2020年広島二軍成績を振り返る~投手編~
先日野手の二軍成績について振り返りましたが、今回は投手についても同様に触れていきます。
各選手に触れていくため、長々となってしまいますが、最後までご覧いただけると幸いです。
※10イニング以上登板した投手で、投球イニングが二軍>一軍の投手のみを対象
67 中村祐太
二軍では開幕からローテを守り続け、一軍の先発不足を受けて9月中旬に昇格すると、全試合で3失点以内に抑えるなどきっちりゲームメイクし、一躍2021年の先発ローテ候補に名乗りを上げました。
一軍では好投を続けましたが、二軍では四球が非常に少なく球数を抑えながら投げ込んでた一方で三振奪取能力が低く、決して圧倒的な成績を残していたわけではありません。
それでも一軍で水準以上の成績を残せたのは、高速化が進み変化球は縦に落とすのが主流の現代プロ野球において、右のオーバーハンドから繰り出す130㎞台のストレートと横滑りするスライダーがメインという組み合わせが、一軍レベルの打者からすると異質で打ちづらさがあったという点があるのかもしれません。
このような投手の存在を見ると、単に二軍成績だけで一軍に通用するかしないか図るのは、難しいなと感じさせられます。
70 スコット
一軍では防御率15.75と散々な成績に終わりましたが、さすがに二軍だと被OPS.582と高い支配力を見せて、先発にも挑戦したことから2021年シーズンの契約も勝ち取りました。
ただ、先発での成績はリリーフでの成績と比べると大きく低下し、二軍レベルでもK%は6.3%、被OPSは.250も低下してしまっているのは、非常に気になるところです。
また、右打者に対しては得意のスライダーがよく決まるためか、K%が34.3%と圧巻の数値ですが、左打者に対してはそれが16.2%と半減し、被OPSも.100以上低下してしまっています。
ツーシームとスライダーの2球種で横に揺さぶっていく投球スタイルのため、持ち球の少なさ的にそもそも先発向きでなく、左打者への攻め手も欠けてしまいがちだったため、2年目でシーズン頭から先発に挑戦することとなる今年は、この辺りの対策ができていないと昨年の二の舞で終わってしまいかねません。
17 岡田明丈
佐々岡監督にリリーフ適性を見出され、本格的にリリーフに挑戦することになりましたが、OP戦時点から結果が出ず、シーズン中も制球に苦しんで自身初の一軍登板なしに終わってしまいました。
年々制球難の色が濃くなってきていますが、昨年はとうとう四球が三振を上回ってしまい、打者と勝負する以前に自分自身と格闘する姿は消えないままです。
この成績では論考しようにもできないのが正直なところですが、一時期150㎞に迫るレベルにあった平均球速も、今は140㎞前半がやっとというレベルなので、まずは球速を取り戻して多少の制球難をカバーできるようにしたいところです。
加えて、これだけの制球難だとゾーンに投げ込む感覚が薄れてそうなので、最初はゾーンに投げ込む感覚を練習段階から身に付けることを意識し、徐々にボールの強度を上げてもそれが可能かを試してほしいと思います。
今年は再度先発に挑戦するようですが、リリーフ時には制球が落ち着き、被OPS.485としっかり結果を残せていることから、まずはリリーフで自信を取り戻させるのも手ではないでしょうか。
48 アドゥワ誠
2018年にはリリーフとして53試合に登板、2019年は先発として14試合に登板と、役割が変わりながらもこの2年は一定の成果を収めてきましたが、昨年は不調に故障が重なり、3年ぶりに一軍登板なしに終わってしまいました。
元々三振は極端に少ないものの、長い腕がもたらすリリースポイントの近さや、独特のムービングファストとチェンジアップのコンビネーションでゴロを誘うタイプの投手で、インプレーが多い分そこそこ安打も打たれてしまいますが、昨年は左右両打者に対して被打率.300越えとそれにしてもよく打たれました。
その要因を考えるために、何か変化のあった指標を探ってみると、ゴロを打たせるタイプと言いましたが、昨年のGO/AOではフライ系の性質を示しており、ゴロを打たせることができなくなっています。
おそらくですが、昨年の春は球速向上を狙った取り組みを行っており、その折に自身最大の武器であるストレートのムービングが弱くなってしまい、打者側から対応されやすくなった可能性があります。
ですので、球速向上も投手としてのランクを上げるには必要だと思いますが、最大の武器であるムービングファストを取り戻し、一昨年までのゴロを誘う投球の再現を見たいところです。
13 矢崎拓也
シーズン序盤は2.5軍で制球力やスライダーの精度を向上させ、二軍でのリリーフ登板4試合でK%が80.0%を記録する驚異の投球で一軍昇格を果たしましたが、一軍では通用しませんでした。
しかし再降格後は先発に転向し、フェニックスリーグを通じても安定感のある投球を続けたことで、今年のローテ候補に名乗りを上げるところまで状態を上げてきました。
矢崎の課題というと制球になってくるでしょうが、先発時の投球ではBB%こそリーグ平均よりやや下なものの、140㎞後半のストレートを中心におおよそゾーンにボールを集められており、そこまで心配はいらないように思います。
またフェニックスリーグではカットボールやツーシームを新たに取り入れており、ゾーンに投げ込める感覚が掴めてきた分、小さく動かすボールへの挑戦というフェーズに移ってきてることから、段階を踏みながら徐々に成長している様子が窺えます。
課題としては、右打者に対して被OPS.135と圧倒的な一方、被OPS.847と攻略されていた左打者への対応や、極端なフライ系な分一軍では如実に出ていた一発長打での大量失点へのケアとなりそうですが、持ち球のスプリットに加えて上述のカットやツーシームといった高速の変化球がハマれば、この辺りの課題も解決に向かうのではないでしょうか。
57 田中法彦
ルーキーイヤーの一昨年は僅か4試合の登板に終わりましたが、身体もでき始めた昨年は一気に二軍のクローザーへと駆け上がり、最多セーブを獲得し、初の一軍登板を果たすなど充実の一年を過ごしました。
ストレートは140㎞前半~中盤とそれほど速くありませんが、強度のあるカーブでカウントを稼げたり、フォークやチェンジアップを低めに集められる制球力を持ち合わせるなど、総合力の高さで二軍の打者を牛耳り、被OPSを.482まで封じてみせました。
落ちる系のボールの質の良さからか、被打率.113/被OPS.318と左打者には圧倒的な強さを見せ、打球性質がフライ系の割には長打を浴びるシーンが少ないのも、1点が重くなる試合終盤を任せるのに相応しい投手と言えそうです。
高校時代はMAX152㎞のストレートが武器だったことを考えると、出力は更に伸びてもおかしくないですし、出力を順調に伸ばせれば、一軍リリーフの中での序列も上がっていくことは間違いないでしょう。
47 山口翔
プロ入り初先発であわやノーヒットノーランの快投を見せた一昨年から一転、昨年はフォームがなかなか定まらず2.5軍暮らしが続き、二軍成績も散々なものに終わってしまいました。
三振と四球が変わらない数と制球に苦しむ姿は変わらず、それでいて左右両打者に.300近く打たれて被OPS.844では、プラスの要素を見つけようにも見つけられない状態です。
ただフェニックスリーグでは、シュートライズするストレートで空振りを多数奪いながら、フォークもしっかり決まったことで、K%が29.4%を記録するなど復調の兆しを見せており、最後の最後に2021年に向けて希望を覗かせました。
広島投手陣の中では希少なシュートライズ型のストレートを持っているだけに、フェニックスリーグで見せたボールの強さを維持しつつ、逆方向に曲がるカットボールの習得や得意のフォークに磨きがかかれば、2年ぶりの一軍も夢ではないと思います。
同期の遠藤淳志に負けずとも劣らない素材だけに、2021年は期待しています。
58 藤井黎來
元々フォークに対する評価は高いものがありましたが、昨年は出力アップに成功したことで一気に成績は向上し、3年目にして念願の支配下登録と一軍初登板を掴み取りました。
フォークが鋭いことで奪三振能力には定評がありましたが、昨年はそこに一気に磨きをかけて、K%はクローザーの田中法彦をも上回る29.2%を記録し、被打率は僅か.148と二軍レベルの打者は寄せ付けない成績です。
特に左打者には被OPS.272と圧巻の成績で、縦スラやフォークを駆使して相手打者を抑えていく様はかつての今村猛を思い起こさせるものがあります。
ただ出力アップに成功したとは言っても、平均球速は140㎞前半から中盤と一軍レベルを意識するとまだまだ出力不足感は否めないため、一軍レベルでの活躍を意識するならここを継続的に鍛えていく必要があるでしょう。
16 今村猛
かつてのセットアッパーで、一昨年は球速が若干復活したことでプチ復活を果たしましたが、昨年は一転して一軍での防御率は12.46と低迷し、自己最低のシーズンを過ごすこととなってしまいました。
平均球速が前年から-2.6㎞と球速が大きく低下し、それ故か全盛期は25%超えを果たしたK%も、二軍レベルでさえ18.4%と奪三振能力の低下が気になるところです。
加えて、一昨年からスプリットの投球割合を減らして縦スラの割合を増やしたことで、左打者に対して攻め手を欠くシーンが増えているため、再びスプリットを磨くことで左打者相手の投球をより楽にすることも、課題の一つではないかと思います。
昨年体重を落としすぎて思い通りのボールがいかなかった反省から、このオフにはウエイトトレーニングによって再び身体づくりを行うことで球威向上を図っており、しっかり反省を生かしてきた今年はリリーフの一角に収まってくれることも期待できそうです。
34 高橋昂也
一昨年にTJ手術を受けて以降、地道なリハビリが続いていましたが、昨年とうとう試合復帰を果たし、防御率は4.18ながらFIPは2.48と内容はよく、フェニックスリーグでも好投を続けたことで、今年のローテ候補にも名前が挙がってくるほどの活躍を見せました。
この投手の良さを挙げると、空振りを奪える質のストレートとフォークのコンビネーションもさることながら、スライダーをバックドアでゾーンに入れたりクロスファイヤーを決められる確かなコマンド力も持っていることです。
それ故三振を多く奪いながらも四球を出さない投球が二軍でできているわけですが、一軍で活躍するのに今一つ足りないのは、各登板で最速が140㎞前半~中盤に止まる球威の部分です。
一軍レベルだと球威不足に陥ってしまうためにゾーン内で勝負ができず、3年前の一軍デビュー時にはBB%が14.5%と四球が増えて、一発長打を浴びるシーンも多く見られました。
このままだと3年前の再現となりかねないため、もう一段の球威向上を求めたいところですが、本人も球威不足を感じているようで、TJ手術後小さくなっていたテークバックを大きく取ることでスピードを上げることを示唆しており、それが上手くハマれば一軍ローテ入りも現実的になっていきそうです。
120 畝章真
畝龍実コーチの息子として注目されたルーキーイヤーでしたが、痛打を浴びるシーンが多く防御率8.71で被OPSは.996と、25歳の育成1年目にしては厳しい成績となってしまいました。
BB%はリーグ平均を上回る数値で、制球力に破綻があるわけではありませんでしたが、平均球速が130km中盤とプロレベルでは球威に乏しかったために、カットボールやツーシームでボールを動かしても長打を防ぐことができませんでした。
ですので、まずは長打を打たれないように、ボールを横ではなく縦に動かす必要があるでしょうし、最速142kmの球威の向上も欠かせないでしょう。
右のサイドスローの投手は、現広島投手陣の中だとこの畝くらいなので、支配下昇格に向けて上記の課題をクリアしながら、右打者に対して強みを見せていくような、一芸に秀でることが必要なのではないかと思います。
30 一岡竜司
今村と同様にチームを長年支えてきたセットアッパーですが、昨年は一時クローザーも任されたものの結果を残せず、二軍でさえも何とも言えない成績に終わってしまいました。
今村と違って決して球速が低下したわけではなく、むしろ自己最高の平均球速を叩き出しているくらいですが、ホップするストレートとフォークのコンビネーションが決まらず、空振りが以前に比べて奪えず苦労しているような印象です。
一軍でも二軍でもそうですが、球威が中途半端なフライ系投手となってしまっているせいか、非常に長打を浴びるシーンが増えてしまっており、大量失点を喫するケースも決して珍しくありません。
ストレートのホップ成分の低下や、フォークの落差が出てこないことがこのような成績低下を招いている可能性があるため、球質の部分のチューニングが必要なのではないかと思います。
まだまだ老け込む年齢でもないでしょうし、中崎翔太や今村とともに復活を期待したいところです。
46 高橋樹也
昨年は今永昇太に弟子入りを果たしたことで、球速の向上やスライダー系の変化球の質に変化が見られ、見事に開幕一軍の座を掴み取りましたが、その一軍の舞台ではこれといった強みを見せられず、結局二軍が主戦場となってしまいました。
二軍レベルだと、リリーフではK-BB%が25.5%と四球を抑えながら三振も奪えており敵なしの状況ですが、一つに気になるのがP/IPが18.1と1イニングあたりの投球数が多くなってしまっている点です。
決して被安打は多くなく制球も安定していながら、球数が多くなりがちなのは、打者を仕留め切れるボールが不足していることを表しているのでしょうし、実際高速化したスライダー系の変化球や元来の武器であるチェンジアップは、プロレベルだと必殺のボールとはなっていません。
まとまりはあるものの、パンチに欠けるために突き抜けきれない成績に終わっているのでしょうし、プロレベルで真に武器となるものを見つけられなければ、このまま埋もれかねないように思います。
64 中村恭平
一昨年は肉体改造や縦振りのフォームへの改造の成果が出て、最速156kmを記録する球界屈指のパワーレフティーとしてブレイクしましたが、昨年は故障が相次ぎ自慢のストレートの球速も低下したことで、二軍でも不本意な成績に終わってしまいました。
二軍レベルだと不本意な成績の中でも高い奪三振能力を発揮していますが、一軍だとK%が僅か9.1%と全く三振が奪えなくなっているのは気になるところです。
ストレートの平均球速が−4.3kmと大幅に低下しており、その分打者側からすると対応しやすくなったのでしょうし、一軍二軍両方でBB%が高くなってしまっていることから、球速の大幅低下で打者がボール球にも手を出してくれなくなった様子も窺い知れます。
今年は先発に再度挑戦するようですが、リリーフ時ほどではないにしろ軸となるストレートの球威はここでも当然必要になるため、改めて鍛え直してほしいと思います。
また、リリーフ時だとストレートとスライダーの2種類で押し切る投球でしたが、先発だとそうもいかないでしょうから、新たに習得中のカーブやチェンジアップの質が先発での投球クオリティーに大きく関わってきそうです。
147 コルニエル
9月に育成登録されると、二軍戦では登板10試合全てリリーフ登板を重ねましたが、フェニックスリーグでは先発に転向し、佐々岡監督が視察する前で好投を見せたことで秘密兵器と称されるなど、育成選手ながら今年の飛躍が期待される選手です。
リリーフ時の成績を見てみると、BB%がリーグ平均以上と決して四死球を多く与えて自滅するタイプではなく、ある程度まとまりのあるタイプであることが窺えます。
ただ左打者に対して、極端にK%が低下して被OPSは.300近く上がるなど苦手にしている様子で、ここは大きな課題と言えそうです。
それ以外で成績に特徴的な部分はありませんが、先発時はこのまとまりの良さが生きて、P/IPが13.1と球数少なく打者を打ち取り、防御率0.90と好投を続けました。
実際の投球を見ると、ストレートは平均で150km前後を記録する力強さがあり、そこに縦スラとフォークを織り交ぜていく投球で、コマンドに破綻がないため見ていて安心できる投手です。
ここに緩いカーブやチェンジアップを混ぜて、緩急や奥行きを使えるようになれば、面白い投手になりそうな感じはしますし、今年ブレイクを果たしてもおかしくない投手だと思います。
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