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祖父のゲームボーイ(後編) 〜芥川裕の洒落にならない怖い話・不思議な話・奇妙な話〜
祖父の通夜の時、祖母が私の近くに座りこのように話してくれた。
「〇〇さんは最後まで楽しそうだったわよ。最後に生き甲斐ができたみたいで、本当は一か月前くらいにお医者さんから覚悟しておいて下さいって言われたのにゲームをやり始めてから、またちょっと体調も良くなってね。最後はやりたい事をさせてあげられてよかったかな、ありがとうね」
そう言った後の祖母は悲しそうな表情に少しだけ笑みを浮かべていた。
通夜と葬儀は滞りなく進み、葬儀の後に祖父の遺品整理が行われた。
遺品の中から祖母がゲームボーイを手に取ると、「これ持っていく?」
と私に聞いてきたが、私は祖父が大事にしていた事を知っていたのでそれを断った。
しかし、祖父がどこまでsaga3を進めていたのか見せて欲しくて、ゲームボーイを起動させてもらった。
すると、まだまだ序盤の方までしか進んでおらず、祖父があまりプレイ出来なかった事がわかり少し悲しかった。
私はソフトも含め、祖父が最後まで楽しんでいたゲームボーイを祖母に持っていて欲しいと伝えると、祖母は丁寧に箱に入れてから、押入れの奥にしまい込んだ。
私はそれからも気に入ったゲームボーイのソフトがあると墓参りの時に持参し、墓前で言葉には出しはしないが手を合わせて報告していた。
それから時が経ち、今から約十年前に祖母が亡くなった。
私の職場は祖父母の家から離れているので、通夜に参列する事は叶わなかったが葬儀には参列する事ができた。
大往生の祖母は皆に好かれていたので、久しぶりに見る親族も多く来ており、葬儀は和やかに進んだ。
葬儀も終わり親族達で祖母の遺品整理を行っている時、私は兄弟や従姉妹と居間でテレビを見ていた。
すると、仏間の方から母親に呼ばれた。
「これ、覚えてる?」
と祖母の遺品から見せてきたのは、ゲームボーイだった。
箱を見た瞬間に祖母が押入れに仕舞い込んだ光景がフラッシュバックする。
ゲームボーイを箱から取り出すと当時のまま、saga3のソフトが入っている。
母親に
「懐かしいな。このソフト爺ちゃんに貸したら爺ちゃん喜んでたな」
と言いながらゲームボーイの電源を入れたが、もちろん電池は既に切れており、そのまま電源は入らなかった。
叔母さんが
「居間に新しい電池あるよ」
と言って電池を取りに行ってくれた。
ゲームボーイはあの日のまま箱に入れて保管されていたため、新品とまではいかないがとても綺麗な状態だった。
叔母が持ってきた電池を入れようと電池蓋を開けると、電池は少し液漏れしていたが新しい電池に交換すると正常に起動し、画面に懐かしいゲーム画面が映しだされる。
ソフトの電池は切れておらず、祖父のセーブデータはまだ残っていた。
セーブデータを選択すると、あれと思った。
ゲームの主人公達のいる場所がラスボス前だったのだ。
データを見てみるとラスボスにも楽に勝てそうな程やり込まれている状態である。
当時を思い出してみても、祖父の葬儀の時に見た時はそこまで進んでいなかったはずなのに不思議だった。
母や叔母に
「婆ちゃん、ゲームボーイやってたの?」
と聞いたが、二人とも首を振って、母は
「お母さんはゲームは出来なかったと思うよ。たぶんゲームボーイの使い方もわからないんじゃないかな」
と言い、叔母もその言葉に頷く。
居間に戻り祖父のセーブデータで久しぶりにプレイしてみるが、操作方法は覚えていたのでラスボスを倒す事ができた。
という事はこのセーブデータはラスボスを倒したのであろう。
しかし、ゲームをプレイしたであろう人間が想像出来なかった。
祖母は祖父が亡くなってから一人暮らしだったからだ。たまに親族が訪ねて来る事はあっただろうが、物置の奥のゲームボーイを使わせる事は想像しにくい。
結局、誰に聞いてもプレイした人物は分からず、何故ゲームの進行が進んでいたのかも分からなかったが、私の中では亡くなってからも祖父がプレイし続けていたと信じている。
そして、そのゲームソフトは返してもらい手元にあるのだが、数年前に起動した時にはセーブデータは消えていた。
祖父が″最後までクリアしたぞ″と私に伝えたかったのかなと思う。
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