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九里亜蓮の進化
投手陣に疲労が見え隠れする夏場に差し掛かり、開幕から好調をキープしていたエースの大瀬良大地でさえもその波にのまれつつある中、好調をキープしているのが、大瀬良と同期入団の九里亜蓮です。
過去3年と同様に、先発とリリーフを行ったり来たりと、起用法が目まぐるしく変化する中でも、6/9の先発再転向後は楽天戦でプロ入り初完封勝利を挙げるなど、3勝を挙げ、防御率も2.50と安定した投球を続けています。
この安定した投球の裏には、シーズン当初と比べて調子が上がってきただけでなく、九里自身の進化を感じ取れる部分が多くあります。
その九里が今季見せている進化について、以下にて考察していきます。
※成績は7/20時点でのもの
1.昨季までの九里
昨季までの九里を簡単に振り返ると、ローテ投手として一年間回り続けるにはイマイチで、リリーフとしてはオーバースペック気味という、「帯に短し襷に長し」状態でした。
そのため、ローテ投手が不足した際にはその穴を埋め、ローテに余裕がある場合はリリーフとして様々な場面に登板するような、便利屋的な立ち位置で、困ったときには非常に頼りになる、リーグ3連覇の影の功労者でした。
そんな九里の投球内容を、投じるボールと打球性質/打者の反応という二点から確認していきます。
過去3年に九里が投じた球種と平均球速をまとめたものを見ると、実に7球種を大きな偏りなく投げ込んでおり、様々な変化球を駆使して打者を打ち取る投手であることが見て取れます。
187㎝/92㎏という立派な体格ながら、ストレートの平均球速は141.7㎞にとどまり、その球威不足が「帯に短し襷に長し」状態を作り出してしまっていたのでしょう。
また、これといった武器となる変化球も持ち合わせておらず、決め球に欠ける点も殻を破り切れなかった要因と考えられます。
続いて、打球性質/打者の反応をまとめたものを見ると、奪三振率を示すK%と与四球率を示すBB%がリーグ平均を下回ることが多く、支配力に欠ける投球であったことが分かります。
打球性質はGB%が高いことから、ゴロ性の打球が多く、菊池涼介を中心とした広島の堅い内野守備と天然芝で打球の勢いが弱まりやすいマツダスタジアムの恩恵にあずかれる投手であることも分かります。
打者の反応を見ると、空振り率を示すSwStr%がリーグ平均以下である一方で、Contact%はリーグ平均以上の値を示しており、打たせて取るタイプであることが窺えます。その中でもZone%の低さから、ストライクゾーンにボールを集めると言うよりは、ボールゾーンのボールを振らせるような投球で打たせて取っていたことも窺えます。
以上より、昨季までの九里は、全体的な球威の無さや決め球の無さを、様々な変化球を駆使しながら、相手打者を欺いていくような投球スタイルで、打たせて取る投球が持ち味であったことが分かります。
2.今季の進化
昨季まではイマイチ支配力に欠けるために、ローテ投手となりきれなかった九里ですが、今季どのような変化を見せているのでしょうか?
今季九里の投じた球種と平均球速をまとめたものを見ると、一目瞭然ですが、どの球種も昨季と比較し、球速が上昇していることが分かります。
その球速の上昇は、先発再転向後に顕著に見られ、開幕直後と先発再転向後の平均球速を比較すると、143.1㎞から144.4㎞まで上昇しています。
広島 九里亜蓮
— tanaka13@凍結垢 (@brengunigirisu1) July 15, 2019
150キロストレート(FA)と133キロチェンジアップ(CH)🤒
外のストレートの軌道からチェンジアップを落として宮崎を空振り三振に。見事なピッチトンネル形成。 pic.twitter.com/k7wZfhFbIR
この球速上昇により、九里の持ち味であった多彩な球種を、途中までストレートに擬態させるような、「ピッチトンネル」に通す投球が可能となり、より打者を幻惑する投球へと進化を遂げました。
Pitch Valueを見ても、全体的にプラスに転じており、球威の向上がすべての球種にプラスの効果を与えていることが分かります。
その影響は、打球性質や打者の反応の部分にも現れており、BB%は昨季と同じまま、K%が大幅に上昇していることから、支配力のある投球が可能になったことがよくわかります。
Contact%の低下とSwStr%の上昇からは、球威の向上が見て取れますし、Zone%の上昇は、自身の球威に対する不安が払拭されたためか、積極的にストライクゾーンで勝負できるようになったことが窺えます。
打者を絞らせない投球スタイルに、球威の向上が加わったことで、Hard%を大幅に低下させることに成功(昨季は33.7%)し、打者側から見ると、非常に捉えづらい投手となりつつあることが分かります。
以上のように、球速が上昇したことで、昨季までと比較しても、より「ピッチトンネル」を通す投球が可能となり、全ての球種へもプラスに作用するような効果があったことが分かります。
3.球速向上の要因
では、なぜ今季九里は過去3年停滞していた球速を向上させることが出来たのでしょうか?
私の考える要因としては、以下の2点となります。
①リリーフ期間中に全力で飛ばす感覚を養えた
最初の4先発で結果が残せず、5月はリリーフ待機となりましたが、リリーフ登板を繰り返す中で、最初から全力で飛ばす感覚を掴んだのではないでしょうか。
先発だとどうしてもスタミナ配分やゲームメイクを意識し、自信のないストレートよりも変化球を多く投じがちでした。
それが、リリーフに配置転換されると、途端にストレートを投じる割合が増え。先発時の31.7%から38.5%までその投球割合は上昇しています。
このように、スタミナ配分を気にしなくても良いリリーフ登板時に、ストレートを全力で投げ込む中で何か感覚を掴んだのかもしれません。
それが、先発再転向後の球速向上へと繋がったのではないでしょうか。
②フォームの変化
意識の問題だけでなく、フォームの面から見ても、球速向上に繋がりそうな変化点が存在します。
それが、投球時に左足を打者側に踏み出す際の左足のインステップ化による、身体の横回転化です。
昨季と前回登板(7/15)の踏み出し時のフェーズを比較して見ると、昨季はそのままスクエアに踏み出しているのに対し、前回登板はより三塁側に踏み出しているのが分かるかと思います。
また、リリース時を比較すると、昨季は首を一塁側に倒して、より上から腕を通そうとしていますが、前回登板は極端に首を倒すことなく、多少腕の位置は昨季より低い位置から腕を通しています。
インステップが横回転向きの動きであることから、このように腕の位置を低くし横回転向きのアームアングルに切り替えることは、非常に理にかなっていると言えましょう。
本来は横回転向きの身体の使い方であったのが、無理矢理縦回転に近づけて投げようとしていたことで、自身の身体の使い方に合わないものになっていて、球速向上が妨げられていたのかもしれません。
インステップは回転量を落とすために球速が落ちると言われることもありますが、MLBではインステップしながらも100マイルのストレートを投げ込む投手もいますし、このように一概にインステップが球速向上を妨げるとも言えないのではないでしょうか。
4.まとめ
・昨季までの九里
7種類の変化球を投げ分ける変化球投手で、支配力は低く打たせて取る投球スタイル
ローテ投手未満リリーフ投手以上という立ち位置で便利屋的扱い
・今季の進化
過去3年停滞していた球速が全体的に向上
これにより、よりピッチトンネルを通して打者を幻惑する投球が可能となった
・球速向上の要因
インステップ化によって、身体が横回転の動きとなり、より自身の身体の使い方に近いものとなったことが球速向上に繋がった
以上が本noteのまとめとなります。
地味ではありますが、毎年着実に進歩を遂げつつある九里は、今や先発ローテ投手として欠かせない存在となりつつあります。
夏場にもう一度反攻するために、今後もこのクオリティーの投球を期待したいところです。