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最高の瞬間は、すぐそばに
山上にいれば、
いつでも景色を堪能できると思っていた。
だからこそ、窓からいつも勇ましい山々を眺められる場所に1ヶ月滞在することを選んだ。
けれど、迷走している台風の影響なのか、
思いの外天気の悪い日は多くて、
外はガスで真っ白。
山の稜線が全く見えない日もある。
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山にいると、最重要な情報はもちろん天気。
自分がいる環境で、おもしろいくらいに情報の優先順位は全く変わる。
山の天気は変わりやすいのは本当で、
朝晴れていたと思ったら
たちまちガスが立ち込めてきて、
ザァザァ雨が降り出すことも珍しくない。
思ったより晴れた。
思いの外早く雨が降った。
晴れていたのに、ガスで真っ白になった。
そんな感じで天気に振り回されてばかりだ。
気まぐれなのか、
山の景色は表情をくるくると変える。
物資輸送のヘリの飛ぶタイミングも難しい。
でも突然、びっくりするほどきれいな景色を見せてくれることもある。
無邪気で、堂々としていて、
サービス精神が旺盛なのが、山の性質なのか。
だからこそ、
晴れると心が躍る。
待ちに待った、最高の瞬間が訪れるのだ。
朝3時とか4時とかに外に出ると、
雲の切間が見えて、遠くに塩尻の街が見えることも。
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朝には、いい朝焼けが見えるなぁって
胸が静かに高鳴ってくるのだ。
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太陽が高く昇った頃に窓を大きく開けると、
冷たいけれど、心地よい風が肌に触れて
それだけで今ここにいることに幸せを感じる。
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谷間からは、ゴウゴウと風が吹き抜ける音がする。鳥が鳴く声も時々。
無理やり何かを得ようとしなくても
晴れる日を迎える準備をして、
こうして雲が切れることをただ待っていたら、
最高の瞬間がちゃんと訪れる。
「もうここに手にしているんだ。」
そう、幸せはいつもそばに。
今日もきっと、いい日になる。
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おはよう槍ヶ岳。
▼noteから生まれたエッセイ集
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