我が家の庭の風景 part.103「春を告げる獣」
霧深い朝だった。
毎夜Alexaに明日の天気について尋ねている。
Alexaが答える最低気温は翌朝には更新される。Alexaの予想より毎朝の気温が1、2度低い。
1月の終わりには窓が凍るようになった。
霧深い朝は結露している。
その日はその深い霧が、早々に晴れた。
前庭に出ると外の水道のホースの水は凍っていなかった。
それほど寒くはないが、日中よほど気温が上がりそうだと思いながら水道の蛇口を捻った。
花壇に水をやると、放置している裏庭が気になった。父が好き勝手に野菜を植えて、食べきれないかぼちゃを打ち捨てている裏庭。
あまりに荒れて見たくなくなっていたが、少しは片付けなければならない。
明日からは雨の予報。
庭作業するなら暖かい今日にやっておかなければならないと思った。
一度家の中に戻り、勝手口から外に出た。
その日は我が家の二匹の猫たちが、あまり騒がず味気ない朝だった。
いつもはもっと朝に甘えてくれる。
荒れた庭を窓から眺めて何が楽しいのか。
つまらない観念した気持ちで、外に出ると視界の先に何かが横切った。
いつも俯き加減の私は億劫気に頭を擡げた。
我が家の庭ではどこからか通ってきている番の4匹の猫の家族がいる。
母猫は長毛でワンポイントほどの黒い縞模様が頭にあるほかはほとんど真っ白いから目立ってよく視界に入る。
人間には近づかないものの、人間を見るといつもすぐには逃げずに固まって観察している。
その白猫が横切ったのだろうと決めつけていたのだ。
ところがだ。
芽吹いた小松菜畑の中にいたものは黒っぽかった。いや、茶色にも見えた。
我が家の二匹の家猫は三毛と麦わら柄である。
どちらかの猫が逃げ出したかと一瞬心臓が痛くなった。逃げ出しても捕まえるのは造作もない。ただ外から通ってくる猫と喧嘩する可能性があるから、この冬は脱走させないよう細心の注意を払っていた。
しかし、それは猫ではなかった。
もっともこもこしていた。
いや冬毛が抜けかけていたのか、或いは疥癬か胴体だけトリミングしたような獣がいた。
たぬきだった。
我が家の庭にたぬきが来たのだ。
菜の花が綻んできて、花の芽やその下のみみずでも食べに来たのかもしれない。
見つけた時は嬉しかったのだ。
庭でたぬきを見たのは小学生以来だったので、スマホで動画に撮った時は可愛いなと夢中だった。
しかし、繰り返し見るうちに不安になった。
温暖化で日中の気温は1月終わりから、15度を超える日も多い。
冬毛が生え変わりで抜けかけていただけかもしれない。
しかし、やはり皮膚病だったのじゃないかという気がする。
すぐに死にそうなほどひどくは見えなかった。
しかし、我が家には長毛の母猫も通ってきている。その母猫も皮膚病のように見えるのだ。左足の毛が抜けている。
洋種でどこかの飼い猫に見えるからうちではどうにも手出し出来ない。
最近ますます暖かくなってきた。
うちの庭がダニの温床になっているのだろうか。そのダニのせいで猫もたぬきも皮膚病にかかったのか。
怖い。
我が家を棲家にしたら動物が病気になるなんてあんまりだ。
我が家は母も私も飼い猫のセミ猫も身体が弱い。
みんな病気になるとしたら、呪われてでもいるようだ。
あまり効果はないかもしれないが、出来るだけ今ある作物を引っこ抜いて、ダニ対策を施したい。
そして、いずれかの庭の動物が近づいてきたらば可能ならノミダニの薬をつけてやる!
ー獣から移るマダニは時に人間の命も奪う事がある。