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太陽

雨の日に気分が落ち込むことなんて、生まれてから一度もなかったと思う。外で遊べなくても体育館でのドッチボールも好きだったし、舞台裏の暗がりに息を潜めて隠れた昼休みや放課後も、たぶん行き過ぎて怒られたけど、大好きだった。時々、夢を見る。あの頃、雨の中で歩き回った身近な場所をまた彷徨う夢。舞台の上の埃を被った葡萄棚を這いつくばって進む。天井は見えなくて、底抜けに明るい。一人で二三秒進み、落ちる。校庭に飛び出し、鬼ごっこをする。顔の見えない友達が笑顔で追いかけ、逃げ回る。楽しい、底抜けに楽しい。私は夢の中で、あの頃にいる。あの頃と違う、あの頃にいる。雨の日に、諦めたように心が沈んでいき、研ぎ澄まされていく。この時間だけ流されることのなくなった心で、夢を見る。私は今の時間の中で、あの頃にいる。だから私は、生まれてから一度も雨の日を嘆いたことなど、ないと思う。

太陽
2024.10.4
雪屋双喜

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