おかえり、魂。vol.1~地球作ゼブラに会いにいく~
「おかえり、魂。」というマガジンで、
夏の大雪山登山のエッセイを連載しています。
▽前回の話はこちら
カラフルな山々
日差しがやや痛いくらい。
文句なしの快晴となった。
層雲峡からバスに揺られて1時間。
赤岳の登山口である銀仙台に辿り着いた。
これから2泊3日で山に入る。
今回の山のピーク(山頂)は実にカラフル。
1日目の今日は赤岳、緑岳、白雲岳に登り、
最終日は黒岳に降りる予定。
銀色をスタートに、赤、緑、白…
そして最後は黒で終着なのだ。
まるでサンタクロースを彷彿とさせるような色合いだ。
さらに今の時期は、山はお花畑の最盛期。
このカラフルな名前に負けないくらい、
高山植物もカラフルに咲き乱れていることだろう。
花の名前はあまり知らない。
予習もほぼしていない。
けれど高山植物の凛とした姿が好きだ。
ワクワクしながら、キレイに整備された林道へと、歩みを進めていくことにした。
それにしても長袖では暑い。
登りに差し掛かるとすぐに汗がにじむ。
ナルゲンに入れいた水が
すでに半分くらいになっていた。
今回の登山前に、
先週大雪に登りに来たという登山仲間から
情報をもらっていた。
その時はまだ雪渓(残雪が融けることなく、夏の遅い時期まで山地の谷間や凹地を埋めて残っているもの。)が残っているとのこと。そのため、お守りで軽アイゼンを持ってきていた。
実際には雪はシャリシャリ。
登山道にわずかにある雪渓の上も、
アイゼンなしで歩くことができた。
ここ1週間で
急速な雪融けが進んでいるようだ。
そういえば、旭川の宿で、宿主さんが
「北海道の夏は、1週間で天気が大きく進む」
と話していたっけ。
天気予報を見たところ、
明日の昼以降は天気が崩れそうな見込み。
そのためバスの中でルートを練り直し、
白雲岳避難小屋を起点に、縦走をすることにした。
週末だからか、登山者は多くて、
「これからどこいくの?」
「気をつけてね。」と、
穏やかに声を掛け合う。
なんとなく北海道に来ている登山客は、
お喋りでフレンドリーな方々が
多いように思う。
ここに来る数日前は、
十勝連峰にあるオプタテシケ山に登ったのだが、その時もよく声をかけられた。
女子一人で登っているから
珍しいからかもしれないけれど、
その声を掛けられる感じも、全然嫌じゃなくて。一緒に登っている仲間のような感覚で、
楽しみながら時間を共有していた。
そうしている間に、赤岳に到着。
ある程度の登りが終わったら、
もうあとは美しい縦走路が続くだけ。
この後は、緑岳。
そして白雲岳避難小屋へ向かう。
遮るものは、何もない
ここがやっぱり好きだ。
歩く度に、何度もそう思わせてくれる。
ここは見渡す限り、ただ山道が続くだけ。
もしかしたら、「何が良いんだ?」と
首をかしげる人もいるかもしれない。
けれど私は、このだだっ広い景色に、
胸がスッとするのだ。
私を遮るものが、何もないと。
そこに自由を感じるのだ。
風が吹き抜ける場所が、好き。
目の前伸びていている
1本の長い道を見つめながら
深呼吸をして、
再びまっすぐに進み始めた。
ゼブラに会いにいく
白雲岳避難小屋に到着。
登山道整備のための協力金と宿泊代を払った。
ここまでストレスなく歩くことができるのは、誰かが山を整備してくれているから。
それをひしひしと感じたのは、
オプタテシケ山の登山道が
荒れ果てていたことを真のあたりにしたからだ。
美瑛富士登山口からの登山道は、
所々草がぼうぼう。
岩場もあり、なかなかハードな道だった。
さらに朝露で水浸しになり、
泥水で靴とトレッキングパンツが
泥だらけになったのだ。
その体験をした後だったので、
銀仙台からの登山道が
キレイに整備されていることに、
感動してしまった。
こんな山奥で心地よく過ごせることは、
本当にありがたいこと。
「いつもありがとうございます。」と、
宿番の方に思わずお礼を言った。
先にテントを張り、
荷物を置いて、白雲岳へ。
登山道を歩いていると、
山頂から降りてきた何人もの人たちが、
「ゼブラ見えるよ!!」と
興奮気味に教えてくれた。
あまりにも興奮されている方ばかりなので、
なんだか可笑しくなってしまった。
「白雲岳のゼブラ」とは、
この時期だけ見れる絶景のこと。
山と雪渓のコントラストが見事で、
まるでゼブラ柄のように見えることから
そう呼ばれている。
大雪に登る人の中では有名で、
この景色を見るために登りに来ている登山客は
大勢いるだろう。
見れるならばぜひ見てみたいと、
私も胸を高鳴らせた。
そしてあっという間に山頂。
その向こうには…
ゼブラだ。
見事な圧巻の景色が、
一瞬で私の目を独占した。
山肌を、上から下へと
きれいな白線が伸びていく。
まるで誰かが大きな筆で、
山肌をなぞったかのよう。
これが、地球が創り出した芸術。
神々が遊ぶ庭で、目の当たりにした地球の美。
ずっとずっと見ていたい。
思わず心が吸い込まれそうだった。
去年の秋に山頂から見た景色とは
まるで違う世界のようだった。
あの時は、4泊5日の山旅の5日目にここに来た。
今まで登ってきた山々を眺めて
グッとくるものがあったなぁ。
本当はこの美しい景色をずっと見ていたい。
けれど何せ山頂は直射日光がきつくて、
たくさんの虫が激しく飛び交っている。
なので、長居はできなかった。
けれど、しっかりと記憶を目に刻んで、
山頂を後にした。
テント場に戻り、
何もしない時間を過ごした。
ぼーっとして、ただ日が沈むのを待つ。
夏の夜は、日が沈むまでは暑い。
テントの中には
とてもじゃないけれど入れない。
だから外に出て、テントの影で食事をして、
中に入れるまで待った。
暗くなるのは19時ごろ。
明日日が昇るのは、朝の4時前だろう。
また明日、日が昇る頃に起きるとしよう。
こうして自然のリズムに身を委ねることが
本来心地よい生き方なのかもしれない。
ようやく日が沈むと共に、
テントに入り、眠りについた。