いらいらすることばかり
私を阻んでいるものが自分自身ではないと感じることがある。
それは、母であったり、環境であったり、時に猫であったりする。
三毛のセミ猫が私が退院して以来、ごはんのおねだりがひどくなった。
太ってしまったのは、同居のトンボ猫なのに、大していらなくても鳴くのである。
しつこくていらいらして、とうとう部屋から閉め出して、別の部屋に移動させた。そうすると大人しい猫なので、鳴き続けるということはないのであるが、ただしょんぼりと寝ているのだろうかと思うと胸が痛んでくる。
セミ猫にしてみれば、帰ってきたときこそ気のない振りをしていたが、一番構ってくれる人間が戻ってきて、より快適な生活が送れるかもしれないと期待したのかもしれない。
しかし、実際にはごはんの催促をしてもくれないし、構ってほしい時にタイミングよく構ってくれない。
それどころか、寝てばかり。不満が溜まっているのだろう。
セミ猫は人間のいる場所でごはんを食べるのが好きである。皿を引きずってくるくらい人間が食べている時に一緒にごはんを食べたがる。
その代わり、人間のごはんに手は出さないのだ。
もらったごはんもトンボ猫に譲る。
ただ人間が食べているときは自分も食べたい。
人間の真似をするのが大好きなのだ。
我が家の庭に冬の終わりから猫がよく現れるようになった。
不妊もしてあるし、どこかの猫であろうと思うが、その中の1匹にセミ猫が唸るというより吠えて追い払っていた。すぐに窓から離れなかった相手の猫も悪いと思って見れば、その猫、頭のところが爛れていた。
毛足の長いほとんど真っ白の猫で、外で生活するのは無理じゃないかと思っていた。
捕まえようにも警戒心が強い。まさか地域猫じゃないだろう。
それにしたって、弱っている猫に強気に出て八つ当たりするなんて思いやりのないセミ猫である。
同居のトンボ猫を迎え入れたことを後悔しているのか。
それにしては、くっつきはしないもののトイレを教えたり、ごはんを分けたりと猫が猫を飼っているのかと思えるほどのいじらしさだ。
最近は遊びに誘ったり、脅かしたりしてもトンボ猫が泰然として、「どうせ本気で怪我させる気はない」と相手にしないので、セミ猫ががっかりしている。走り回るには太りすぎてきたのだ。
セミ猫とおもちゃで遊んでいるとトンボ猫が横入りしてくる。
そうすると、セミ猫は譲ってしまう。
立場が逆転したわけではないと思う。美味しいウェットフードなどは譲らなくなった。どつかれたくないトンボ猫はセミ猫が食べ残さないかとそばで待っている。
寝る時に引っ付かれたくないセミ猫は、やはり近づかれるとどついて追い払っている。
争いを好むわけではない。自分のペースやテリトリーを侵されることを好まないだけだ。
セミ猫は誰かに合わせたくない。相手を尊重することは知っている。それでも、超えられたくない一線が狭く低いのは否めない。
我慢はできる。動物病院ではとても良い子だ。ただ、構うな近づくなと言っている。そして、自分のペースには合わせろと。
セミ猫のプライドの高さは自分を映す鏡のようだ。
似ているから互いにいらいらするのだろう。分かり合えるはずなのに、タイミングがすれ違う。
ごはんの催促をし続けるセミ猫をかわすために、おもちゃで遊んでやると例によってトンボ猫が突撃してきた。すると、セミ猫は譲ってしまう。トンボ猫を閉め出して遊んでやると、こちらの体力がもたなくて満足はしなかったらしいが、溜飲が下がったらしく、ごはんの催促はやめてくれた。
トンボ猫を部屋に戻したら、私にすり寄ってきたもののそれをじっと見ながら間に入ろうとはしなかった。
思う存分食べられないと、イライラするよね。
かといって、もらってもそんなに食べられるわけじゃない。
よくわかるんだよ。でもね、あなたがイライラするとこっちもイライラすることをわかってほしいな。分かっていても、我慢できないのもわかるけどね。