【現代詩】十分な自由
配慮と邪な優しさは裏を返しても十分な人間らしさを持ち合わせている。想えば色が変わるなら心はきっと恋をした。指先の震えが文字になるなら絵描きはきっと心をどこかに奪われて不自由に帆を立て波を切り遠くの蛍を頼りに泳ぐ。溺れるほどに光は滲み幻想の主体が表現を曇らせる。第二の自分を仮定した不確実な世界に分け入る身代わりをここに与えるそれが創造と破壊の同時性を僅かに歪める。
安寧で満ちる欲を持ち
空腹を恐れた我我が
詩をかたる
求めた先は、知らぬ何かの腹の中
飲まれて漸く自分を見知る。
海月も蛍も大地も
凡て失われた一部で
廃墟を実存とした罪の証
投げ捨て忘れたことだけが
十分な自由となって不自由をもたらす
嫌いな言葉を愛せるうちに光を紙に写し彼らの曖昧な時間の夢を理解できずに苦しむ振りをすることもやめたなら
「本当」という幻想に
打ち勝てるだろうか
無恥を軽蔑し研鑽しその先には何もない
この世を愛せ、彼らを愛せ。
遥か昔からの嘘を愛せ。
十分な自由
2024.3.19
雪屋双喜
一人の為に書くことを辞めたその前に言い訳のような一片を。