コーチのためのスポーツ心理学⑮アスリートのリーダーシップを育成する
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アスリートにリーダーシップを身につけさせることは、チーム全体の成功に直結する重要な要素です。
これまでのnoteでは、コーチのリーダーシップの重要性を強調してきましたが、実際にはアスリート自身のリーダーシップ能力がチームにインナー・エッジをもたらすことがあります。
スポーツにおける歴史的な偉業を達成したチームを分析すると、個々の才能だけでなく、チームを率いたアスリートリーダーの人格やリーダーシップが成功に大きく寄与していることが明らかになっています(Walker, 2017)。
今回のnoteでは、アスリートのリーダーシップ育成に焦点を当て、効果的なリーダーシップの特徴やその育成方法についてまとめていければと思います。
私自身の修士論文においても、このテーマで論文をまとめたので、書きたいことなどは色々とありますが、参考文献に記載されていることを中心にまとめていければと思います。
自身としても興味がある分野なので、また番外編などでもまとめていきたいなと思います。
効果的なアスリート・リーダーの特徴
労働倫理
まず初めに、アスリートリーダー(アスリートの中のリーダー)には、強い労働倫理(work ethics)が不可欠だとされています。
労働倫理(work ethics)は、チームの成功に必要なあまり目立たない仕事を進んで行う能力を含んでおり、これはサーバント・リーダーシップに関連しています。
サーバント・リーダーは他者を支援し、チームの成功のために自ら進んで役割を果たします(Bucci et al., 2012)。
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また、リーダーとして模範を示すことも重要なスキルです。例えば、NHLのキャプテンは、「全力でプレーすることがリーダーシップを発揮する最善の方法だ」と述べています(Camire, 2016)。リーダーは他のメンバーに対して自らが手本を示すことで、チーム全体に影響を与えます。
競争心/粘り強さ
アスリートリーダーのもう一つの重要な特質は、競争心や粘り強さです。
たとえば、アメリカ女子サッカーのキャプテンであるカーラ・オーバーベックは、63試合連続でフィールドから離れることなくプレーし続けました(Walker, 2017)。
このような姿勢はチームメイトにとって大きなインスピレーションとなり、チーム全体の士気を高めます。また、NFLの元ラインバッカーであるレイ・ルイスは、その存在感だけでチームの雰囲気を一変させる「温度リーダー」として知られていました。
このように、リーダーシップはプレーの質や競争心だけでなく、チームのメンタリティにも大きな影響を与えます。
コーチとして
個人的には、選手の中でチームのために最もハードワークできること。というのがアスリートリーダーに求められる大きな要素なのではないかと考えています。
その中でもフォーカスされがちなのは、プレイヤーとして(例えば、キャプテンやチームのエースとして)チームのパフォーマンスに見えやすい影響を与えるためのハードワークができる選手がリーダーとして考えられがちですが、そのような選手だけでなく、チーム運営やチーム内の人間関係を円滑にするためにハードワークできる選手もアスリートリーダーになりえるのではないでしょうか。
これまでまとめてきたようなコーチのリーダーシップもコーチ自身、またチームに応じて効果的なリーダーシップは異なっていましたが、アスリートのリーダーシップに関してもさらに複雑に色々なリーダーシップの形があるということをコーチとしては、覚えておくべきではないでしょうか。
アスリート・リーダーの育成方法
リーダーシップは生まれ持った特質だけではなく、育成することが可能です(Duguay et al., 2016)。(遺伝によるという研究結果もあるらしい)
アスリートのリーダーシップは、模範を示す静かなリーダーや、積極的に仲間を支援するリーダー、そして公に仲間を鼓舞するリーダーなど、様々な形で発揮されます。
以降では、アスリートにリーダーシップを身につけさせるための具体的な方法についてできるだけ簡単にまとめていければと思います。
リーダーシップに対する対話を促進する
まず、コーチはチームのキャプテンやリーダー候補と話し合い、リーダーシップの期待や役割について明確にすることが重要です。
この対話を通じて、チーム全体でリーダーシップに関する共通の認識を持つことができ、チームの目標に沿ったリーダーシップを発揮する土壌が整います(Janssen, 2004)。
リーダーシップの「層」を作る
アメリカ女子サッカーの元コーチ、トニー・ディチッコは、リーダーシップを「層」として捉え、選手たちに様々なリーダーシップの役割を経験させるといった取り組みを行なったそうです。例えば、練習時に選手同士で小グループを作り、それぞれがリーダーシップを取る機会を設けることで、選手全員がリーダーとしてのスキルを身につけることができる環境を作るといった取り組みです(DiCicco & Hacker, 2002)。
リーダーシップを育成するプログラムを導入する
多くのスポーツチームは、リーダーシップを育成するためのプログラムを導入しています。これには、キャプテンが定期的にミーティングを開き、自分のリーダーシップについてフィードバックを受ける仕組みや、週間モニタリングシートを活用してリーダーシップの進捗を記録する方法があります(Janssen, 2004)。これにより、キャプテンは自分の役割やチームの進展を客観的に評価し、成長するための指針を得ることができます。
リーダーシップの実践機会を与える
選手にリーダーシップの役割を与える際には、実践の場を設けることが重要です。練習の一部をリーダーシップ訓練に割り当て、選手同士でウォーミングアップを主導させる、あるいは競技ドリルのリーダーとして役割を与えることで、選手が自然にリーダーシップを発揮する環境を作ります(DiCicco & Hacker, 2002)。
サポートと挑戦のバランスを取る
リーダーシップを発揮する際、アスリートリーダーはチームメイトに対してサポートと挑戦をバランスよく提供する必要があります。あるコーチはこれを「プル・ケア・プッシュ・リーダーシップ」と表現し、リーダーは仲間を引っ張り、支援し、必要なときには背後から押し進める役割を果たすと述べています。このようなバランスが取れたリーダーシップが、チームのパフォーマンスを最大化するための鍵となります(Camire, 2016)。
まとめ
以上は、参考文献の記載を簡潔にまとめたものになります。
リーダーシップは複雑であるが故に上記記載のものが必ずしもリーダーの育成に効果的であると断定はできませんが、これらのエッセンスから自身のチームや指導に活かせるようなエッセンスは十分に学習できるのではないでしょうか。
リーダーシップの強要は避けるべき
リーダーシップは適切な訓練とサポートによって育成できるものですが、コーチは特定の選手にリーダーシップを強要しないよう注意する必要があります。
特に戦術的に重要なポジションにいる選手(例:バレーボールのセッターやバスケットボールのポイントガードなど)は、自然にリーダーシップを期待されがちです。しかし、その選手の性格に合わないリーダーシップ・スタイルを押し付けることは、本人のパフォーマンスだけでなくチーム全体の調和を乱す可能性があります(Camire, 2016)。
リーダーシップを強制されることで、選手がプレッシャーを感じ、パフォーマンスが低下することがあります。
そのため、リーダーシップを期待する際には、選手自身がリーダーシップの役割に納得し、自らの役割を理解できるようサポートすることが重要です。
また、リーダーシップは一度に全てを身につけるものではなく、段階的な成長が求められます。
リーダーシップのスタイルに正解はないように、リーダーシップの育成にも公式のようなものはありません。コーチは、様々なリーダーシップのスタイルや育成方法・成長過程があるということを念頭におきながら、口出ししたくなる気持ちを抑え、選手に忍耐強く接し、成長の過程を見守ることが大切なのではないでしょうか。
結論
アスリートにリーダーシップを身につけさせることは、チーム全体の成功を左右する重要な要素です。
強い労働倫理や模範を示す姿勢、そしてチームメイトをサポートする能力が、効果的なリーダーに求められる特質です。
コーチは、選手のリーダーシップを育てるために実践的な機会を提供し、フィードバックを通じて成長を促進する役割を果たします。また、リーダーシップを強要することなく、選手自身が自然にリーダーシップを発揮できるような環境を整えることが重要です。
リーダーシップを持ったアスリートは、チームにとってかけがえのない存在となり、インナーエッジを提供することで、チームのパフォーマンス向上に大きく貢献します。
もちろん、これまでのnoteでもまとめているように、コーチのリーダーシップというものはロールモデルとしてアスリートに大きな影響を与えるので、効果的にアスリートのリーダーシップが育成されるためには、コーチとしてのリーダーシップスキルの向上も必須です。
自身のスキルも伸ばしていきながら、選手のリーダーシップの育成を促進し、選手と共に成長していけるコーチでありたいなと思います。
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