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僕らはコーヒー生産のことをどこまで伝えるべきなのか

こんにちは、川野優馬です。

少し前に、オーストラリアのアデレードに行ってきました。目的はワイナリー巡りです。

僕はコーヒーの仕事をしているので、コーヒー生産地にはよく行ってきました。エチオピア、ルワンダ、コスタリカ、エクアドル、インドネシア、ベトナム、、。コーヒーチェリーをつくる農家さんもたくさん訪問したし、コーヒーチェリーを精製してコーヒー生豆にする精製所もいくつも訪問してきました。

今回はじめてワイナリーに行って、ワイン生産者の話を聞いて、コーヒーの生産地との大きな違いを感じました。僕にとってはそれがとても新鮮で、考えるきっかけにもなったので、今日は産地のこと、産地の情報、というテーマで書いてみたいと思います。


語るワイン生産者

今回アデレードで2つのワイン生産者の元を訪問させてもらってきました。ひとつは日本のインポーターもまだついていなくて日本にも入ってきていない新しい生産者。もうひとつは日本にも入ってきてる生産者。どちらも本当に素晴らしくおいしいナチュラルワインをつくる生産者です。

どちらの生産者も、ワインをどうつくってるか、どういう経緯でワイナリーをはじめたか、それぞれのタンクや樽に寝ているワインたちがどんな状況か、どんな味わいを目指しているか、熱くたくさん語ってくれました。たまたま訪問させてもらった2人の生産者が語るタイプの生産者だったのかもしれませんが、本当に優しくなんでも教えてくれて、ワイン愛に溢れていました。

結局ワイナリーでは、そこにあるほぼ全種類と言えるくらいのワインを試飲させてくれました。「オーストラリアではこの品種はこんなイメージを持たれてるけど、俺はこんな味がいいと思っていて、こんな感じのワインを作りたいんだよ。」とか、「このサバニャンっていう品種の酸がいいんだよ、この酸味どうよ?」といったように情熱と共にいろんな話をしてくれてとても新鮮でした。

話してくれるからいい、とか、ワインの方がいい、コーヒーの方がいいとか、そんな話をしたいわけではありません。ただ、コーヒーの世界だと生産者がこんなふうに語ることはとても珍しいのです。

なぜかというと、いろんな理由が思いつくのですが、たとえば、生産や味づくりが分業制になっているということがあります。ワインの場合、自分の畑のぶどうを使う場合は、1人の生産者が栽培、収穫、醸造、瓶詰めまで行ったりします。ぶどうを買ってワインを作る場合でも、ぶどうの状態を見て、醸造、瓶詰めまで生産者が行います。

コーヒーの場合は、味づくりに関していろんな人が関わっています。まずコーヒーチェリーの農家さん。そしてそのチェリーを精製する精製所。精製設備は高価なため、農家さんが所有して自ら精製を行うパターンは少ないです。そしてそれでもまだ生豆の状態なので、消費国で焙煎するロースター、抽出するバリスタの関与があってようやく、1杯の美味しいコーヒーとなります。

最終的な液体としてのおいしさ、味を、ワインの場合は生産者が確かめてつくっているのに対して、コーヒーの場合は農家さんや精製所のメンバーがテイスティングすることは多くありません。テイスティングするためにはコーヒーは焙煎してカッピングという方法でテイスティングをすることになるのですが、どちらも専門的な技術と設備が必要になります。品質に対して意識が高かったり、セミナーなどお金を払って受ける余裕のある精製所のメンバーや一部の農家さんが焙煎やカッピングを学んで、品質を確かめることができますが、液体までの工程と技術が多く要するコーヒーでは作り手が味わいのイメージを持つことはかなり難しいと感じます。

だからこそコーヒーは、精製なら精製のプロ、焙煎なら焙煎のプロにそれぞれの工程は任せて、お互いフィードバックし合いながら、それぞれの仕事を全うするという形で成り立っている気もします。それもそれで、みんな一つの工程にプライドと責任を持っていて良いことかもしれません。

コーヒーのテイスティング カッピング

ほかにもワインとコーヒーの違いとして、ワインの場合先進国で生産が行われたりするのに対してコーヒーは発展途上国でつくられ、嗜好品の消費文化に違いがあるということもあるかもしれません。元ソムリエや元料理人がワインつくっているパターンがあるのに対して、コーヒーは元バリスタがコーヒー農家、元ロースターが精製をしているということはほぼ見られません。


生産者のことをどこまで伝えるべきなのか

ワインをつくる方々のお話を聞いて、僕はワインの味わいの楽しみが一気に広がりました。普段ワインを飲んでいても、樽で何ヶ月寝かしてとかこの品種でつくったとか、生産の情報を聞くことはよくあります。でもやっぱりどんな人がどんな場所で作っているかの情景まではリアルに思い浮かばず、情報が情報の塊としてある、という感覚でした。

今回生で生産の現場を見させてもらって、お話を聞いてからワインを飲むと、「この酸味がこの人が目指してる酸味か、確かにいい酸のバランスだなあ」といった感じで、液体から生産者の意図を感じられたり、液体を通してつくっている現場が思い浮かぶようになりました。情報が溶けているというか、馴染んでいるというか。

コーヒーでも農家さんが自ら精製して、焙煎とカッピングの設備も持っていて、味わいに意志をもってつくっている人の話を聞くとたまにリンクすることがあります。でもそのパターンは少なく、コーヒーの場合は農園は農園の美しい景色、精製は精製、という感じで作っている現場の景色という感じで、一貫した味造りの意図を感じるケースは珍しい気がします。だからこそ今回のワイン生産者のお話がとても刺激的に感じたんだと思います。

よくインポーター資料というものがあります。ワインでもコーヒーでも。インポーターがそのワイン、その豆についての情報をまとめた資料です。どんな環境でどんな人がどんな感じで作っているのか。品種や標高といった情報や、味わいのコメントまで。ぎっしり書くインポーターもあるし、シンプルな資料のインポーターまで様々です。

で、現地で見てきたこと、空気感、生産者の意思、人柄を、たとえばA4の資料1枚って決めてまとめるとなると、かなり難しいと感じます。リアルで見てきたすべてを文章にしたり写真で表現するには限界があります。なかなか僕が生で見させてもらったようなことを感じてお客様にワインを楽しんでもらう、コーヒーを楽しんでもらうということは100%はできないと思います。

そこで、今回のnoteのタイトルにあるように、僕らは生産者のことをどこまで飲み手に伝えるべきなんだろう、と思いました。そもそも伝える必要があるのかという所も含めて。

インポーターが切り取り渡されたその限られた情報から、どこまで飲み手に生産地にある膨大な臨場感とわくわくを伝えられるのだろうか。限界もあるし、ただ「おいしいな」でいいのかもしれないし。ルワンダに行って精製所の入り口で、精製所で働く人たちが踊って歌って迎え入れてくれた時の温かい気持ち、コーヒー農家さんが自慢気に自分達の農園を見せてくれた時に感じた感情も、精製所で感じるコーヒーの発酵の香りも、現地に行かないと感じられないことだったりします。飲む人にとってそれが価値になれば、コーヒーを楽しむ一つの側面になれば、例え現地で得られるリアルな感覚にはならないとしても、伝える価値はあります。僕はまずは冊子にしたり動画にしたり記事にして飲む人に見てもらうように、できる限りわかりやすく伝えて見ようと思っているのですが、とにかく飲み手が気軽においしいと感じてくれて飲み続けてもらえればそれで十分という考えもわかります。

産地を見ていろんなことを感じて、それをどう伝えるか。それがインポーターと、注ぎ手の仕事や価値基準にかかっています。産地のことにどう関わり伝えるのかということは、農作物から作るこの嗜好品の世界で、液体が美味しいかということと同じくらい、とても面白いことなんじゃないかなと思います。


川野優馬


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