もっと抱きしめてやればよかったタロウのこと③
タロウの家は父子家庭になっていた。
隣の校区にある父の実家から、タロウは校区外申請を出して通学することになった。
日常的に繰り広げられるクラス内での揉め事。
私がいてもいなくても変わらない、数々の友達に対する意地悪。
そんなことが起こる度に、お父さんの携帯に電話をして、「本当にすみません。私の目が行き届かなかったせいで、またトラブルを起こしてしまいました。」と謝ることばかりだった。
そんな時、お父さんはいつもこう言った。
「先生がおってくれるから、息子は学校が好きや!って言って生活できてます。先生に迷惑しかかけてない自分たちが悪いんです。どうかそんなこと言わんといてください。私が親として、しっかり先方に謝罪させていただきますので。」
電話を切る度に泣けてきて、
私は一体何をしてるんや?と責めることしかできなかった。
その時のクラスには、
タロウ以外にも
心が繊細すぎる子、
手取り足取りしてあげなければ何もできない子、
目を離した隙にいなくなってしまう子、
嘘ばっかりついて逃げようとする子、
告げ口が好きすぎる子...
みんなみんな
その言動の裏に“大人に構って欲しい”気持ちがあるのは分かっているのに、抱きしめてやれる手があまりに足りない...
そんな37人学級。
ある朝、1人の女の子が私の目の前で、タロウに封筒に入った手紙を渡した。
「これ、うちのパパが、タロウくんのお父さんお母さんに読んでもらいたいから渡してって言ってた!ハイ!」
嫌な予感。
「そうか、めちゃくちゃ大事な手紙なのね!タロウに渡したらすぐなくなるかもしれないから(片付けももちろん苦手なので)、帰りの会の時にタロウのランドセルに一緒に入れようね!」
女の子にそう言って、
臨時というテイでその手紙を受け取る。
封がされていないその手紙。
こっそり中身を確認してみた。
そこには予想通り、怒りに燃えた女の子のお父さんからの長い長い思いが綴られてあった。
⚫︎あなたの息子が、わたしの娘である○○に対して、継続的に苦痛を与えている。
⚫︎私たち夫婦は、この状況を決して学校や担任の責任であるとは思っていない。担任はあなたの息子を含め、クラスの子供達に対してしっかり指導しようとしてくれている。
⚫︎子供が周りに迷惑をかけているのは、一重に家庭の責任である。家庭の教育力の問題であると言わざるを得ない。
⚫︎私たち夫婦は、タロウくんご両親と一度話をしたいと思っている。連絡先を記しておくので、連絡ください。
...
もうダメだ。。。
急いで管理職の先生のところに行き、
私がいますぐやるべきことは何か、助言を仰いだ。
①この手紙は、そのままタロウに持ち帰らせること。(担任は見ていないことにする)
②先回りで、タロウの父に状況を説明すること。
③タロウの父から、先方に直接連絡してもらうこと(できれば、謝罪していただけるとありがたいけど)。
そのままその場で、タロウの父に電話をかける。会社の営業職とのことで、大体いつもすぐ電話に出てくれる。
経緯を説明して、また謝る。
女の子のご両親が怒りに燃えたのは、運動会の児童席での出来事。私が全体の仕事で抜けていた間の、子供同士のやりとり。
明らかに悪いのは、タロウ。
そのことでもちろんタロウに後で指導はしたが、ご両親の思いが収まることはなかった。
タロウの父が丁重に先方に電話してくれたことで、その出来事はそこで終わった。もしかしたら、家まで菓子折りを持って謝りに行ったのかもしれないが、今はもうよく覚えていない。
だけど繰り返し繰り返し、何度も何度もそんなことが起きた。
何かが起きる度に、私もいろんな子の家に家庭訪問し、その都度いろんな出来事についての自分の監督不行き届きを謝り、親にも子供にも同じように謝った。
「辛い思いさせてごめんね。それにちゃんと気づいてあげられてなくてごめんね。いややったよね。辛かったよね。」
つくづく、自分のことが大嫌いやと思っていた。どうしていいか分からない...
〜続く〜
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