畝龍実と佐々岡真司のリリーフ投手運用を比較してみる
昨季までリーグ3連覇を果たしたチームの中でも、毎年のように課題として挙げられていたのが、2016年の日本シリーズで見られた今村猛・ジャクソンの6連投や、2018年のフランスアの月間18試合登板に代表されるような「リリーフ投手運用」でした。
そんな課題感を抱える中、2015年から昨季まで一軍投手コーチを務め、投手起用に関する権限を持っていた畝龍実が今季からはブルペン担当に回ることとなり、代わりに昨季まで二軍投手コーチを務めていた佐々岡真司が一軍投手コーチを務めることになりました。
投手起用を預かる一軍投手コーチが変更になったことで、投手運用も幾分か改善されるのではないかと期待されましたが、明確なルールは3連投禁止のみで、それ以外では合理性を欠く場面が依然として散見され、実感としては昨季までとそこまで変化がないように感じます。
変化がないという何となくの実感こそありますが、本当に変化がないのかについて、実際にリリーフ投手運用を比較検証していこうと思います。
1.条件設定
検証の前に、どのような手法にて検証を行っていくのかについて、あらかじめ定めておきます。
・前提‥畝コーチによる投手運用は2018年、佐々岡コーチによる投手運用は
2019年を対象とする。
・検証方法‥①7回以降リードor同点時、ビハインド時の起用投手の比較
‥勝ちパターンを担う投手の運用を確認する
②主要リリーフ投手の連投回数、週間登板数、回跨ぎ数の比較
以上の手法にて検証していきます。
2.状況別起用投手比較
7回以降の状況別起用投手を比較していく前に、1点補足を入れておきます。
1シーズンを戦う中で故障や不調で、どうしてもリリーフの中での役割の入れ替えは生じてきます。
実際に2018年・2019年ともにシーズン途中で役割の入れ替えがあり、それに即した形で比較しなければ、7回以降の試合終盤の勝ちパターンを担う投手の運用の比較が不可能です。
2018-1:今村猛→ジャクソン→中崎翔太(開幕~6/24)
2018-2:一岡竜司→ジャクソン→中崎翔太(6/26~7/16)
2018-3:一岡竜司→フランスア→中崎翔太(7/17~7/21)
2018-4:永川勝浩→フランスア→中崎翔太(7/22~8/9)
2018-5:一岡竜司→フランスア→中崎翔太(8/10~閉幕)
2019-1:一岡竜司→フランスア→中崎翔太(開幕~5/31)
2019-2:一岡竜司→レグナルト→フランスア(6/1~6/15)
2019-3:中村恭平→レグナルト→フランスア(6/16~7/2)
2019-4:レグナルト→フランスア(7/3~7/16)
2019-5:遠藤淳志→今村猛→フランスア(7/17~8/4)
2019-6:菊池保則→今村猛or中崎翔太→フランスア(8/6~8/11)
ですので、2018年・2019年ともに上記のような勝ちパターンの変更を反映した形で検証していきます。
2018、2019両年の登板時の得点差別と、登板回別にマトリックス表をまとめたものが表①②となります。
総登板機会に対して、上述のようなその当時勝ちパターンを担っていた投手がどれだけ登板したかを示したものになります。
Totalは緑・赤・青3種類それぞれの状況に対して、勝ちパターンの投手が登板した割合になります。
両年を比較すると、全体的には2018年の方が首位独走状態にあり、余裕を持ていたためか、勝ちパターンの投手の登板割合は2019年と比較してどの状況においても低くなっています。
ただ、両年を合わせた全体的な傾向としては、両者ともに何点リードであろうと、勝ち試合では高い割合で勝ちパターンの投手をつぎ込み、一方でビハインドの展開であれば、調整登板として起用する以外ではほとんど起用しないといったような、勝ち試合と負け試合という括りで役割を大別しているような傾向にあることが分かるでしょう。
要するに、状況別で起用する投手傾向についてはほぼ変わっていないということです。
もう少し詳細を探ると、両年ともに4点差以上の、基本的にはホールドやセーブといった記録が付かない場面でも、67%は勝ちパターンの投手が登板しており、この辺りが伝統的にリリーフ陣を疲弊させてしまう温床となってしまうように感じます。
登板予定で肩を作った投手については、点差が付いてもそのまま投げさせる方針等があるのでしょうが、それにしても割合は高いですし、単純に4点差や5点差くらいでは別の投手を試すのが怖いために信頼のおける投手を起用しているのではないでしょうか。
そのような起用では、既存の勝ちパターンの投手はすり減っていきますし、別の投手がより僅少リードの場面で投げることで自信を付ける場面を奪ってしまうという、どちらも得をしない結果になってしまうように感じるのですが‥
3.登板管理比較
続いて、主要リリーフ陣の連投数、週間登板数、回跨ぎ数を比較して、検証を行っていきます。
両年での登板数上位6名を抽出し、連投数、週間登板数、回跨ぎ数をそれぞれまとめたものが表③④となります。
連投数はnf3さんからデータをお借りしたのですが、移動日等による日程の間隔は不含の試合単位での連投数なため、間に移動日が挟まっていたとしても、連投は続いているという認識のもとで計算されている点はご了承ください。
まず連投数を確認すると、2018年は4連投or5連投が15度ある一方、2019年は5度と、消化試合数に違いはあるため単純比較は難しいですが、2019年の方が大型連投を防げていることが分かります。
同様の傾向が週間登板数の面でも確認することができ、週間4~5登板するケースが2018年の18度から2019年は8度と、消化試合数を考慮しても減少していることが分かります。
上記傾向の要因として考えられるのは、
①2018年の方が勝ち試合が多く、それだけ主要リリーフ陣が登板する率が高まった
②2019年の方がリリーフ陣全体の層が厚くなっているために、役割の入れ替えを頻繁に行うことで、結果的に負担を分散できている
という2点ではないかと思います。
①については、2018年の勝率.582を誇ったチームにおいて、2019年の勝率.524のチームより勝ち試合が増えるのは自明の理であり、状況別起用投手で確認したように勝ち試合には主要リリーフをつぎ込む運用方法であるため、連投数や週間登板数が増えるのは当然と言えましょう。
②については、レグナルト・菊池保則・中村恭平といった、2018年は一軍戦力ではなかった投手達の台頭があり、かつ勝ちパターンの変更推移を見ても分かる通り、中崎翔太のクローザー降格後に続々と各投手が故障や不調に陥ったことから、頻繁に役割の入れ替えが生じたことが、登板機会の分散に繋がったということです。
ですので、登板機会が分散されたことは、投手コーチ主導の負担分散を意図した登板機会管理というよりは、苦肉の策として頻繁に入れ替えざるを得なくなった結果、負担が分散したと解釈すべきというのが正直なところでしょう。
ということから、連投数や週間登板数といった登板管理を見ても、特に明確なルールに基づいているわけでもなく、投手コーチ変更で何か方針が変わったとははっきり言えないことが分かります。
最後に回跨ぎ数を確認すると、各投手の役割によって回数は異なるようで、ビハインドの場面で投じることの多かった2018年のアドゥワ誠、2019年のレグナルト、菊池保、中村恭平辺りはイニングイートのため、回跨ぎ数は増えています。
中崎や一岡といった、セットアッパーやクローザーといった役割を既に持っている投手は回跨ぎを行うことはほぼありませんが、フランスアは例外で先発もこなせるスタミナと圧倒的な球威を持っているためか、勝ちパターン内で役割を持っているにも関わらず回跨ぎ数は多くなっています。
両年を比較した際には、どちらも上記のような回跨ぎの傾向が見えるため、投手コーチが変わったにせよ、基本的方針は変わっていないことが分かります。
以上より、登板管理の仕方もほとんど変わっていないと言えるのではないでしょうか。
4.まとめ
・状況別起用投手比較
2018年、2019年ともに勝ち試合は勝ちパターンの投手、負け試合はそれ以外の投手といった起用方法
4点以上リードでも勝ちパターンの投手を起用する機会が多く、負担の分散や投手の成長への意識が希薄
・登板管理比較
2019年の方が各投手へ負担が分散しているが、新入団選手の活躍や不測の事態が生じた結果であるため、実質は2018年と大差はない
回跨ぎも、フランスアは例外として、勝ちパターンに組み込まれた投手は少なくなる傾向にあり、両年ともに同様の傾向が見られる
当初の実感通り、しっかり投手運用を振り返っても、投手コーチの交代による差ははっきりと見られず、起用法が一致している面ばかりが見て取れました。
ということから、何かと広島の投手運用については投手コーチの手腕がやり玉に上がりがちですが、実質の権限は緒方監督が保持しているのではないかとの推測が成り立つのではないでしょうか。
勝ち試合はこの投手で、負け試合はこの投手といったような、型にはめるような柔軟性を欠いた選手起用は、得点効率を無視して4番鈴木誠也を動かすことなく、3番の選手をとっかえひっかえしている野手運用面とも被る点が多く、疑念は更に深まります。
もしかしたら、投手コーチに全権を委任すれば幾分か改善された投手運用が見れるかもしれません。
ただ、それが実現するのはおそらく緒方監督がチームを去った後でしょうが‥