詩 一樹の陰
君
から逃げ出して、こんなところにいる。
濡れて醒めただけの景色。
雨音の下、ただ思い出す
君
から逃げ出して、こんなところにいる。
葉を雨打つ音、遠雷、蚊羽、鼓動。
草の下に溜まる水滴を見つめていた
君
から逃げ出して、こんなところにいる。
君の先に何を見ていたのだろう。
雨音の中、口を開く
君
から逃げ出して、こんなところにいる。
誰もいない場所を探して空を見上げる。
知らない誰かを愛するような
君
から逃げ出して、こんなところにいる。
出し抜けに言葉を贈ろう。
雨雲の中の晴れ間に辿り着いてから
君
へと向けて一言を。
口の端を破って出ていく愛の囁き言を。
私の中の君を壊し去るための挨拶を。
さようなら。
2022.8.14 一樹の陰
忘れなければ、今の君が私の中にいられない。
雪屋双喜