「スキット」ってどういう意味?〜『キンキーキッズ』のskitがスキって話を添えて〜
「スキット」と出会い、意味を知る
「おたくの、ワサビば、食べたとですけど」
「あっ、ありがとうございます!」
「だご、うまかったです」
「あっ、ありがとうございます。お客様!」
「それで自分もワサビになれんかなぁ〜と思ってからですね・・・」
・・・???・・・えっ?
衝撃的だった。
ある時、Spotifyで餓鬼レンジャーをシャッフル再生で聞いていた。
すると
「あんたとこのワサビ食べたんやけど」
「お、おおきに!」
「めっちゃおいしかったわ」
「ほんまありがとうやで!」
「ほんで自分もワサビになれやんかなぁ〜と思ったんやけど・・・」
というやりとりが始まって「このラジオドラマみたいなものは何?!」と衝撃を受けた。(方言を別の方言に言い換えているだけでティンカーベルに話が進んでないって言われそう。)
どうやらこのラジオドラマのようなものはskit(スキット)と呼ぶらしい。
衝撃との遭遇後
餓鬼レンジャーの『キンキーキッズ』のアルバムを1曲目から順に聞いてみることにした。アルバム全体も衝撃的だった。(このスキットは8曲目の「skit ~「目指せ! わさびヒーロー」~」)
初めて聞いた時「それぞれのスキット、めっちゃふざけるやん」と思った。しかし、何度か聞いているうちに「このスキットからのこの曲の流れ、趣が深すぎる」と思うようになった。(このアルバムのスキットはサンドウィッチマンのラジオとかの作家さんが書いたとのこと。)
餓鬼レンジャーの『キンキーキッズ』は最初から最後まで順番に聞くべきアルバムの1つで間違いないっすね。このアルバムの最高さとかオススメを語りたい。下ネタが多いけれど(笑)
それではアルバム1曲目から順にビビらず怯まず焦りもなく語ってみよー。
『キンキーキッズ』
01. INTRO ~超大作イントロ~
超大作の映画の予告のような始まり。
どういう危機かというと・・・
それで、あいつらを呼ぶしかないってなったのが・・・
そういうあれを詰め込んだのがこのアルバム。
02. NO PLAN B
って言っているのがMCの一人、ポチョムキンさん。(この後、"乳房揉む"とか"口臭そう"とか"イウアノ"の音で8小節、韻を踏むための"ミスター・ポ"なのか・・・)
って言っているのがもう一人のMC、YOSHIさん。
餓鬼レンジャーは2MC+2DJ+1ダンサーというメンバー構成。
このあたりからのポチョムキンさんのフロー(歌い回し)と韻がいいすね!
ポチョムキンさんはこの曲で<俺 超めちゃ芸術的にFlow>と言っていてフローに特化していることが分かる。
YOSHIさんのバース(平たく言うとAメロ)。太字にした部分で"イイウアオ"の音で韻を踏んでいる。ここの韻の踏み方とダブルミーニングな感じ、いーすね。
YOSHIさんはこの曲で<母音と母音合わせていじる作業>と言っていて→母音と母音を合わせる→韻に特化していることが分かる。
Creepy NutsのR-指定さん曰く、餓鬼レンジャーは「EXCITING RAP 1,2,3」で<フロー巧者と韻長者>って言うぐらい、ポチョムキンさんはフロー、YOSHIさんは韻って意識的なすみわけがされている。(すみわけがされているけれどポチョムキンさんも韻が固い(韻をたくさん踏む)し、YOSHIさんのフローもすごい。)
この曲ではそのすみわけが分かる。
03. 超越 feat. TwiGy & 呂布カルマ
客演のTwiGyさんも呂布カルマさんも含めただただかっこいい。
ただただ聞いてくださいとただただ言いたい。
餓鬼レンジャーは他のラッパーが客演する曲も良い。
「キューバ・リブレ」ではRHYMESTERのMummy-Dさん、RIP SLYMEのRYO-Zさん、LIBROさん、DABOさんが客演していて、ポチョムキンさんを含めみんなフローが気持ちいい。
「The Skilled」ではKICK THE CAN CREWのLITTLEさん、ICE BAHNのFORKさんが客演していて、YOSHIさん含めみんな韻が固い。
「ちょっとだけバカ」ではCreepy Nutsが客演している。ポチョムキンさんが「浅漬け」と「ナマステ」で"アアウエ"の音で韻を踏むところとか、YOSHIさんがちびまる子ちゃんに登場するキャラとかで"アア"の音で怒涛のように韻を踏むところとか、R-指定さんが「それいけ!NEET君」からNEET君をサンプリング(引用)しているところとか、DJ松永さんが「Little stupidちょっとだけ馬鹿」と叫ぶところとか、HIPHOPにあまりなじみがなくても楽しめる。
3曲とも『ティンカーベル ~ネバーランドの妖精たち~』に収録。
04. Miss PenPen (FULL VERSION) feat. 伊藤沙莉
↑フルバージョンになる前。アルバムに収録されているフルバージョンでは曲の最後に伊藤沙莉さんからペンペンペンペンうるさいのよって言われるくらいペンペンペンペンうるさい曲
3曲目の「超越」で客演と超絶かっこいいことをしていると思ったら4曲目の「Miss PenPen」で伊藤沙莉さんを客演して・・・なんてちょっとだけバカで最高なことをしてるんだ(笑) 伊藤沙莉さんはラップがうまいし、このふざけた感じにクールかつノリノリで付き合ってる感じも最高。伊藤沙莉さんはアルバム『ティンカーベル ~ネバーランドの妖精たち~』の「NJな夜」でも客演している。
この4曲目はアルバムに収録されているフルバージョンで聞けるYOSHIさんの韻が固すぎて思わず笑ってしまう。ワカメちゃんの登場のさせ方とか、「目に笑み 沸々ぶつける熱」と言うことでしれっとその前の14文字で全踏みするところとか、言葉の組み合わせ方とすごさが相まって笑う。
YOSHIさんが14文字で全踏みしているという長い韻の話が出たので、長い韻としてぜひ紹介したいのが「リップ・サービス・モンスター」。
"エンオウエアイイアイアウエイイ"の15文字で全踏み。これは日本語ラップに精通しているCreepy NutsのR-指定さんが「Rの異常な愛情」という本の中で「もしかしたら日本最長の韻かもしれない」と言っていたぐらい長い韻を1998年に踏んでいて、ポチョムキンさん、すごい。
話は少し戻って餓鬼レンジャーのラッパー以外の客演も注目ポイント。
『ラッキー・ボーイズ』のアルバムのイントロのスキットではポチョムキンさんと同郷の熊本の芸人くりぃむしちゅーが参加したり、ポッドキャストでTENGA茶屋を聞いているリスナーとしてはケンドーコバヤシさんが参加している「神の穴」は聞き逃がせない。
05. skit ~魅惑のコンビニ~
これが次の6曲目を味わい深くするためのスキット。
コンビニでバイトをしている青年と熟女とのやり取り。
検品を任された青年。旦那と別れた熟女。
年上がタイプと聞いてお店にあるタフマンを飲む熟女。
間接キスをすすめられてドキドキする青年。
DJオショウさんが演じる青年のおどおどする感じと、ポチョムキンさんが演じる熟女の語尾を上げながらしゃべる感じとがいいんですよね。
06. MILF
4曲目がペンペンペンペンうるさい曲ならこの6曲目はじゅくじゅくじゅくじゅくうるさい曲。熟女の良さを語って、途中で若い女性の良さにも気づいて、そういえば長谷川潤も良いってなるけど、最後にやっぱり熟女の良さに戻る曲。(これはDJオショウさんのウェルカムの意味を込めた一曲らしい)
5曲目の魅惑の熟女のスキットがあることでこの6曲目がより際立つ。
ここの"アンオウ"の音で細かく韻を踏むところ、ポチョムキンさん、韻が固い!
この曲で紹介したいパンチライン。
ポチョムキンさんのユーモラスな部分が全面に出ている。(そういえば、ばあちゃん、膝が痛い時、皇潤、飲んでたな、懐かしい)
「美保純」の部分を「みほぅじゅん」と発音することで「芳醇」と「皇潤」で"オウウン"の音で韻を踏むところ、自分でも理由は分からないが後世に残したいレベルで好きすぎる。
07. 運がYEAH feat. sequick
6曲目でポチョムキンさんが一人で熟女の良さをひたすら語っていると思ったら、この7曲目のYOSHIさんの歌い出し
この休日の幸せなパパ感!6曲目からの振れ幅が広すぎて戸惑う。(しかも太字の部分は"ア○アアイ"(○は不規則)の音で韻を踏んでいて、韻が固い固い)
この後、体を伸ばして深呼吸して朝食を食べて出かける場所を決めて遊びに出かけて肩を並べて夕焼けを見ながら独り立ちまではすぐだろうなと考える・・・幸せを物語りつつ当然のように韻が固いというYOSHIさんのバースの素晴らしさ。
6曲目から7曲目の振れ幅への戸惑いにも慣れてきた頃にポチョムキンさんのバースが始まる。
YOSHIさんは一つの物語でどのように運がyeahなのかを語り、ポチョムキンさんは〇〇な時と〇〇な時と・・・という感じで運がいいなと思うことを列挙する、その違いがある感じが良い。
08. skit ~「目指せ! わさびヒーロー」~
冒頭で登場した「おたくの、ワサビば、食べたとですけど」のスキット。衝撃を受けたあのスキット。
「おたくの、ワサビば、食べたとですけど」に対して若干食い気味で「あっ、ありがとうございます!」とヘラヘラしながら感謝を伝える感じと、「それで自分もワサビになれんかなぁ〜と思ってからですね・・・」と言い始めた時の戸惑いながらの「はい・・・」と、「お客様ご自身がわさびに、」「かっこよかでしょが」って話をさえぎってお客様が話始める感じ、その細かいところにとてもこだわりを感じる。YOSHIさん演じるお客様相談室の藤田さんが何度も話をさえぎられるところは何回聞いても笑う。
小石をいっぱい体につけてゴツゴツ感を出してわさびになろうとするお客様の「どうすれば、わさびに、なれますか?」は狂気に満ちたパンチラインだと思う。
09. WASABI
8曲目のスキットに通ずるような狂気に満ちた感じの曲にも聞こえる。(個人の感想)
で「わさび(wasabi)」と「は寂び(wasabi)」でポチョムキンさん、同音異義語で韻を踏んでる!と驚いた直後、
「天才わさび(tensaiwasabi)」と「敵なしわさび(tekinasiwasabi)」の固い韻(わさびは同じ単語だからそうなるか)を独特なフローで歌うポチョムキンさんのバースを聞いていると自然と笑顔になる。
YOSHIさんは、国産メーカー名を上げながら、うまいことを言いまくる。
WASABIは子供から卒業の登竜門。
10. いいすね!
「いいすね!」のいいすね!ポイントを語るためにまずはフック(サビ)から説明。
こんな感じで「いいすね!」は「いいすね!」って一緒に口ずさみたくなるくらい楽しいっすね。
続いてYOSHIさんのバース。
1バース目から"イイウエ"の音で韻を踏んでいて韻が固い。冒頭は文末で韻を踏んで、その後、文末以外のところで「いいツレ」「引き連れ」「火着ける」と韻を踏むことで曲にメリハリが付く感じでいーすね!この後も"イイウエ"の音で韻を踏んでいて途中、
"イウエ"の音で韻を踏むことで韻が若干変化する感じもいーすね!
YOSHIさんの2バース目、「2連休」「リメイク」「自然治癒」「四川風」で韻を踏むところもいーすね!なんですよね。(「リメイク」は母音としては"イエイウ"なので他の単語の"イエンウ"の音とは若干異なるけれどフロー的に韻を踏んでいるように聞こえる)
最後にポチョムキンさんのバース。
ポチョムキンさんは1バース目も2バース目も基本的に「いいすね」の単語をそのまま使って、途中で"イウエ"の音で韻を踏んだりしている。
この10曲目も7曲目の「運がYEAH feat. sequick」と似た感じで、YOSHIさんは"イイウエ"の音で韻を踏みながらどういう時がいーすね!なのか、ポチョムキンさんはいいすね!を何パターン列挙できるか、という対比があるのがいいすね!
11 skit ~This video has been deleted~
次の12曲目の卒業とは何なのか、分かる人には分かるスキット。
12. 卒業
YOSHIさんは"エイアンオ"の音で韻がかっちかちだし(キーワードのワードの部分も若干韻を踏んでいる)
ポチョムキンさんは風流なふりをして何を言ってるんだ(笑)
他にも全力でふざけながら何うまいことを言ってるんだと思うところがたくさんあって好きだけれど、大きな声では説明しづらい(笑)
13. アゲマンボ
ラテン音楽のマンボと餓鬼レンジャーの融合。
マンボで有名な曲を調べてみたら、「アー、ウッ!」のかけ声でおなじみの「マンボNo.5」とか、加藤茶さんが「8時だョ!全員集合」のテレビで「ちょっとだけよ」と言っていた「タブー」とかがあった。
YOSHIさんのバースは「興奮し」から「要注意」まで"オウウウイ"の音(途中若干の変則あり)で細かく韻を踏むところがすごい。ポチョムキンさんの好きなバースは・・・ぜひ聞いて好きなところを探してみてください!
マンボと餓鬼レンジャーが融合すると「アゲマンボ」で、熊本民謡のおてもやんとサンバとポチョムキンさんと水前寺清子さんとかが融合すると「おてもやんサンバ」。(水前寺さんが本当カッコいい)
博多にわかを取り入れた「にわか先生」とか元ネタがあるかはよくわからないけれどとても民謡的な「ラップおじいちゃん」とか餓鬼レンジャーは日本特有の感じが多い。
14. シャッターチャンス
10曲目の「いいすね!」ぐらい楽しくて「シャッターチャンス♪シャッターチャンス♪」って歌いたくなる曲だけれど、なぜかこの曲は本当の楽しみが理解できていない気がする。
BRAINとPLAYで韻を踏んでるのは分かるけれど「繋がるBRAIN」とは?このアルバムのジャケット写真で頭と脚が繋がっているいるあれが「繋がるBRAIN」?
・・・難しく考えすぎ?もっとシンプルな頭で聞けばいい?そういうことを歌ってる曲?
15. skit ~イケメンの電話~
5曲目のスキットでおどおどした青年を演じていたDJオショウさん、このスキットでも大活躍。このスキットはまねしたくなるようなフレーズが多い。
彼女に突然電話をかけるイケメン
「なんか声、聞きたくなってさぁ」
「だからその・・・ありがとう」
「別に用はないけど、あるじゃん、こういうのってあるじゃん」
「ドラマとかであんじゃん、ほら、声、聞きたくてかけちゃった♪みたいな」
「これだけ、ひとこと、言わせてくれよ・・・・愛してる(小声)・・・」
(鳴り止まないサイレン、自転車のベル)
「もしもしぃ、もしもし、も、聞こえてる??」
「愛してる ってことに対して無言って、俺、はじめてだったから・・・」
「私も。とかで良いんじゃない? 愛してるよ。私も。とかでいいんじゃない」
要点をつまむとこんな感じ。DJオショウさんの名演をぜひ聞いてほしい。
16. L.A.S.D
15曲目のスキットからのこの16曲目。君をおもう気持ちが歌われているいい曲。YOSHIさんが歌う幸せな曲、いいな。
この曲は「君を知る前に戻って聞きたい。でも君を知ったからこそわかるうまさがある。」そういう曲。
17. ONE feat. SUGAR SOUL & JESSE (RIZE / The BONEZ)
名曲
『キンキーキッズ』の話はここまで。
『劇レンジャー』
餓鬼レンジャーは全曲スキットだけの『劇レンジャー』というアルバムを出している。
何も知らずに聞くと4曲目で「歌が入っとらんですよ」となるアルバム。
クレーム処理は餓鬼レンジャーのアルバムでたまに登場するスキットで、これは『KIDS RETURN』の「クレーム処理2」を思い出す。
この劇レンジャーは今までのアルバムのスキットを聞いてから聞くと、よかですなぁ。
最後にもう一度
餓鬼レンジャーの『キンキーキッズ』は最初から最後まで順番に聞くべきアルバムの1つで間違いないっすね。
YOSHIさんからのお言葉、とても嬉しいっすね。