柴又100K リタイア&完走記(4) 100kmの部 初挑戦 後編
バスを待つ
65km過ぎでリタイアした柴又100k。そのエイドには、ほかにも4、5人ほどリタイアした人がいました。みな疲れ切っているのと、悔しさを感じていたのだと思いますが、互いに言葉を交わすことはありませんでした。スタッフさんから「収容のバスが来るまでしばらくかかります」と言われたので、テントの端で日差しを避けながら体を休ませることにしました。そして20分、30分…。バスはまだ来ません。運営スタッフがときどき携帯電話でどこかに連絡を取りつつ、申し訳なさそうに「もうしばらくお待ちください」と声をかけてきます。
スタート前から体調がイマイチで無理をしないように走ってきたので、足には何か所も痛みが走りだるい感じもあったものの、体力的にはまだ少しだけ余裕がありました。小腹も空いてきたので、走っているときにはあまり食べる気にならなかったナッツ類をリュックから出して栄養補給をしました。そんなことをするうちに、リタイアしてバスを待つ人が10人以上に増えてきました。そして、待ち始めて約1時間以上過ぎ、ようやくバスが姿を現しました。
バスで移動
待ちに待ったバスに乗り込み、これでようやくゴールに帰れると安堵しました。当たり前ですが、バスはランナーが走る河川敷の道ではなく一般道を走ります。意外と道が混んでるなとか、スマホで地図を表示して結構迂回するんだなとかぼんやり眺めていると、バスがゴール方面ではなくコースの途中の方向に戻っていきます。あれっと思っている間にバスは別のエイドのようなところに入っていき、そこで停止しました。そして乗っていたリタイア者たちは、皆そこで下ろされることになりました。
バスを待つ②
そこで聞いた説明によると、今まで乗ってきたバスはこのエイド兼救護所までしか行かず、そこから先は別のバスに乗る必要があるとのこと。この救護所には、他のエイドでリタイアした人も運ばれてきます。だんだんと人の数が増える中、再び長い待ち時間が始まりました。時間はもう夕方、日差しが弱まり風が強くなってきていました。先ほどのエイドではできるだけ暑さを避けるようとしていましたが、今度は体を冷やさないことを考えなければなりません。
元々体調がイマイチだった分、私はリタイアや途中で走れなくなってしまうこともあり得ると思って、着替えや多少保温性がある長袖のベースレイヤー、極薄のウインドブレーカーをリュックに入れていました。エイドは河川敷の吹きっさらしの場所にあります。太陽が沈んでいくにつれて一気に体感温度が下がってきたので、レース中に着ていたシャツをすべて脱いで着替え、ウインドブレーカーまで着込むことにしました。それでもまだ寒かったぐらいですから、そうした衣類を持たずに半袖短パンだけでリタイアした人は本当にツラかったのではないかと思います。スタッフの方が保温用の銀色ブランケットを配ったりしていました。また、途中で待機テントに横幕を張ってくれたので、多くの人はそこに入って風を避けていました。
2度目の待ち時間を過ごすことになったのは、約80kmのところにあるエイド兼救護所で、そこは時間制限の関門にもなっていました。この場所をバスで出発することができたのは結局、18時過ぎに設定されていたこの関門の制限時間を過ぎてからです。それ以降に到着したランナーも収容してゴールに向かう必要があるということで、制限時間に合わせて複数台のバスがやってきました。このエイドに到着してから1時間以上が経っていました。
ゴール地点へ
今度こそバスはゴール(=スタート地点)に向かって走り始めます。バスはところどころで大会のコースと並行した道を進み、発電機で照明がつけられた土手の上を走ったり歩いたりしてゴールに向かう選手の姿が目に入ってきました。がんばれと応援したい気持ちもありましたが、それ以上に、悔しいというか情けないというか「自分もバスの中ではなくあそこにいたかった」という思いが湧いてくるのを抑えることができませんでした。夕方のラッシュ時間ということもあったのだと思いますが、道がかなり混雑していて、結局、ゴール地点にバスがついたときには20時になっていました。リタイアしてから4時間以上が経っていました。朝早くにスタートした柴又の1日は、こうして終了しました。
振り返って
この年の柴又100kは、風邪から体調が回復しきれないままに出たので、自分の中ではリタイアの可能性も織り込み済みでした。体の具合や大会前の練習不足を考えれば、65km過ぎまで行けたのは上出来と言えるのではないか、と(理性的に考えれば)思います。でも、この1日を終えて感じたのは、やはり満足感ではなく悔しさでした。
「風邪を引かなければ」とか「もう1週間早く回復できていれば」とか、たら・ればの世界で考えることは色々とあります。そうした思いのひとつが「リタイアしたらどうなるのかをもっとちゃんと知っておけばよかった」というものでした。リタイアしたら10分とか20分でバスが来てゴールに戻れる、なんてことは考えていませんでしたが、ここまで長い時間がかかるとも思っていなかったからです。
ひとつ書いておかなければならないのですが、運営スタッフの方はエイドでも救護所でも、リタイアした私たちに本当に気遣ってくれました。大会自体は続いているのですから、リタイアした人のことだけ優先的に何かを行うことなどできないことも十分理解できます。実際、リタイアした人が運営側に文句を言っているような姿は1度も目にしませんでした。柴又のように長い長い往復コースが設定され、途中でリタイアしてもすぐにゴール地点まで行き着くことができないような大会では、「ゴールに戻るには相当の時間がかかる」ことを理解し、そのために必要と思われる準備があれば、自分であらかじめ荷物などを工夫しておくということしかないのだろうと思います。
これは後日調べて知ったことですが、柴又100kには10~20kmごとに関門が設けられていて、それ以外の場所でリタイアするとバスの到着までかなり待たされるという記載が、柴又100kのQ&Aページに載っていました。
関門場所は約20km地点(吉川公園)、約39km地点(エコスポいずみ)、約49km地点(ひばりの里)、約62km地点(杉戸町環境センター前)、約80km地点(吉川公園)、約91km地点(第1救護所付近)を予定しております。関門以外の場所(エイドステーションやコース途中)にて途中棄権した場合は、収容車到着まで1~2時間以上かかる場合がございます。
関門の場所は年によって多少変わったりすることもあるかもしれないので、出走する年の情報を見て、リタイアするにしても関門までは(踏ん張れるようなら)どうにか行き着く、というのも作戦のひとつかと思います。
また、この大会はリュックを持たずに走る人もかなりいますが、少しでもリタイアの可能性があると思う場合や、気温が低めだったり強風や雨の予報が出ている場合、制限時間ぎりぎりかけてゴールするつもりといった場合は、小型のリュックに着替えやウインドブレーカー、レインコート、エネルギー補給できる食料などを持参した方がよいのではないかと、個人的には思います。
河川敷のコースは見晴らしがよくて走るのが気持ちいいものですが、一方で日陰がほとんどなく、風があるときには良くも悪くもビュービューと吹き抜けます。この年のように、日中は相当の暑さでも夕方以降はグンと気温が下がることも考えられるので(特に、リタイアすると運動による熱の産出がなくなるので一層寒くなります)、寒さ対策は考えておいた方がよいのではないでしょうか。ちなみに、事前申し込みの有料制で、82km地点に多少の荷物を置くことができる「スペシャルバッグ」というものがありますが、82kmまでたどり着けない場合は中身の返却はしないとありますので、ここに高額のウインドブレーカーなどを入れておくのはリスクがあります。
食料についても、柴又はエイドの間隔が短めで充実していることで知られていますが、自分の好きなタイミングでエネルギーやドリンクの補給できるという利点や、万一リタイアした場合はその後長~い待ち時間があることを考えると(リタイア後にエイドで提供される食料をバクバク食べるわけにはいかないでしょうから)、幾らかはリュックに入れておいた方がよい気がします。
色々と書いてきましたが、この年の柴又100kからは、とんでもない悔しさと合わせ、ウルトラマラソンに挑む上で気をつけなくてはいけない点へのいくつもの気づきを得ることができました。リタイアという結果にはなりましたが、出走してよかったと思える大会でした。
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