詩 波
無作為な個を一つ一つ赦していったその先に
私さえもいない透明な感情があって
無音や無風や無色と同じ、何処か寂しく整っている
水銀よりも深くを歩く目的意識の欠片を落とした
日々の中にまだ今日がいて夕暮れ色に滲み出る
昨日の私は息を吸う。昨日の私は息を吐く。私は息を吸う。私は息を吐く。息を吸う。息を吐く。息を。息を。
生きているというただそれだけが
引き算しようのない確かな愛が
眩しくて、眩しくて
どうしてか赦せない
息をしたその瞬間だけ
手で覆ったその向こうにスリットアニメが見える
非現実性のいつか落としたはずの欠片
ちかちかと
息衝いている
生きていく自信がなくて消えたくなる
だから消えてしまう自信がなくて生きていく日々を
苦しみの中で見える向こうを輝いて見えた現実を
息をこの息を条件もなく赦すことのこの難しさを
私を引いた世界で見つける
今ここに私たちはいなくてもいい
ならいてもいい
曖昧な海の波間に時々聞こえる勇魚の声に
分からないままで応えていた
波
雪屋双喜
2024.6.28
あの海に入れない僕らだから