詩 筆致
文字の脈がほどける頃
私はひとり貞淑に正し
広い紙に名を呼びながら
一切れずつ書いていく
いつかの手紙で誤魔化してしまった感謝の言葉
震える字でも伝わる有難みは今の世の中で
忘れられてはいけないと思うのです
ふつふつと鳴りながら紙の上を走るインクより
さかさかと擦られながら紙を汚す黒鉛より
色すら忘れた思いの中にそれは確かに形をもって
文字のほどけた秋の頃
狭くなった余白の中に
見つかるまいと隠れる共感依存の思い出が
切り離されずにふわふわと
微笑みながらも私は貞淑に
紙の上に線を引くのです
2023.10.16
筆致
雪屋双喜
選ばれた心がそこに立つ。