見出し画像

ピアで行う聴解授業 B1.3

前回、

B1.3(中上級)での聴解の授業実践|ユン有子 |Yuko Yoon (note.com)

という記事を書きましたが、同じ「留学生のためのアカデミックジャパニーズ聴解(中上級)」を使った、私の最近の授業実践をこちらに記録します。

レベル差のあるクラス

今学期の学生たちの構成は、漢字圏8名・非漢字圏5名 というメンバー構成です。

B1.3クラスは2つあるのですが、そのうちの上のクラスで、全体的によくできる学生たちが集まっていましたが、すでにこの教科書で勉強済の学生が4名おり、彼らは、よくできる学生たちなのにも関わらず、同じクラスを再履修をしていたので、新規登録者との間でレベル差がありました。そして、漢字圏と非漢字圏の学生の間でも、理解速度に差があるようでした。

なので、一斉授業をすると「できる学生」ばかりが発言することになり、「初めてこの教科書で学習することになる学生、且つ、非漢字圏の学習者」を置き去りにしてしまう可能性があり、初回授業をした後で、頭を抱えました。

そこで、私は、「教師(私)対クラス全員」という構図では授業進行が難しいと考え、「ピア活動」と「自己モニター」によって授業を進行するということを試みようと思いました。

私の授業の流れは以下のような感じです。


動機づけ

私:この教科書では、みなさんにとって理解可能なインプットよりも、2段階も3段階も難しいものを聞きます。ですから、聞いて、分からないのは当たり前です。
ですから、「分からない」とパニックにならないでください。
私が、この授業で目的としているのは、「難しく、まとまった量の日本語」をどのように聞けばいいのか、ストラテジーを身に着けていくことです。

スキーマ活性化

私:では、まず、耳の準備をしましょう。
私たちは、何かを聞く前に、「これから始まる話は、きっとこんな話なんだろうなぁ」と話の内容を必ず、推測しています。
「推測ストラテジー」と呼びましょうか。この精度を上げていきましょう。

私:さて、今から聞く話の題名は「体験プレゼント」です。
これから「体験プレゼント」というタイトルの授業を聞きます。
一体、どんな話なのでしょうか。今から、この2つの質問についてペアで話し合ってください。
今日、いっしょに勉強するペアはこの人です。

Classroomscreen でランダムにペアを作る

・プレゼントをあげるのは、どんな時、誰にですか?
・プレゼントを選ぶとき、どんなことを考えますか?

そして、数名の人を当てて、全体に共有してもらいます。
その時に、私は板書に「プレゼント」と真ん中に書いて、そこから派生させる形で、学習者が語るキーワードを語彙マップにして繋いでいきました

例)「プレゼントをもらう人」「プレゼントをあげる人」「家族・恋人・彼女に・・」「大切な人に」「誰かに謝る時に」「自分があげたいもの」「彼女が喜ぶもの」「いい物を見つけたとき」・・・・


聞く(第1回目)・ノートテイキング

私:さて、耳の準備ができました。
今から、聞きます。その時に、ノートをとって下さい。
「ノートストラテジー」と呼びましょうか。あとで、自分がとったノートをペアで見せあいながら、自分が聞き取ったことをシェアしてください。

(聞く)

私:では、ペアで自分のノートを見せながら、何を聞き取ったか話してください。

(ピアワーク・机間巡視)

学生の前回の授業メモ1回目(この学生は再履修のよくできる学生)

私:自分が聞き取ったことは、相手と同じでしたか?何が違うことがあった人?

私:では、今、自分は何%くらい聞き取れたと自己採点しますか?
自分に点数をつけてください。この%をあげていくことが、授業の目的です。

※レベル差が大きいクラスなので、あえて、何を聞き取ったのか全体に聞くということはせず、「自分の聞き取り・自分の学び」に集中できるように環境を整えることに注力してみました。

それが成功していたのかは、学生アンケートの結果を待つしかありません


語彙確認

私:では、難しいことば、キーワードとなる言葉のリストがここにあります。しばらく、時間をとりますので、辞書で調べてください。

(各自作業)

私:「コツ」はどういう意味ですか?
S1:あの、仕事のやり方を分かること?コツがわかる。
私:いいですね。コツをつかむ、とも言います。
例えば、どういう風に上手に写真をとりますか?習いました。練習しました。「ああ、こうやればいいのか!」分かりました。これが、「コツをつかむ」です。

私:「儀礼的」って分かりましたか?
S2: ceremonial ?
私:ですよね。「Ceremonialな贈り物」ってどういうことですか?
S3: 「儀礼的な贈り物」は、お中元とかお歳暮とか、文化とか、形式的にあげるもの
私:ですよね。お中元とかお歳暮って何か分かりますか?
(知っている人と知らない人、半々)
S1:会社であげたことがあります。あの、なんか・・
(略)
私:じゃあ、「儀礼的」ではない贈り物はなに?
S2:そこに書いてあるプレゼントです(語彙マップを指さす)

私:では、辞書で調べても分からなかった言葉はありますか?

S1:「定着」が分かりませんでした。
私:いい質問ですね。誰か「定着」で、例文を作れる人はいますか?
S4:なんか、あの、引っ越してきて、長くすむことですよね?
私:ああ、すごくいいですね。日本語の感覚が育ってますね。
  それは、「定住」ですね。(板書)

私:例えば、北海道で暮らしてみました、そして、東京で暮らしてみました、神戸で暮らしました。「ああ、神戸が一番いいなぁ。」神戸で長く住むことにしました。「神戸に定住した」
じゃあ、「定住」は、漢字から分かるように、「住む場所」について言っていますが、「定着」は何について言っていると思いますか?

(沈黙)

私:たとえば、「習慣」とかですね。S2さんは、毎朝5時半に起きて、散歩しています。(授業中でてきた話題)「健康的でいいですよねぇ」私もS2さんの真似をして、毎朝5時半に起きて、散歩に行くことにしました。1日目、5時半に起きて散歩行きました。2日目、5時半に起きて散歩に行きました。3日目も行きました。4日目、行きませんでした。5日目、もう辞めました。これは、「早起きの習慣が定着している」と言えますか?

S:いいえ。

私:ですよね。まぁ。1年くらいしたら、「定着した」って言ってもいいですかね。どう思いますか?

私:他には、私はPPTを使わずに授業をすることにしました。これが私の授業のスタイルです。みなさんも私の授業スタイルに慣れました。
「B1.3クラスでは、PPTを使わない授業スタイルが定着した。」とかね。
「定着」の意味は分かりましたか?

S1:分かりました。


聞く(第2回目)・ノートテイキング

私:じゃあ、2回目聞きましょう。さっきのノートを見ながら、さっきより理解できたことがあったら、書き足してください。

(聞く)

私:はい、さっき自分が聞き取れた%よりも増えたと思いますか?

S1(非漢字圏):先生、私はメモを書こうとすると、どんな書き方だったかなと、書くことに集中してしまい、聞き逃してしまいます。でも、メモは書いたほうがいいんでしょう?

私:おお、それはすごくいい気づきですね。他のみなさんは、どうしていますか?

S2(非漢字圏):だから、私は、ローマ字で書いていますよ。
S5(漢字圏):私は中国語の漢字で書いています。

私:なるほど。もしも、メモを書きながら、聞くよりも、聞くことに集中したほうが聞きやすいならば、それも方法ですね。自分にとって、一番いいメモの取り方を探していきましょう。

タイピングでメモをとりたい学生のためにGoogle Classroomにメモも用意している

では、さっきのペアの人とさっきより聞き取れたことあったらシェアしてください。さっきよりも%は増えていますか?

S1とS6のペア:全然、%、増えていません。同じ。

私:うーん。じゃあ、ちょっとペアを変えて、話してみてください。前後ろのペアで話してみて。

S2とS4のサポートがS1とS6に入る・母語使用可

S1:ああ、分かりました。私は「体験プレゼント」は「プレゼントを体験すること」だと思っていた。でも、「体験をプレゼントすることなんですね」ああ、そしたら、分かります。

聞く(第3回目)・問題A

私:では、もう一度、聞いてください。そして、今度は、続けて問題A(○×問題)にも答えてください。

(聞く)

私:今、答え合わせはしません。でも、ペアの人と自分の答えが同じかどうか確認してください。

(ピアワーク・机間巡視)

机間巡視の際、答えが違う人はどのように違うのか確認する。答えは言わない。違うポイントに焦点化

私:みなさん、ペアの人と答えは同じでしたか?違う人もいるようですね。
では、また来週、続きをしましょう。



次の週にしたことの流れ

①    復習(自分の書いたメモを見ながら、もう一度聞き、どんな話だったかペアで確認)

②    問題Bの設問に答えるために全体に質問を投げ、ペアで口頭で答えを確認し合う。


・どんなときに友だちや家族にプレゼントしますか?
・さいきん、どんな新しいプレゼントサービスが登場しましたか?
・体験プレゼントの仕組みは何ですか
→だれが?何をする?
・体験プレゼントを使った人の話
→だれが?だれに?どうして?どうなった?
・体験プレゼントがはじまった時代背景
→今と昔、何がちがう?
・体験プレゼントのいいところ

③    各自、自分のスマホとイヤホンで音源を聞きながら、記述問題に答えを書く

学習者の学習は、Google Classroom で管理


(個人作業・自分のペースで何度も聞く)

机間巡視しながら、答え方に苦戦している学生がいたら、穴埋め形式にして板書する。

例)_____すること

④    問題B、全体で答え合わせ
⑤    再話(ピアワーク)

「みなさんのペアの人は「体験プレゼント」の大学の授業を休んだ人です。どんな授業内容だったのか、教えてあげてください。教えられている人は、分からないことがあったら、質問してください。」

⑥    問題D(話の構成を確認) 全体で確認
⑦ 問題A(正否を問う問題)をもう一度聞く。
 最初に聞いた時と答えは同じかどうか見る。
 全体で答え合わせ。

自己モニター

では、今、この話を何%くらい聞けるようになりましたか?


改善点はいろいろとあると思いますが、記録として残しておきます。


いいなと思ったら応援しよう!