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メトロの演説と寄付文化

私がフランスに留学したての頃、区立のコンセルヴァトワール(音楽学校)でのレッスンの合間に最もよくお世話になった場所はレ・アール駅構内にあるマクドナルドだ。まだ友達もいないし、携帯はインターネットもろくにつながらないポンコツのしか持っていなかったし、クラシックなカフェに行ってウェイターにフランス語で話しかけられるのも怖いし、ということで、コンセルヴァトワールから1分で行けて、(ほぼ)全て機械で注文できて、無料のWiFiがあるという三拍子揃ったこのマックのコーヒーを何杯飲んだことか。慣れてくれば他にも有意義でスマートな時間の過ごし方はいくらでも思いつくのだけれど、というか慣れていなくても思いつく人もいるのだろうけれど、ともかく当時の私にできたのはそのくらいだった。

そのマックは店舗の面積がけっこう広くて、奥の方へ行けば落ち着いて座れるテーブルも沢山あるのだが、私はいつもWiFiのつながりやすい、入口付近のカウンターに座っていた。入口といっても駅構内店舗だけあって通路に対してかなりオープンなつくり。
そこで度々驚かされたのが、通路からひょいっと入ってきて、カウンターの我々に近づいて話しかけてくる人が少なからずいることである。
最初は何を言われているのかわからなくてただパニックだったが、のちのち理解したところによるとこれはナンパでも世間話でもなく、個別訪問型の物乞いなのだ。側までやって来て、こんにちはマダム、少し小銭を頂けませんか?と直談判。さらに隣の人のところへ行って同じことを繰り返す。断り慣れたパリジャンは「ごめんなさい、がんばって」などといって追い払うが、ただ道端で待っている物乞いに比べて、個人的に話しかけられるのでは確かに断りにくい。

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