2023年の8冊目『会社という迷宮』

2023年の8冊目(3/5)

石井光太郎『会社という迷宮』ダイヤモンド社(2022年)★★★

 大変興味深く、そうだと思わせる内容の多い本だと思った。
 著者は、戦略、市場、価値、利益、成長、会社、統治、組織、改革、M&A、開発、人材、コンサルタント、信義といったキーワードを、悪魔が忍び込んだ「会社」という迷宮の言葉と呼ぶ。そして、これらを解きほぐし、もっともらしいベールを丹念に剥がす作業を通じて、経営に「常識的感覚 common sence」を取り戻したいという。
 いくつか引用する。例えば「人材」。「会社」にとって「人材」の問題は「組織」の問題と裏腹である。経営者は「人材」が育たないことをしきりに嘆いているが、それは「組織」が「人材」を活かせていないということに、ほぼ等しい。
 次に「組織」。「阿吽の呼吸」で意思疎通し「暗黙知」で動く「組織」のあり方について、日本の特殊性が指摘され、「そんなものは世界では通用しない」と決めつけられ、それを卑下する風潮がある。「言わなければわからない」関係より「言わなくてもわかる」関係のほうが、生物としてはずっと進化した姿である。
 「M&A」とは本来、経営のテーマではなく、手段である。経営者に問われる洞察力(insight)とは、事業の価値とその発展の道筋を創造的に見抜く力であり、よい「買い物」を見極める嗅覚ではない。
 この先、再読、三読は間違いない本である。