【教材研究のお供に一冊】#5 『化学・生命科学系の物理化学』(東京化学同人)
この【教材研究のお供に一冊】というマガジンでは、高校の理科の授業準備・教材研究でお役に立つような本をご紹介するつもりで立ち上げていました。
しかし、諸事情によりこのシリーズの執筆が追いつかず、しばらくの間放置致しておりました。
楽しみにされていらっしゃった方におかれましては大変申し訳ございませんでした。
さて今回は、私が大学時代に履修した物理化学の参考書をご紹介。
2003年に出版されたRaymond Chang先生による『化学・生命科学系のための物理化学』
中身はガチガチの大学の化学の教科書で、出版してから時間が経っていますが、高校化学だけでなく生物・物理・地学にも活用できるところが結構あります。
ということで、高校の理科の先生に向け、教材研究にどう活用するかも含めて、この本の紹介をつらつらと綴って参ります。
内容
物理化学というのは化学の一分野ですが、物理学の考え方を活用して、化学反応や物質の性質を理解していく学問でございます。
(章だけですが)この本の目次は以下のようになっております。
惹かれたところ
1.生命現象との関わりについて深く触れている
この本がそもそも生命科学を専攻する学生向けにも書かれていることで、生命現象を定量的に説明しております。
この本で扱われている生命現象の例
ATP(=アデノシン三リン酸)を介したエネルギーのやりとり
呼吸と光合成
酵素反応
酸素と二酸化炭素の輸送
酸素とヘモグロビンの結合
タンパク質の構造
この他にもいろいろございます。
高校生物の教科書では定性的に扱われていることで、表面的に知る程度で終わるような単元もありますが、教える立場として深みのある授業を自信をもって行えるところにつながるかもしれませんよ。
私自身は現在に至るまで10年ほど生物の授業を担当していますが、直接は役立たないにしても、安心材料になったりしました。
また、別の見方としては、生命現象を扱っていることで、従来の物理化学の教科書で綴られていることが具体的にイメージしながら化学的な現象や事柄を理解することにもつながります。
余談ですが、本年度に私は化学で酸と塩基の電離平衡について授業を行いました。
これまでの授業では淡々と酢酸とアンモニアの電離平衡を表面的に説明してきただけでしたが、この本に書かれていた血液中の酸素と二酸化炭素のやりとりを絡めてみたら、結構生徒の食いつきがよかったように思えます。
2.光エネルギーと環境問題の関係
この本の18章「光化学と光生物学」では大気汚染、光化学スモッグ、温室効果ガス、オゾン層破壊などの地球環境問題について触れています。
大気に関する環境問題は高校化学だけでなく地学でも扱っていますが、光と気体の関係からスッキリと説明されています。
光については主に物理学で扱われてきましたが、化学反応、生命現象、地球規模で起こる現象にも大きく関わっていて、人類の生存にも繋がっていることが垣間見えました。
3.物理化学の中でも幅広い分野を網羅している
私の偏見かもしれませんが、物理化学といえば「化学熱力学」「反応速度論」「量子力学(化学)」というところに目がいってしまい、そうした専門書が単独で多く出版されている感じがします。
しかし、この本では固体・液体・溶液・高分子についても網羅し、なおかつそれぞれの分野を丁寧に扱っています。
さらに言えば、この本は高校化学だけにとどまらず、物理・生物・地学で扱う単元をも扱っています。
新しい視点から教材研究を深めるのに役に立つかもしれませんよ。
注意点・・・読み込むには根気が必要
この本は大学で化学・生命科学を専攻する=専門にする方のための教科書ということもあり、パッと見てすぐわかるといった代物ではありません。
字が小さい
図がやや少ない
ややこしい記号や数式が散らばっている
こういった難点もあります。
しかし、他の学術書と比べると、文章の内容はわかりやすい方です。
ややこしい記述が出てきたら、数式を解いたり図解したりすることなどで、手を動かしながら理解しなければならないことはあるでしょう。
ただ、高校の教科書や資料集だけでは記述が曖昧なところをきちんと明確にするために、じっくり読み込み理解することで、この本は教材研究に役に立つと思います。
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