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介護職員数の減少は不可避ではない ー批判的レビュ
わりあい介護業界人にとってはセンセーショナル記事が投稿されました。おっとやばいんじゃないかと危機感もちましたがじーっくりと読み進めると?ってところが多く、まじめに反論します。
筆者の論点はおおむね以下の通りです。
2023年度の介護職員数は212.6万人と、2022年度から2.9万人減少。介護保険制度開始(2000年)以来初の減少で、メディアでも問題視されている。
2000年度54.9万人→2022年度215.4万人と増加してきたが、ついに減少に転じた。生産年齢人口の減少(1995年以降約14%減)が影響。
介護職員の増加は、社会保障費の拡大とともに政策的に支えられてきたが、今後も拡大し続けることは難しい。
有業者全体の約13%が医療・福祉分野。これをさらに増やし30%にすることは困難。
資本主義の枠組みの中で、介護は税・保険料による再分配で成り立つため、無限に職員数を増やせるわけではない。
給与を上げるだけでは根本的な人材不足の解決にはならない。高齢化・人口減少の中での対応策が求められる。
今後の対応策としては、介護職員の処遇改善とともに、DX・介護ロボット導入などによる生産性向上が不可欠。
介護職員数の減少は不可避なトレンドかもしれず、長期的視点での対策が必要。
これに対して批判的レビューならびに主張しまーす(ちょーまじめ)
視点は「介護職員数の減少は不可避であり、拡大には限界がある」という筆者の主張に対し、介護職員数の減少は必然ではなく、政策と戦略次第で人材の確保は可能であるという視点です。まじめ、ではありますが一種の思考ゲームですのでお楽しみください。
介護職員数の減少は不可避ではない
― 筆者の誤謬をまじめに、まっとうに指摘いたします。
筆者は、2023年度に介護職員数が減少したことを根拠に、介護職員の増加には限界があり、今後の減少は不可避であると主張している。しかし、ここでは、この主張が 「データの読み違え」 および 「政策や経済成長の可能性を無視した過度な悲観論」 に基づくものであることをお示しします。
筆者のロジックには、以下の3つの大きな誤謬がある。
1.単年の減少データを不可避なトレンドと断定する論理の飛躍
2.介護職員数の増加の可能性を無視し、社会的制約を固定的に捉えている
3.経済成長と政策の影響を軽視し、未来の選択肢を狭めている
以下、それぞれの問題点を詳述し、介護職員数の減少が「不可避ではない」ことを論証しましょう。
1. 単年の減少を不可避なトレンドとする論理の飛躍だ!
筆者は「2023年度に介護職員数が2.9万人減少した」ことをもって、「ついに減少トレンドに入った」と主張されていますが、これは統計的に誤りである。たった1年の変動をもって不可逆的なトレンドとするのは、明らかに論理の飛躍である。飛びます!飛びます! 飛びすぎます!!!
長期データでは一貫して増加だ!!!!!!!
◎2000年:54.9万人 → 2022年:215.4万人(約4倍)
◎2023年の減少は 1.3%(全体の微減) にすぎない
◎20年以上続いた増加傾向が 1年で不可避のトレンドに変わるという根拠はない。
さらに、2023年の減少には、一時的な要因と考えることが穏当ですね。
◎コロナ禍後の労働市場の変動:一時的な離職が発生したが、長期的な影響は未確定。
◎外国人労働者の受け入れ減少(政策変更):技能実習生や特定技能の受け入れが減少したが、これが長期化する保証はない。
結論:たった1年の減少をもって「不可避」とするのは、統計的にやばい思想。少なくとも5年程度のデータが必要。
2. 介護職員数を増やせないという誤った前提?
筆者は、「生産年齢人口の減少」「社会保障費の制約」「介護職の魅力の低さ」などを理由に、「介護職員数を増やすのは難しい」と述べる。しかし、これは現実の労働市場と政策の可能性を無視した誤った見方と言わざるを得ない。
① 労働市場にはまだ余地がある
筆者は 「生産年齢人口が減少する=介護職員の確保が不可能」 という短絡的なロジックを取るが、これは間違いだぞ!!!
◎生産年齢人口は減少しても、労働参加率は増加している:例えば、女性・高齢者の労働参加率が向上しており、これは介護分野の人材供給の増加につながる。
◎有業者総数は6600万人前後で安定:日本の労働市場全体は縮小しておらず、他業種からの労働移動が可能。
◎ドイツ・北欧では医療・福祉の就業者比率が15~20%:日本の13%よりもはるかに高く、国の政策次第で十分に拡大可能。
結論:介護職員の増加にはまだ余地があり、「増やせない社会的装置」はなんぞは存在しない。
3. 経済成長と政策の影響を軽視している!!
筆者は、「介護は税・保険料による再分配で成り立つため、無限に職員数を増やせない」と述べるが、これは経済成長の可能性を無視している。
① 社会保障は経済成長の一部
◎福祉国家である北欧は高い社会保障費を維持しながら経済成長している。
◎社会保障の拡充はGDPを押し上げる要素になり得る(消費拡大、雇用創出)。
◎日本も 介護分野を成長産業と位置付ければ財源の「制約」は克服できる。
② 介護DX(デジタル化・ロボット導入)で負担軽減
◎介護ロボットやAI活用により、少ない人員で質の高い介護を実現可能。
◎介護記録の自動化、見守りセンサーの導入などで 業務効率化が進む。
結論:介護職員の確保は、経済成長と技術革新次第で可能。単なる「再分配の限界」ではありませんぞ!!
4. 実際のデータが示すもの
相関係数の分析
筆者の主張を検証するため、医療・福祉の有業者比率、社会保障費、高齢化率、GDP成長率の相関を分析しました。日本だけの数字ではわからないので、比較対象可能なデータ公開されている日本、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスの各国のデータを参照し比べてみました。2000年対2019年比です。
医療・福祉有業者比率 vs 社会保障費 → 相関係数:-0.532(負の相関)
→ 社会保障費が高い国ほど、医療・福祉有業者比率が低い傾向
→ 筆者の「社会保障費拡大=介護職員増加」という主張と矛盾
医療・福祉有業者比率 vs 高齢化率 → 相関係数:0.132(ほぼ無相関)
→ 高齢化が進んだからといって、介護職員比率が増えるわけではない。
高齢化率 vs GDP成長率 → 相関係数:-0.896(強い負の相関)
→ 高齢化率が高い国ほど、経済成長率が低い
→ 高齢化そのものが経済を抑制するため、「社会保障費増加=経済成長」は一概に言えない。
結論:筆者の主張は、実際のデータと矛盾しています。
5. 結論
◎介護職員の減少は不可避ではございません。
◎政策次第で人材確保は可能であり、労働市場の変化・他産業からの移動・技術革新により、介護職員数は増やせる。
◎筆者の主張は、単年度のデータに依存し、政策の可能性を過小評価している。
◎実際のデータ分析でも、筆者のロジックと矛盾する点が多い。
したがって、「介護職員の減少は不可避である」という主張は 論理的にも、データ的にも成立しない。
(参照)
医療・福祉分野での雇用の割合については以下に依拠しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000905110.pdf?utm_source=chatgpt.com
GDP成長率、高齢化率は総務省統計局「世界の統計」の数値を参照しています。
政府予算に占める社会保障費の割合は財務省「日本の財政関係資料」を参照しています。