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命を絶つこと。
人を殺すこと。
人に殺されること。

俯瞰してみるような物じゃない。
あんたらなんかが言葉にしていい物じゃない。
分からない、知らないことを物として。
そんなことは人として。


人として──。



2023.12.11
雪屋双喜

国連で誰かが手を上げることが誰かの死に繋がる現代で、命を教科書の中でしか重んじられないこの国で、書いた言葉を見返して、底に映り込んだ自分を情けないとは思わないか。

Photo by Nataliya Vaitkevich from Pexels: https://www.pexels.com/photo/man-holding-woman-s-face-5643910/



夜空の星々が鏡に映る夜景であったら。
平和論者の笑顔の声は遠くの川の水面の光。
煌めけども手にはできない陽炎への憤怒。

命の定義を人が決めることの意味を問うたところで、
どの言語にもきっと「殺す」の一語は正しくあって、
翻訳しても逃れられない罪悪感は時代の波に見え隠れする。

世界平和を願うなら誰も愛してはいけない、と。
そんなことを言ったあの人を私はどこか大切にする。
死が最果てを目指す言葉の旅を区切る最後を爆ぜるような一生の連続を。

死んだあの子はどこへ行くのだろう。
言葉も知らずに殺された子供はどこへ行くのだろう。
聖書の言葉が救わないあの子らはどこへ行くのだろう。

夜空の星々が鏡に映る夜景であったら。
あの子は今もあの星として輝く。
世界は変わらず遠くで遅れて見つめただけ。

2023.12.11



勝手に生きている僕らの中に
心を揺らすあの日々が
懐かしい思い出以上の何か大切なものとして

存在できたままだったなら
今僕はここにはいない

勝手に生きている僕らの中に
遠くで銃口の先に立たされた過去が
今手を繋ぐべき理由以上の何か不完全なものとして

存在できたままだったなら
今僕はここにはいない

甘んじて勝手に生きている僕らの中に
無関心の領域が
笑いあって生きる喜び以上の何か罪として

存在できたままだったなら
今僕は手をかけたドアノブを回せない

その向こうに何があるか
すでに知っていたのだから

心が拒絶したその何かを
受け入れた僕らは

何なのだろう


2024.6.14



キッチュな愛を満たしたくて。
腫れた頬に右手を添える。
命の形に蹴りを入れて。
ビートを潰した沈黙が拍手を以て迎えられる。

同じ顔が並んでいる。
夢も未来も才能さえも。
消費されて価値を無価値で量り売る。
私は鏡を見たくない。

キッチュな雪に埋もれたまま。
歪んだ顔を撫でていた。
誰かも分からないその人に。
誰かを託して愛してる。

同じ顔が並んでいる。
同じ表情のまま並んでいる。
同じ色のまま血を流し同じ痛みを感じている。
同じ命を生きている。

キッチュな悲鳴に侵された心地よい朝のテーブル。
笑いあうその人を私は知らない。


2025.1.13



全て元通りとその人は言う
荒野を前に元通りと

家はどこに行っただろう
雀はどこを飛んでいるだろう

草木も見えない灰色の街を
二人きりで手を繋ぎ歩く

私の手だけが微かに震える
もう一度強く握った

花壇はどこに行っただろう
サッカーボールは
貰った手紙は

受け取ったものの全てを
どこかに忘れてきたらしい
全て元通りとその人は言う

笑うことに必死でいた
昨日離した手がまだ温い

手の先にいたあの人
匂いすらも灰にまみれて見えなくなる

あの娘はちゃんとあの場所に帰れただろうか



2025.1.16

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