていると言えましょう。
またコース別に見ると、これだけ素晴らしい数値を収めている理由が何となく見えてきます。それはストレートと同様に決してコースを間違えないコマンド能力です。特に右打者のアウトコース、左打者のインコースにきちんと投げ込めているいるのが一目で分かるかと思います。この辺りのコースに出来ていれば、そこまで大崩れすることはないでしょう。
左右打者別にも確認していくと、右打者には時々インハイに抜けるボールはあるものの、基本的にはアウトコースにきっちりコマンドされており、右打者に対してカットボールはいまだ被安打を食らっていません。ストレートでインコースを見せられた後に、外にきっちりコマンドされたカットボールを投じられれば右打者はひとたまりもないでしょう。
左打者にも同様の傾向が見て取れますが、インローのボールゾーンにはあまり投球出来ていません。バックフットと呼ばれるこのボールを投げ切ることが出来れば、より空振り奪取が期待できるため、この辺りは今後の課題となるでしょう。また左打者に対しては、外からカットボールを入れてくるバックドアを使えれば、投球の幅が広がり、簡単にカウントも稼ぐことができそうです。コマンド能力は高いため、決して出来ない芸当ではないでしょうから、余裕ができれば挑戦してもらいたいテクニックです。
以上より、カットボールも空振り率や被打率を見てもその威力は十分であり、コマンド能力にも優れていることが分かります。あとは左打者へのバックフットやバックドアを有効活用出来れば、不得手の対左打者対策となるはずです。
2-3.カーブ
森下の代名詞的な変化球として語られることの多いのがこの縦に割れるカーブです。ただ本人はそこまで自信のあるボールではないようで、投球割合も全球種の中で最も低い11.9%となっています。空振り率2.7%と空振りを奪える代物ではありませんが、カウント球としては有効で、浅いカウントでよく使用されるボールです。ただOP戦ではカウントを稼げたのは31球中6球のみで、まだまだ課題の残るボールとなっています。
コース別に見ると、その課題がより明らかになりますが、そもそもゾーンに来ているのが8球だけで、高めに抜けるボールの多さが非常に目立つ結果となっています。これがもう少しゾーンに来るようになるだけで、カウントを作りやすくなるでしょうし、ここは要改善の部分です。
左右打者別に見ていくと、右打者には特に高めに浮くシーンが目立っています。ストライクゾーン内でも高めに来ており、出来ればもう少し低く抑えたいところです。
左打者には幾分か低く抑えられていますが、引っかかってインコースにボールが行き、死球となるシーンも見られ、まだまだ制御出来ていないように見受けられます。いずれにせよ、まだまだ精度を上げていく必要のあるボールであることには違いありません。
まとめると、カーブは浅いカウントでカウントを稼ぐために使用されるボールですが、現状は高めに浮くシーンが多く見られ、機能しているとは言い難いボールとなっています。そこは本人も自覚しているようで、縦軌道のラインを出せるよう早速修正に取り掛かっているようです。
2-4.チェンジアップ
森下の持ち球の中で最も高い空振り率を誇るのが、このチェンジアップとなります。主に左打者に投じられますが、空振り率27.0%を記録し、昨年NPB2位の空振り率を記録したフランスアの28.5%と大差のない数値となっています。右打者の真ん中低めから膝下付近にも落とすことが出来るため、左右関係のない決め球として機能しそうなボールと言えましょう。ただ被打率.417と出てるように、落差で勝負するというよりはストレートとの緩急で勝負するボールですので、高めに浮いてしまうと半速球気味となって痛打を浴びてしまう点には要注意です。
コース別に見ると、多くのボールを三塁側のゾーンにコントロール出来ていることが分かります。チェンジアップは基本的に真ん中から三塁側のコースに投じられるケースが多いため、チェンジアップについても高いコマンド能力を持っていると言えそうです。
右打者には、投じた球数こそ多くないものの、特に低めにコマンド出来ており、ボールゾーンに落とすことで2つの三振も奪っています。
左打者には、アウトコースに投じるケースが多く、高めに抜ける球も散見されるのが分かるかと思います。このあたりをもう少し低く制御できれば、対左打者にはより有効なボールとなるのではないでしょうか。
まとめると、チェンジアップはNPBでもトップレベルの空振り率を誇る決め球レベルのボールながら、高めに少しでも浮くことで痛打を浴びることになりかねないため、慎重なコマンドが必要なボールと言えましょう。
3.投球フォーム
最後に、成績から森下の特徴を探ることから少し離れ、投球フォームについて確認していこうと思います。
らす川さんの上記noteにて圧倒的なフォーム分析がなされているため、詳しくはそちらをご参照頂ければと思いますが、180cm75㎏という細身からあれだけのボールを繰り出していることからも分かる通り、効率の良い力の伝導が行われており、かつ故障リスクも抑えられた非常にレベルの高いフォームとのようです。
懸念点は勤続疲労でフォームを崩す恐れがあるとのことですので、慣れない環境下で体力的にもキツいルーキーイヤーから、通年安定してローテを守るのは難しいかもしれません。
ただ体力面の克服も時間の問題でしょうし、将来的には身体ももっと大きくなるでしょうから、そうなった際にどのようなボールを放るようになるのか今から楽しみです。
4.まとめ
・三振が多く四球が少ないという支配的な投球が出来ている
・右打者に対しては強さを発揮するものの、左打者へはまだまだ課題あり
・内外の投げ分けと低めへの投球を徹底出来ており、コマンド能力は非常に高い
・ストレートは球速が十分でホップ成分も強く、空振りを奪える高品質なボール
・カットボールも被打率空振り率ともにハイレベル
・カーブはカウント球として使いたいが、現状高めに抜けがち
・チェンジアップは決め球レベルだが、低めに集めるコマンドが必要
・フォーム的にもテクニカルなフォームで故障リスクの低い、ハイレベルな投球フォーム
以上が本noteのまとめとなります。
ここでは触れていませんが、フィールディングのレベルも高く、打撃も大学時代は5番を任されるケースもあるなど、野球センスは抜群で、まさに広島のエースの系譜を継ぐ投手と言えそうです。
投球も上記のようにハイレベルなため、とにかく故障にだけは気を付けて末永い活躍を期待したいところです。
データ参照:2020 プロ野球オール写真名鑑
1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)
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