[weryfikacja 検証1~26] “保続” の大量誤用 - ノクターン第2版
ノクターン第2版 検証(1~26)
ヤン・エキエル編ショパン・ナショナル・エディション日本語版ノクターン。第1版第1刷では、監修者/担当者が訳者に何も知らせず数百箇所を勝手に変更し出版、問題が多すぎたため 2022年8月に販売停止。その後、誤った変更を元に戻し出版するという方法をとらず、なぜか訳者を変えて2023年2月15日に第2版第1刷発行。「今度は大丈夫なのか?」と多くの方々が知りたがっておられ、現在第2版を検証中です。
まだ部分しか見ることができていませんが、そして予想外のことで驚いているのですが、20箇所(10+10)の問題で販売停止(実際の問題箇所は数百)となった第1版よりも さらによくない。第1版は売ってよい水準ではなかった。その主因である監修者の問題を解決せず、大量誤訳が生まれた原因と向き合わず、つまり再発防止策をまったくとらないまま出された第2版は、第1版にさえもなかった より基本的で深刻な問題が新たに大量にあらわれています。
“保続”とは
日本語版ノクターン第2版には「保続」という言葉が(おそらく)27回出てきます。
保続音の定義
“和声が変化しているのに、ある声部だけ同じ音を伸ばし続けることがある。この音を保続音(ほぞくおん)と言う。”
音楽之友社『和声 理論と実習』(池内友次郎, 柏木俊夫, 長谷川良夫, 丸田昭三, 石桁真礼生, 小林秀雄, 松本民之助, 三善晃, 矢代秋雄, 末吉保雄, 島岡譲, 佐藤真, 南弘明) 3巻(第49刷)、第9章 保続音 より343-344ページ。(Wikipedia 「非和声音」より)
“保続音 a pedal point (PED) / a pedal note / an organ point とは、他の声部の和声が移り変わる間ずっと伸ばし続けられている音である。”
Burnette, Sonny “MUS 112 Study Guide L (Chapter 12) Nonharmonic Tones II”. Study on line, or print a hard copy of the desired study guide. Department of Music, Georgetown College.
(Wikipedia 「非和声音」より)
In music, a pedal point (also pedal note, organ point, pedal tone, or pedal) is a sustained tone, typically in the bass, during which at least one foreign (i.e. dissonant) harmony is sounded in the other parts.
Pedal points "have a strong tonal effect, 'pulling' the harmony back to its root". Pedal points can also build drama or intensity and expectation. (‘Pedal point’ - Wikipedia)
保続音は非和声音の一種
「保続音は非和声音の中でも独特なものである。」
Frank, Robert J. “Non-Chord Tones”. 南メソジスト大学.
(Wikipedia 「非和声音」より)
保続音/pedal point の例
”保続“という言葉の適切な使用例
第2版で “保続“ という言葉が適切に使われているのは1か所のみです。
原資料に関する解説
ノクターン ト短調 作品15の3, 第63~88小節
第2版で唯一、保続音 pedal pointという言葉が適切に使われている。 あとの26か所は誤りです。
音源例: Arthur Rubinstein, piano
https://youtu.be/pTfeTJME7-I (1分53秒あたりから)
26か所の”保続“は誤った使い方
1.
演奏に関する解説
ノクターン 変ホ長調 作品55の2, 第25小節 (左手)
正しくは「as を保つことで」。ここで「保続」という言葉を用いるのは正しくありません。楽語の「保続音」、症状を示す「保続」、どちらも意味が違う。
2.
演奏に関する解説
ノクターン ホ長調 作品62の2, 第78-79小節
これは響きの「持続」であって保続ではない。和声は何も変わっていない。
3.
原資料に関する解説
ノクターン ロ長調 作品9の3, 第137~138小節(右手)
これも保続ではない。第138小節のはじめまで「przetrzymanie 維持/保持」と書かれています。
4.
原資料に関する解説
ノクターン ロ長調 作品9の3, 第26~27小節(右手)
「e2 を保続」は明らかな誤り。ここで和声は関係していない。タイで音を保つことを保続とは言わない。
5.
原資料に関する解説
ノクターン ヘ長調 作品15の1, 第1小節以降(左手)
これは響きを zatrzymywanie (離さないで留めておくこと。英訳では the duration 持続時間)、つまり保持、単に保つことであり、保続ではない。
6.
原資料に関する解説
ノクターン ヘ長調 作品15の1, 第1小節以降(左手)
すべての響きを/が「zatrzymywać 離さず留めておく/ be held 保持される」ショパンの意図。ここで保続という言葉を使うのは誤りです。
7.
原資料に関する解説
ノクターン 嬰ヘ長調 作品15の2, 第24~25小節(右手)
これも「保続」というのは誤りです。楽語の「保続音」、症状を示す「保続」、どちらも意味が違う。
8.
原資料に関する解説
ノクターン 嬰ハ短調 作品27の1, 第92~93小節(右手)
こちらも「保続するタイ」というのは誤りです。保ち「続けて」などいない。
9.
原資料に関する解説
ノクターン 嬰ハ短調 作品27の1, 第100小節(右手)
この場合も「保続するタイ」は誤りです。
10.11.
原資料に関する解説
ノクターン 変ニ長調 作品27の2, 第9~10小節(右手)
「保続するタイ」は誤りです。
12.
原資料に関する解説
ノクターン 変ニ長調 作品27の2, 第12小節(右手)
「保続するタイ」が誤りであるだけでなく、「小さな」タイと訳すのは適切ではない。スラーに長短はあってもタイの機能に大小はない。
13.
原資料に関する解説
ノクターン 変ニ長調 作品27の2, 第27小節(右手)
「保続するタイ」は誤りです。楽語の「保続音」、症状を示す「保続」、どちらも意味が違う。保ち「続け」てもいない。
14.
原資料に関する解説
ノクターン 変ニ長調 作品27の2, 第36小節(右手)
「保続する(…)タイ」は誤りです。また「小さな」タイと訳すべきではない。スラーに長短はあるが、タイの機能に大小はない。
15.
原資料に関する解説
ノクターン 変イ長調 作品32の2, 第28,32,40,44小節(左手)
「保続するタイ」は誤りです。
16.
原資料に関する解説
ノクターン ト短調 作品37の1, 第10~11小節および類似箇所(左手)
こちらも「保続するタイ」は誤りです。
17.
原資料に関する解説
ノクターン ト短調 作品37の1, 第40小節(右手)
こちらも「保続」は誤り。「保持される」「保たれる」が適切な言葉です。保ち「続け」てなどいない。
18.19.
原資料に関する解説
ノクターン ト長調 作品37の2, 第13小節(右手)
2か所とも「保続」は誤りです。
20.
原資料に関する解説
ノクターン ト長調 作品37の2, 第59~60小節(右手)
こちらも「保続するタイ」は誤りです。
21.
原資料に関する解説
ノクターン ハ短調 作品48の1, 第24~25小節
「保続するタイ」は誤りです。
22.
原資料に関する解説
ノクターン ヘ短調 作品55の1, 第61~62小節(右手)
「保続するタイ」は誤りです。
23.
原資料に関する解説
ノクターン ヘ短調 作品55の1, 第86~87小節(左手)
こちらも「保続するタイ」は誤りです。
24.
原資料に関する解説
ノクターン ヘ短調 作品55の1, 第93~94小節(左手)
「保続するタイ」は誤り。
25.
原資料に関する解説
ノクターン 変ホ長調 作品55の2, 第5小節(右手)
この場合も「保続するタイ」は誤りです。
26.
原資料に関する解説
ノクターン 変ホ長調 作品55の2, 第39小節(右手)
「保続」と「新たに打鍵」は対照させて考えるものではありません。保続音で「新たに打鍵」し続ける例が、ショパン: 24のプレリュード 作品28, 第15番 変ニ長調 などに見られます:
(数百か所の問題のため)販売停止となった第1版でさえ 1か所だった「保続」という言葉の誤用が第2版では26か所も。
販売停止の第1版(2021年11月15日発行)では「保続」は2か所。1か所は適切な使い方で、もう1か所は誤り(監修者による変更)。今回、別の訳者の翻訳による第2版(2023年2月15日発行)では「保続」という言葉が27か所、適切であるのは1か所のみ。26か所は誤りです。
ワルツの巻でも「保続」という言葉の誤用が20か所以上。
何も知らずに日本語版を購入し、信じて使う人は、解説を読んで誤った用法を身につけることになってしまう。26か所、これだけ乱発されていながら監修者も担当者も(別の訳者の方も)問題があることに気づかず、読んでおかしいとも思わず、このような状態で世に出してしまった。
監修者の先生の問題はポーランド語が読めないということだけではありません。楽語(音楽用語)の理解に関しても問題があることがわかります。
Special thanks: PWM, OCVE
「保続」について正しく理解するため、ピアニスト・作曲家の◯◯◯◯さん、音楽学者の◯◯◯◯さんに助けていただきました。心より感謝いたします。
ノクターン第2版、スケルツォ、ワルツ(A)他の検証をまとめた (44ページからなる)検証サイト ↓ をぜひご覧ください:
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