「窓辺の猫」⑤ 引きこもる猫
あまり窓辺で黄昏なくなってしまった。
6月と7月。
夕方の見回りも熱心でなくなった。
日がな一日、私の部屋にいて、要求がある時だけ、ケージの上から降りてくる。
仕事の切れ目で、家に戻ってきた父が苦手なようだ。父が気の毒とは思わない。私もそうだから。
そんなに悪い人間じゃないのはわかっている。三毛のセミ猫は父に拾われたのだ。
子猫のときには、父の膝で眠り、父の肩に登っていた。
子猫の頃から賢かったセミ猫も、子猫の頃はもっと無邪気だったのだ。私もきっとそうなのだろう。
父が帰るとヒキコモってしまう。
九州男は、口調が乱暴で、放送禁止用語を日々連発し、声は大きく、くしゃみははばからず、いつも威圧的である。
根はいい人とか、そんなのは関係ない。
「ご飯が欲しい時は、甘えてみせるくせに、猫も勝手よ」
と母は言う。
それは、父は、気前よくいくらだって猫にご飯をあげるのだから、猫だってたまには愛想振りまきに行くだろう。賢いセミ猫は父に感謝していないわけじゃないのだ。家庭内の人間関係は、人間同様にわかっている。
それでも怖いものは怖いのだ。
撫でる手つきは乱暴で、大音量でテレビで格闘技を見たりする。酒臭く、たばこ臭い。
いつも散らかしている。
安心して近くで寝ていられない。
ついて行ってもご飯をくれるくらいしかいいことがない。
動物病院で採血される時より父のそばが怖い。いや、同じくらいというべきか。
その気持ちはわかる。私も病院はあまり好きではないが、それとは違う居心地の悪さがあるのだ。
申し訳ないと思っている。しかし、一緒にいると乱暴な態度に文句を言うことしかできない。猫もおんなじだ。
ほとんど私と一緒に畳部屋にいて、時には、子猫の頃のようにケージの中で眠る。
ケージの中が安全だと知っている。私のそばで、私と同じ平穏を望んでいる。
どうしたらいいんだろうね?と、猫いっぴきと人間1人で困っている。
後輩のトンボ猫は要領が良いいのかどうか、セミ猫が私にべったりだと母や父には前に行く。食いしん坊だから、節制させようとする私ではなく、他の家族に甘えるより仕方ない。それでも、時折、セミ猫に嫉妬するらしく、突然飛びかかっていく。どうせじゃれつくだけだろうとセミ猫と私が油断していると、ガブっと頭に噛みついたりする。セミ猫が慌てて反撃し、私も慌てて止めに入る。
困ったものだ。父もトンボ猫も。
もう少し穏やかに暮らしてくれないだろうか。
梅雨時から怠惰になって、庭作業が進まない。セミ猫も窓の外を眺めるのが、楽しくなさそうだ。窓の外を見ると、時折外猫がやってくるのも気に入らない。唸って怒るのも疲れるのだ。私もやきもきする。
困ったね、疲れるね。お互いを労りながら、一人と一匹。