生物基礎「植生とバイオーム」雑考
現行の高校の教育課程から突然登場したバイオーム(生物群系)。
私自身、生物基礎の授業をした際に教えたことが2回ほどあり、率直に思った印象。
「面白くない」
「何でこの単元あるの?」
ただ、そんな風に思える単元でも、何かしらの位置づけがある(できる)はず。
面白く、中身のある授業にするにはどうすればいいか、いろいろ考えてみたことをつらつらと。
単元の構成と問題点
現行の教育課程で、生物基礎は次の大きな単元から構成されている。
1.生物の特徴(生物の多様性と共通性・細胞・代謝の基礎)
2.遺伝子とその働き
3.生物の体内環境
4.植生とバイオーム
5.生態系とその保全
これらの単元を眺めてみると「共通性と多様性」「ミクロからマクロ」という見方が軸となっている。
また、植生とバイオームは次の単元で構成されている。
・植生の成り立ち
・植生の種類
・植生の遷移
・世界のバイオーム
・日本のバイオーム
ただ、現行の教育課程全体では生物基礎→生物という流れの中で、同じような単元を繰り返して学びを深めていくという構成になっているせいか、それ自体どうしても断片的な内容に思える。
さらに、この「植生とバイオーム」の単元については、教科書で示されている内容が断片的で、知識のつながりがわからない。
だから「バイオーム=暗記物」と思われている先生方も生徒も多くいらっしゃるのではないだろうか。
単元理解のカギは植物の生育・気候・土壌
そもそも、植生とバイオームという単元名になっているので、中心に捉えなければならないのは植物。
しかし、教科書によっては、植物のからだのつくりや働きなどの基本知識が記されていないものもある。
あるいは、記されていても参考程度の扱いになっているだろう。
私の指導経験上、この植生とバイオームの単元については、こうした参考程度に扱われがちなところが、実は非常に重要な前提知識を担っているのではないかと思う。
1.植物の体のつくりと働き
これは中学校でも扱っているというのもあるだろうけど、それだけでこの単元の内容理解には不十分。
せめて、高校の教科書に掲載されているくらいの内容は知っておかなければならない。
特に、樹木の葉(広葉と針葉・常緑と落葉)、草本の葉(広葉型とイネ科型)については光合成や水分保持に大きく関係するところ。
私の指導経験上、これを前提知識として身につけておけば、教科書に掲載されている光合成曲線や植生の相観について理解しやすくなる。
2.気候
教科書を見てみると、世界と日本のバイオームを扱う中で、いきなり気候帯についての表記が出てくる。
(ちなみにこの単元で扱う気候帯は、寒帯・亜寒帯・冷温帯・暖温帯・亜熱帯・熱帯)
これはおそらく中学の地理ですでに学んでいることを前提としているのだろう。
しかし、多くの生徒が覚えていないというのが現実だと思う。
3.土壌
小中学校の理科および高校地学では大地や地質は扱っているものの、「土壌」については扱っていない。
「土壌」=岩石が風化・分解してできた粒子+植物の生育に必要な栄養分+有機物の集合体といっていいだろう。
世界にはさまざまな植生があるが、土壌の性質によってその姿が大きく変わる。
また、土壌を通して植物の栄養と生育について考え、それが炭素循環や窒素循環の学習にもつなげられる。
このあたりは授業では紹介程度にとどめられる、あるいは授業で割愛されるところになりやすいかもしれないが、深く学んでおきたいところ。
※教科書によっては水辺の植生についても扱っているが、陸上の植生との比較をするというところで面白い。
植生・相観・バイオーム
この単元では一つ根本的な問題がある。
それは教科書によって「植生」「相観」「バイオーム」の解釈が曖昧で、記述のしかたが異なっているところ。
正直なところ私も理解に苦しんでいる。
私なりにはこんなふうに解釈をしてみたが、これでいいのだろうか?
「植生」=植物の集まり
「相観」=個々の植生をまとめて捉えた様子
「バイオーム」=世界の各地域による相観の違い
この単元の面白さ
この記事の冒頭に「面白くない」「何でこの単元があるの?」などと綴ったものの、よくよく振り返ると面白いところはある。
1.植物の捉え方
旧カリキュラムの「生物Ⅰ」で植物の生理について扱われていた。
この中では光合成曲線だけでなく、植物の成長段階ごとに働く植物ホルモンの役割などが扱われていた。
どちらかというと、植物を1株あたりで捉えていた感じ。
そして「生物Ⅱ」で植物群落(現行課程のバイオームに当たる用語)という集団で扱っていた。
しかし、現行課程では植物をいきなり植生という集団で扱っているので、これまでの指導経験からすると斬新なように思える。
ひょっとしたら私だけかも?
2.他科目との関連
先日某書店で地理学の本を何気に開いてみたら、生物基礎の教科書以上に植生・気候・土壌の関係について詳しく記されていたことに驚愕。
その後に高校地理の資料集を見てみたら、地図・写真・月ごとの気候のグラフと植生の関係を表していたのでさらに驚愕。
また、地学基礎の教科書で扱われている程度の地質・気候についても知っておくと、この単元の理解はさらに深まる。
挙げればきりがないが、この単元の意義について一つ言えること。
「植物を通して地球を捉える」
まとめにしては大げさすぎる表現だろうか。
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