ユダヤのKosherのこと
これまでの20数年の海外生活を振り返ると、常に“宗教”が周りにありました。
南米ではキリスト教〜主にカトリック
アフリカでもキリスト教〜カトリックやエチオピア正教など
その後はアラブでの生活が長かったので、周りにはイスラム教徒が多く、時にはキリスト教〜カトリックのほかエジプトコプト教やシリア正教などもありました。
ここエルサレムに来て初めて触れたユダヤ教…
これまでの常識を覆す規定や習慣がとても多く、ひとつひとつが目新しくて興味深いことばかりです。
ユダヤ教の食規定〜Kosher
ユダヤ教はものすごく決まり事が多いのです。
中でも、日常生活の基本である食に関する規定は特に厳しいです。
食事規定(カシュルート)というものがあり、この規定に適合した“食べてよい食物”のことをKosher と言います。
Kosher とはヘブライ語で「適正な、相応しい」という意味。
コーシャ(コーシャー)、コシェル、カーシェルなど発音と表記は様々ですが、ここでは便宜上コーシャで統一します。
コーシャとは何⁇
食べて良いもの、ダメなもの
ユダヤ教は旧約聖書を基盤としています。
旧約聖書(レビ記)に、食べて良いものは
「4つ足の獣のうち反芻し、ひづめが分かれているもの」
「猛禽類など一部を除く鳥」
とあるので、牛・山羊・羊・鶏などはOK。
肉の処理も大切な工程で、ユダヤ教のラビ(宗教指導者)の監督の元、決められた手法に基づき、訓練を受けた専門の職人によって屠殺されます。
さらに「血は命である」(レビ記)と書かれているために、血を食べる又は飲むことが禁じられています。
そのため屠殺後には血抜きをします。
もちろん決められた方法で。
きちんと血抜きをされたものが晴れて Kosher meat 、すなわちユダヤ教徒が食べてよいコーシャの肉となるのです。
一方で食べていけないものは反芻しないブタ、ひづめの分かれていないラクダやウサギなど。
また、水中に棲む生物のうちヒレやウロコを持たないものも食べられないので、エビ・タコ・イカ・貝類・ウナギなどは全てNGです。
イスラエルのレストランやカフェ、ファーストフード店など飲食店は、殆どがコーシャのお店です。
コーシャのお店では必ず、ユダヤ教ラビ(宗教指導者)によって認定された「コーシャ証明書」が掲げられています。
コーシャにおける肉と乳製品
さて、コーシャにおいて、もう一つ重要なのは「肉と乳製品を同時に使ったもの」はNGだということ。
これは旧約聖書(出エジプト記)に「小ヤギをその母の乳で煮てはいけない」と書かれているためなのだそうです。
ということはつまり…
ユダヤ社会では
チーズバーガーはあり得ない!
もちろんサラミが乗ったチーズピザもない。
でも魚類は乳製品と一緒に食べて構わないので、サーモンのクリームパスタは大丈夫です。(笑)
コーシャのマックには、当然コーシャメニューしかないので、ハンバーガーやチキンバーガーにチーズやマヨネーズは一切入っていません。これ、実はすごく味気ないのです。
しかも、一緒に食べないだけでなく、胃の中で一緒になることを避けるために、一方を食べたら暫く時間を空けなくてはいけません。
本当に驚きです。
このホテルは、ユダヤ教の超正統派と呼ばれる人たちが住んでいる地域にあります。
ホテルのレストランはもちろんコーシャ。
しかも、このレストランには、「肉料理専用」と明記された看板があるのです。
つまり、ここではミルクやチーズ、ヨーグルト、クリームなどの乳製品、および乳製品を使ったメニューの提供は一切ありません。
このレストランは朝食も出していますが、宿泊客の朝食にも乳製品は一切登場しません。
コーシャのワイン
ところで、ユダヤ教はイスラム教と違って酒類を禁止していないので、ビールでもウィスキーでもワインでも買えるし飲めます。
イスラエルにはワイナリーが沢山あり、良質のワインも沢山作られていますが、ビールやウィスキーに比べて特にワインは扱いが慎重で、厳格なコーシャの方法で栽培され、収穫され、作られた Kosher wine コーシャ・ワインが売られています。
このワインの裏ラベルにはコーシャ製品であることを示す“Uマーク”があり、כשר(Kosher:コーシャ)の文字が表示されています。
それに、なんとユダヤ人以外の人(異教徒)が栓を開けたワインは飲んではいけないのだそうです!
肉でも乳製品でもない食品
Parve/Pareve(パーヴ/パレヴ)
コーシャの食べ物の中で、野菜や穀類のように肉でも乳製品でもないものがあります。
それらをParve / Pareve(パーヴ、パレヴ、パレーヴ)と言います。
「中立的な」という意味の言葉です。
これは野菜や果物、穀類、豆、卵、魚、水などですが、規定によれば「地面から生えたもの、非生物のもの」ということだそうです。
パーヴの食品は中立なので、乳製品食品とも肉料理とも合わせて食べることができます。
ただし、野菜や果物はもちろん、卵も魚も、調理する際に乳製品(バターやチーズ、クリームなど)と一緒に調理すれば、それはもはやパーヴではなく乳製品扱いとなり、肉料理の付け合わせには出来ません。
パンやケーキなどお菓子も、パーヴであるためにはバターやミルクを使わないで作る必要があるのです。
スーパー等で売られているパイ生地を使った焼き菓子です。
コーシャ・パーヴと書かれているので、バターは使わず植物性オイルが使われていることがわかります。
肉料理の後のデザートで食べることもできますね。
コーシャの野菜
コーシャの厳格さにも段階があります。
より宗教的な人は徹底していますが、それほど厳密ではない世俗的な人は、実はあまり気にしていません。
例えば、普通、肉でも乳製品でもないパーヴの野菜は、野菜そのものであれば問題なく食べることができます。
けれども厳格なユダヤ教徒にとって、野菜に虫が付いていないことが重要です。
コーシャに厳格なユダヤ教徒が安心して食せるように、ハウス栽培で大変綺麗なパック入り野菜であっても、食べる前の注意事項が提示されているものがあります。
この葉野菜が入ったパックには、ヘブライ語(左の赤四角)と英語(右の赤丸)で以下のように記されています。
「ハウス栽培された野菜であるが、食前に石鹸水に3分浸し、そのあと流水ですすぐことが宗教指導者(ラビ)によって奨励されている」
農薬を使って虫が付いていない野菜なのに、それを徹底すべく石鹸水で洗えというのですから、体への悪影響が心配されます…。
ところで、イスラエルにはオーガニック製品(食品含む)を扱うお店が結構あります。
オーガニックというと無農薬(もしくは低農薬)かと思いがちですが、これは化学肥料や農薬を使っていないということであって、有機栽培されたものなのですね。
オーガニックコーナーで売られている野菜のパッケージには、昆虫の管理はされていないことが書かれています。
見るからに綺麗な野菜なので、おそらく虫が混入していることはないと思いますが、100%ではない、ということで、厳格なユダヤ教徒は使いません。
ちなみに値段は倍近く高いです。
Kosherキッチン
さて次に、食べ物だけではなく、調理する台所についてです。
台所も規定(Kashrut:カシュルート)に基づいた“コーシャ(適切な)”キッチンです。
肉と乳を一緒にしないために、調理用品や食器類、洗い場も全て分けます。
もちろんスポンジもゴミ箱も別々に用意します。
食卓はテーブルクロスを変えるのだそうです。
驚きですよね。
我が家が借りて住んでいるアパートの台所にも食器棚とシンクが2つずつあり、それぞれに「肉用」「乳用」と書かれています。
もっとも、ユダヤ教徒ではない我が家は分別などせず、全てごちゃ混ぜで使っています(笑)
…大丈夫なのかって?
はい!
異教徒が使ったものは浄めの水に浸せば問題ないのだそうです。
うちが退居した後、聖水で掃除するのでしょうね。
けっこう都合よくできているんだな、と思います。(笑)
下記サイトには、異教徒が使った台所を清浄してコーシャキッチンにする手順が詳しく書かれているのでご参考まで。(英語です)
Koshering Your Kitchen
https://www.chabad.org/library/article_cdo/aid/82667/jewish/Koshering-Your-Kitchen.htm
コーシャを知って思うこと
本当に規定が沢山あって、おそらく世界中のどの宗教よりも厳しいのでは?と思います。
実は、また別の機会に詳しく取り上げたいと思うのですが、イスラエルは世界の中でも非常にヴィーガン(完全菜食主義者)の比率が高い国です。
コーシャを厳格に守るには、ヴィーガン食はとても効率が良く便利だと言えます。
コーシャを守るユダヤ教徒が多いために、イスラエルは世界有数のヴィーガン国家なのではないか?と思うわけです。
また、ユダヤ教徒以外の、コーシャに基づいていない異教徒が調理したものを一切食べられないのですから、知り合ったユダヤ人を食事に招待するなんてあり得ません。
飲み会なんて…もっての外ですね。(笑)
そんな状況では、ユダヤ教徒の人となかなか仲良くなれないのも無理はないことで…。
とても壁を感じてしまいます。
しかも。
ユダヤ社会では、食物に関わらず日常生活で使われるあらゆるものが“Kosher=適正なもの”でなければならないのです。
食規定以外のコーシャについては、また次回。
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