MonotaRO(3064)の優越とAmazon(AMZN)投資に見るBuffettの慧眼(特別篇:無料レポート)
多層に価値創造の仕組みを構築し、ダイナミズムを起こし続けるMonotaRO
先週の木曜日(5月9日)にこのような記事が出ていました。
「工具界のAmazon」と呼ばれる、BtoB向けの工業用間接資材や交換部品、切削工具やネジなどを扱う世界最大の通販企業MonotaROが、顧客の工場の敷地内、一画に無人店舗を展開するという内容です。
コンビニサイズの店舗を置く対象は大手企業で、元々は中小零細や町工場などがコアの顧客層であり価値創造の最大の源泉である同社ですが、親会社グレインジャーとの相互シナジーの一環として、購買チャネルシステム(MonotaRO One Source)により開拓したターゲット層です。
その大手顧客の工場の空きスペースを無償で提供して貰う、勿論、棚や決済システム、監視カメラなど店舗導入にかかる設備投資と、維持費は必要ですが、顧客は足りなくなった部材を常時取り出せる、つまり、製品の発注から受け取るまでのリードタイムがなくなるという圧倒的な不の解消があります。
これは、価値創造のビジネスモデルで言うと、サプライチェーンに於ける「顧客先在庫」です。顧客の下に在庫することにより、顧客のリードタイムを極小化して工程のロス、機会損失を無くし、顧客の囲い込み、スイッチングコストやサーチコストの引き上げを狙ったWinWinの仕組み、ということです。
さらには、このアプローチは、2017年に、北海道札幌の道央札幌郵便局の一画を提供して貰って開設した北海道ディストリビューションセンターの横展開でもあります。
北海道エリアは、これまで当日出荷/翌日着のサービス対象外だった、この出荷の納期を短縮し、一部商品では、当該地域配送において発生していた上乗せの地域運賃を不要にするなどして、双方のWinWinを実現しているんですね。今後全国各地に同様の小規模な拠点を構築展開していく計画だそうです。
無人店舗に戻ると、決済をスマートフォンなどの端末でバーコードを読み取る形にして、その売り上げデータから在庫をリアルタイムで把握して、商品を補充しますが、顧客が頻繁に使う消耗性の高い製品を優先的に置くようにします。当然ですが、各顧客のニーズをきめ細かく拾えるようになり、積み上がっていくデータとしての価値も従来よりも格段に高くなります。
ですが、何よりも鈴木社長が強調していたのは、物流コストの高騰で通販による販売のコストがかさみ、電子商取引(EC)が曲がり角を迎えている、ということです。
「今後は顧客自身がデポ(小型の物流拠点)から受け取る方が効率が良くなる」というMonotaROの無人店舗展開の狙いに、私は改めて、Amazonが打っているボトルネックに対する戦略との共通解を見たのです。
そして、先日のバフェットによるAmazonへの投資について、やはり流石だと感嘆しました。
伏線としての対抗策と新たなステージで回収に入ったAmazon
Amazonの参入障壁の肝は物流インフラ、巨額投資によるフルフィルメントセンター増強ですが、そこを梃子にして、生活領域、例えば、食料品宅配サービス「Amazon Fresh」や地元のファーマーズマーケットで調達した新鮮な野菜と果物を配達する「Local Farmers Market Delivery」、日用品をスーパーの価格に近い価格で配送する定額会員向けのサービス「Amazon Pantry」、1時間で配送する「Prime Now」などへ展開していった訳です。
そうなってくると、益々最大の課題になる配送のボトルネックを解消せねばならない、そのために徹底的に注力し続けてきたのです。
ドローンによる配送を行うAmazon Prime Airは勿論その一環ですし、インスタカート(アマゾンの元エンジニアが創業した買い物代行、パーソナルショッピングサービス)やポストメイツのようなシェアリングサービス、いわゆるクラウドソーシング型での自社配送などを行うためにAmazon Flexと呼ぶ契約社員の雇用も強化してきました。
他にも、違うアプローチでのボトルネック解消の打ち手としては、これまでのような、コアのフルフィルメントセンター効率化徹底(そのために、いち早くKiva System(現Amazon Robotics)買収等)だけでなく、配送スピード向上のために、自社配送ネットワークの拠点となるミニ・フルフィルメントセンターを拡げるということも行ってきました。
これは、MonotaROが言っているデポ(小型の物流拠点)や全国各地に小規模な物流拠点を展開することと同じです。
一方で、上述したような生鮮食品を含む宅配サービスの展開というのは、食品のような単価が低い割に冷蔵・冷凍と保存コストや管理の手間がかかるものを取り扱うために、利幅の薄い事業が大きくなるという意味になり、そこにWhole Foodsを買収して、その品質、安全・安心に対する絶対的な信用がある高級ブランドの展開など、ターゲットも含めた多様性を持たせたりもしている訳です。
そして、Whole Foodsにとっての競争優位アセットは、当然実店舗、リアルな店舗です。この買収象徴するように、この3年前後のAmazonの最も大きな変化は、リアル店舗の急拡大です。Amazonのリアル店舗は、Whole Foods約500店だけでなく、多様な展開で800~900にも及んでいるのです。
Amazonが最初に始めた店舗展開は、Amazon Pop-Up store、モールなどショッピングセンターの通路や広間にカウンターやショーケースなどで仕切って出店するブース型のキオスクです。
他にも、リアル書店のAmazon Booksは、モールなどに100坪~200坪の大型のテナントを出店し、これまでの書籍チェーンとは全く異なる売り場、例えばダイナミック・プライシングを採用し、需給状況に応じて価格が毎日のように変動させる、勿論決済はキャッシュレスです。
そして、御存知のレジ無しコンビニ、Amazon Goも10店舗以上に増やしています。人工知能とコンピューターヴィジョンを駆使し、改札のような入り口でスマートフォン・アプリにバーコードを表示させチェックイン、商品を手に取って店を出れば自動的に課金されます。
大学のキャンパス内や学生街に拡大し、ピックアップ拠点だけでなく一部物販も行っているのがInstant Pickup、専用の駐車スペースがついた食料品の受け渡し専用の倉庫がDark Store。AmazonFresh Pickupは、ドライブスルー専用スーパーで、利用者がネット注文した生鮮食品などを、車から降りずに受け取るサービスストアで、予約した時間にスタッフが顧客の車まで運んでくれます。
移動式ピックアップ拠点のAmazon Treasure Truck(画像)なども含めて、リアルに客への受け渡しをするという展開を急拡大させてきたことが、設立当初のような投下資本の急拡大に繋がり、20年ぶり以上に営業CF対投資CFも100%を大きく割り込み、ROICも低下していたのです。
しかし、このビジネスモデルの変化に対しての、矢継ぎ早に行ってきた物流への取組みは伏線であり、直近期で完全に回収に入っていることを数字は示しており、V字ともいうべき反転になっています。70%を割り込んでいた営業CF対投資CFは、約250%に、ROICは2010年以来の高水準で、17%台になっています。
利益構造をガラッと変えたAWSと合わせ技の第2の成長ステージに突入した、というのがここからのAmazonなのだろうと考えると、上述した通り、バフェット流石だなとしか思えない訳です。老いたとか鈍ったとか、とんでもない(笑)
改めてのMonotaRO、ビジネスモデルの特性を考察せよ
そして、逆にこれを見直して見て、改めて、いやいや、価値創造で言えばMonotaROの方がもっと凄いだろう、と言う評価になります。
そもそもエコシステムの提供者は、GAFAのように、サイズとしては無限に拡大しますが、価値創造のレベルは高くないのです。参加レイヤーの方が恩恵を享受し易いのですね。そして、ドンドン領域を拡げる事で脅威が喧伝されますが、こちらも、むしろ対象市場に特化したライバルの引き立て役になることも多いですね。Netflixしかり、MonotaROしかりです。
ということで、以上、最近のニュースの点と線を繋いだ御話でした。(了
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