枇杷
光を肌にのせて寝転んだ。
虫の飛ぶ像が心地よく頭の中に響く。
緑がこの全身を失くした存在として包み込む。
無い点の歪な身体が集合の外から世界を眺める
夢の中で触る現実を昼間にふと立ち上げて、
離れようと足引く反転の一拍をめがけ射た。
水面の音を遅れて聞き、
なぜかしらん。揺らぎを寂しさと強がる。
庭の植木に落とした雫。
自我よりも早く樹になっていた。
七年目に漸く実った小さな草臥れた枇杷。
両手を広げて私が食べると勇んだあの味。
思い出せない記憶の棚に踏み入る。
集密書架の匂いを記憶のそれと僻む。
奥深く箱に綴じられた何冊かに挟まって、
あの枇杷の葉が残ってはいないだろうか。
あの枇杷の葉を想い出せはしないだろうか。
私はこの先いくつかの季節を跨ぎ、
眉が色を失うまで不規則に揺れ動く。
風に吹かれた固い枇杷の葉の脈の中に、
きっと無限の我が紛れている。
紙に祈るその姿に光が触れる。
久しぶりと掛ける声が涙色の懐かしさを連れていた。
夕に染め抜いた空の心が残る。
枇杷の実を日にあてて少しの機微を楽しむ。
かじりついた果肉の温さに全身が揺れる。
頬の上に夏が来ていた。
2024.7.13
枇杷 雪屋双喜
不味さに切なさより目の先が白むような心地がする。