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我が家の庭の風景 part.117 「歪(いびつ)」

 きれいなイチゴが不穏なんです。傷のないイチゴと言うのは、虫にも庭に居着いた飼い主のいない猫たちにも、齧られなかったということです。
 日当たりは完璧。けれども先の方が少し白いような気がします。猫に食べられたいちごは顎から赤くなりました。頭から赤くなったいちごは栄養不足なのではないのでしょうか。
 苗の種類が違っていて、顎先から赤くなったイチゴの方が地面に葉っぱがへばりつき枝も這いつくばって伸びています。頭から赤くなっていくイチゴは枝が天に向かって伸びるので、高々と掲げられた実は全方面に光が当たります。猫や虫に食べられた方のイチゴの味は分かりません。でも、そっちの方が甘くてみずみずしくておいしかったんだろうなと思うのは、隣の芝生が青く見える心理なのでしょうか。
 見た目のきれいにできたイチゴも収穫するといつの間にか家族が食べてしまっているので、私の口には入っていません。私が今年食べたのは、まだ物産館で買ってきたいちごだけです。
 我が家のイチゴはおいしいでしょうか。甘いのでしょうか。猫も虫も知っているその味を私はまだ知りません。

 実は毎年柿や他の野菜だってそうなのです。きれいにできたものは、いつの間にか家族が食べてしまっている。一番おいしい柿の木の柿は鳥が食べつくしてしまいます。別にいいか、私はおなかが弱いから柿なんて毎年一つくらいしか食べられないんだもんとあきらめたことを言いながら、毎年一つはその柿が食べたいと探してしまいます。そして、鈴なりの富有柿には手をつけないまま。

 だんだんと天気が不穏になってきました。毎年梅雨前から体調がおかしくなってきます。ここ10年ほどは5月には肌がただれるような湿疹が出て、体がだるくなってしまいます。人間関係のストレスとか私には関係ないのです。もっと些細なことで心が乱されます。イチゴや柿が一個収穫できただけで心は軽くなり、たばこの臭い一つで胃の腑が熱く燃え上がる。
 食べられなかったイチゴのことを思えば、私の気持ちは暗くなるよりも明るくなります。
 ふふふふ。私が育てたイチゴはおいしかったでしょ?と大した手間もかけていないのに、ほかの生き物たちに自慢したいような気持になるのです。誰の口に入ってもいいから、まだまだイチゴが生り続けることを望んでいます。冬越したイチゴの苗。これからどんどん広げて、裏庭を毎年イチゴ畑にするのです。

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