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短信 | 極寒の大地より
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”我々はより多くを聞かんことを切望す。
国内の山村にして遠野より更に物深きところには又、無数の山神、山人の伝説あるべし。
願わくは之を語りて
平地人を戦慄せしめよ。”
※原文ママですが、恣意的に改行、句読点の挿入、および一部を太字書きに編集
皆さま、厳しい寒さが続いていますがお変わりないでしょうか
わたしは今、仕事で、東北地方のとある「豪雪地帯」に入っています
短信 | 極寒の大地より
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直近の報道で頻出している単語を無造作にここに並べれば、現在、ここ日本列島は「最強」と「最長」の大寒波に覆われていて、その中でも特にわたしが今滞在している東北地方のとある奥深い山間部には、もはや「災害レヴェルの大雪」が、一切の音を立てずに朝から晩まで間断なく降り続けています
実際、この地に降り立ってまず感じられたのは、この地は寒さの「質」が異なるということで、直近まで滞在していた福岡で感じられた寒さとはやはり根本からその「質」が異なっているようにわたしには思えてならないのです
今年に入って福岡でも降雪はありましたが、それはあくまで身体の表層上の寒さだったように思え、それに対してここ東北地方の今年の寒さとは、芯まで凍りつかせるような、だから危険な、そう、かつてヨーロッパで暮らしていたときや、そして同じく厳冬期のヨーロッパ全域を旅した際に感じられた本物の寒さのように、どうしても、わたしにはそう感じられてしまうのです
そしてその感想はあながち見当はずれではなく、この地で宿泊しているホテルの受付のご年配の女性スタッフに、仕事を終えたある晩に訊いたところによると、本当に冷え込む夜は-10℃、つまり氷点下まで気温が下がり、そうした夜は猛吹雪に覆われ路面はいわゆるアイス・バーン状態、そしてホワイト・アウトが視界の全てを白い闇に染め上げ、交通も物流も、人との直接の交流も含め、あらゆる全てが静止する超低温の世界、そして淡く鈍い陽光だけを白銀だけが乱反射させることができる、極寒の大地へと変貌するのです
そして、わたしがこれから数か月滞在するこの地方とは、柳田国男が1910年に発表した、この雪と氷、そして森に覆われたこの地方に纏わる逸話や伝承そして怪異譚を集めた逸話集「遠野物語」の舞台にほど近い豪雪地帯のとある山間部で、それはつまり、かつて魑魅魍魎や物の怪、妖怪たちが跋扈していたとの伝承が今でも色濃く残り、特に古来より天狗や河童、座敷童が棲息しているという、幻の大地、と呼んでも大きな相違はないのかも知れません
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そしてこの地には、福岡、いや、今、日本中に溢れかえっているといわれるインバウンドの観光客の姿もわたしは今のところ、誰一人全く見ていません
おそらくは件の「最強寒波」がもたらした大粒の牡丹雪が昼夜を問わず、そして音もなくひたすら舞い落ちるだけのあまりに厳しい気候なので国内外の観光客の脚を止め、この土地まで来ることを拒んでいるからなのでしょうか
だからわたしには、この土地は、朝から晩までただひたすら、しんしんと雪が舞い落ち、その雪が全てのあらゆる「音」を飲み込んで吸収しているかのような、静謐さに満ちた、本当に静かな大地のように思えてならないのです
だから本来、これから数か月の間滞在するホテルのこのライティング・デスクで、じっくり腰を落ち着けてnoteで記事を執筆するには、考えようによっては最高の環境なのかも知れませんが、もちろんこの土地へは旅や観光目的で訪れているわけではなく、これからわたしが本来やるべき仕事に集中するためにも、再び、このアカウントを少なくとも雪解けの春先までは、この地の氷と同じく完全に凍結させなければならない状況となり、そのことをお知らせする為に、本来予定になかったこの記事を立ち上げることにしたのです
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HOTEL
駐車場からエントランスまでのアプローチを歩いていて
初日の夜にさっそく凍結した路面で滑って転び、尻もちまでつく始末・・・
転倒後に誰にも見られていないことを確認後、立ち上がって撮影した一枚
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HOTEL / 朝食
白米の上に大葉、とろろ、ちりめんじゃこ、大根おろし、めかぶを乗せ薄口の醤油を少量かけた
最近のお気に入り
(全て東北産)
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上記の総菜に花巻納豆を加えた、別の日のスペシャル版
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また別のある日は納豆ではなく、焼き鮭のほぐしを加えたスペシャル版
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これは塩鯖の身をほぐして加えたもので、このように毎朝いろいろな味が楽しめる♡
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刻み豆腐、油揚げ、わかめ、ネギのお味噌汁
ビュッフェ形式の朝食には、おかずとしてブリ大根や筑前煮、焼き鮭や鯖の味噌煮、肉類なども充実しているが、上記のご飯とこのお味噌汁だけで身も心も充分に満たされる
ちなみにこのお味噌汁は毎日、二杯を完食♡
しかしだからといって、もちろん、週末に記事を書けないこともないのですが、わたしはいつも、こうした「新しい土地」に入ると、好奇心に背中を押されてじっとしていることができない性質があり、だから冒頭に掲げた「遠野物語」に出てくる、いわば”水の神”とも呼べる「河童」に、好物であるという、胡瓜を買ってご挨拶をしに河童淵を訪ねたり、そこへ行くために毎日苦戦している、レンタカーでの雪道運転の練習をしなければならないのです
そして今回、恣意的に持ち込んだ本は僅かに二冊で、ひとつはやはり柳田国男の「遠野物語」、もう一冊は宮沢賢治の詩集「春と修羅」で、どちらもこの土地に所縁の深い高名な作家の古い作品であることに間違いはありません
今は夜、眠る前にベッドの中で後者の作品をパラパラと捲っていますが、最後に読んだのは間違いなく十代の中頃の頃で、当時も強く印象に残ったことは間違いないのですが、細部まではどうしても思い出せず、こうして三十年の刻を経て断片的に読み返すと、改めてその素晴らしさに激しく心を揺さぶられ、眠気が綺麗に去っては気がつけば深夜まで読み耽ることがあるのです
全編を通して、この極寒の大地、森羅万象に対する土着した郷土愛を汲み取ることは恐らくはきっと誰にでも容易に可能なのでしょうが、特に、最愛の妹トシ(子)を若くして結核で失って以降の作品群、それはたとえば「永訣の朝」、「無声慟哭」、「青森挽歌」には、時に彼自身の心の、昏く深い内奥で、喪失が生み出し続ける決して癒えることのない、そして悲鳴にも似た「痛み」が封じ込められているようにわたしには思え、行間には祈りや懇願、虚無、そしてやはりこの森羅万象のその中でもことさら厳しい北国の原風景が、土着するかのような古いひらがなを用いて静かに揺蕩っています
耳ごうど鳴って
さっぱり聞けなぐなつたんちゃい
すべてのあるがごとくにあり
かがやくごとくにかがやくもの
おまへの武器やあらゆるものは
おまへにくらくおそろしく
まことはたのしくあかるいのだ
みんなむかしからの
きやうだいなのだから
けっしてひとりを
いのってはならない
ああ わたしくしは
けつしてさう
しませんでした
「青森挽歌」より一部抜粋
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あいつはこんなさびしい停車場を
たったひとりで通っていったらうか
どこへ行くともわからないその方向を
どの種類の世界へはひるともしれない
そのみちを
たったひとりでさびしく
あるいて行ったらうか
こおんなにして眼は大きくあいてたけど
ぼくたちのことはまるで
みえないやうだったよ
どうしてギルちゃん
ぼくたちのことをみなかったらう
忘れたらうか
あんなにいっしょにあそんだのに
「青森挽歌」より一部抜粋
賢治はこの詩集を上梓して自費出版をし発表した後に、故郷の花巻を遠く離れ、さらに北に向かい、彼固有の「心象スケッチ」を続け、その中で亡き妹との魂の交流の方法を模索しながらも、最終的には仏教(法華経)に癒しと救いを求めて深く傾倒していき、そして終には、暗く美しい太平洋の海に、まるで吸い込まれるようにしては消えていく吹雪が舞う真冬の海岸線で、水平線よりもさらに向こうの海の果てに、最愛の妹の幻影を見たとされています
それは賢治を黄泉へと誘う「鬼火」のような妹の亡霊だったのでしょうか
それとも無声に慟哭を上げ続ける兄への慰めのための幻だったのでしょうか
そしてその海岸には一体、どのような風景が広がっているのだろう・・・
この「春と修羅」の、妹トシへの鎮魂のための連作の詩を読んだときに、わたしはこの宮沢賢治の生涯と詩生をあまり詳しくは理解できていない貧しい身でありながらも、あるいは・・・、あるいは、これを「芸術性」とまで昇華させて呼べるのかどうかの判定まではわかりませんが、少なくともひとつの「叙情性」、しかも、噎せかえるまでの激しい叙情性を秘めた詩作の、その、ひとつの極北にまで単身到達することができた、孤高の詩人であったと言い切ることは、あるいは赦されるのかもしれないと思ったりもしています
国内の拠点が福岡であるわたしには、こうして東北地方まで来るということはなかなかその機会がないので、この恵まれた素晴らしい機会を利用して可能な限り、「春と修羅」の舞台となった土地を中心に、雪道に残った賢治の足跡を追走し、いつかここnoteで紀行文として仕上げることができないかを模索し始めている段階なのです
しかしながら、いずれにせよ、そうした足跡を追って訪ねた後、自分自身の内面に深く落ち切るまでは筆は取るつもりはないので、果たして本当に書けるかどうかは現段階では不明ではあるのですが
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今は「レイク・チューリッヒ」と名付けた連作の途中で、こうしてアカウントを完全に凍結させることにはかなり抵抗はあるのですが、わたしは元々器用なタイプでは決してないので、仕事とこのnoteを両立させるのはいつも非常に困難で、無理にそうすると、そのどちらかが必ず中途半端となり、最終的に破綻をきたすことになるので、どうかご容赦頂ければと思っております
以下に、復帰後の作品の告知をさせて頂きますね
毎回ながら、「告知」とはいささか大げさのようにも思えていますが、これは何より自分自身の為の、つまり、「告知した以上はどうにか時間を作って書くしかない!」と追い込むためでもあるのです
中にはかなり以前に、すでに完成している作品もあるのですが、アカウントの凍結以降は一時的にログアウト、アプリのアンインストール、メールの通知も仮停止させるので、せっかく頂いたコメントにお返事もできなくなるので、復帰後にいつもの通りに予約投稿の機能を使用して、機械的に週一本のペースで発表していく予定です
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告知
レイク・チューリッヒ 08 |
赤と黒のフラッグ、帝国水晶の夜
状態:完成済み/編集中
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レイク・チューリッヒ 09 | 完結
夜の長距離バスターミナル
状態:執筆中
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肉の門、骨の山、涙の河
美術評
鴨居玲(1928-1985)
57歳没/自裁
状態:執筆中
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連作
事故 | 男と女
状態:完成済み/10,000字
2024年3月から8月までのインドネシアにおける華僑の友人との交流紀
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事故 | ジャカルタ、下弦の月
状態:完成済み/10,000字
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事故 | スマラン、凌辱の雨
状態:完成済み/10,000字
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氷点下でも、タフでなければならない
状態:構想中
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極寒の大地 | 修羅を映した、氷点下の青空
状態:構想中
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では今回は、このあたりで筆を置かせて頂きますね
またお目にかかりましょう
2025年2月8日(土)
Yukitaka Sawamatsu
(4800字)