新入社員のコーヒーぶっかけ事件
入社して約4ヶ月後、わたしは取引先の偉い人にコーヒーをぶっかけた。
あの日、上司が同じオフィスビルにある取引先と打ち合わせがあった。あいにく会議室の予約がいっぱいだったので、ビルの食堂スペースが打ち合わせ場所となった。
取引先からは、社長と副社長が商談にいらっしゃった。わたしは上司に食堂スペースに呼ばれ、飲み物を買うようにいわれた。上司と社長のコーヒー2つと、副社長の紙パックの豆乳を購入し、そしてお盆にのせて運んだ。
マナー研修ではお盆をおいてから飲み物を配ると習ったが、商談していたテーブルが小さく、周囲にも置く場所がなかった。ただ飲み物をサーブするのは、大学時代の披露宴でのアルバイトで経験があったため、そのまま飲み物を配り始めた。
タイトルから、この先の展開には察しがつくかもしれない。社長のコーヒーを手にかけたとき、異変が起こる。食堂のお盆は長方形、片手持ちだとバランスが悪いので飲み物3つは中央に寄せていた。だがお盆からコーヒーを1つ手にとったとき、お盆の均衡は崩れた。手に持っていない、もう1つのコーヒーはお盆のうえを滑り出すと、副社長に向かって飛び込んでいって……
バシャ――――ン!!!!
取引先の副社長の背中に、コーヒーを思いっきりぶっかけてしまったのだ。
一気に血の気が引いた。上司は慌てふためき、クライアントはざわざわとしている。コーヒーをこぼした時の対応なんて、研修で習っていない!!!新入社員のわたしはとにかく焦りと絶望で、「すみません」「申し訳ございません」「大変失礼いたしました」をランダムに繰り返すばかり。入社してはじめて「終わった」と感じた瞬間だった。
ただ、この「コーヒーぶっかけ事件」は大事にならずに済む。2つの不幸中の幸いがあったからだ。
1つ目は、コーヒーがアイスだった点だ。ホットだったら確実に火傷を負っていた量をぶっかけていたので、アイスコーヒーを頼んでくれた上司と社長に心から感謝した。
2つ目は、ぶっかけた相手が社長ではなく副社長だった点だ。会社のトップに粗相をしたとなると新入社員のわたしは卒倒してただろうが、副社長なのでほんの少し気が楽になった(副社長、本当にごめんなさい)。それに幸い副社長は非常に懐の広い方で、クリーニング代をお支払いする際に「新入社員だから仕方ない」と許してくれたのだ。(さすが人の上に立つ方は違う!)
以上が、入社して初めての大失敗だ。そしてここまでアホらしく情けない大失敗は、社会人生活の中でこの「コーヒーぶっかけ事件」より他ない。
#社会人1年目のわたしへ 。言いたいのは1つだけ。お客様に飲み物を出すのは慎重に、本当に慎重に。では入社4か月後、健闘を祈る。
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