正しくないのはわかってる。でも、正しくないことがいけないなんて誰が決めたの。

 ずっと、自分の恋愛に興味がないふりをしていた。
  高校時代からの親友に「自分の恋愛とかわからない。彼氏が欲しいと思わない」と言う人がいる。そして、私の周りにはずっと自分の恋愛よりも趣味にどっぷりと浸かっている人が多かった。

 学生時代の「恋愛なんてしょうもない」という時代はなんなのだろう。恋愛至上主義者と反対者。恋愛に興味がないことが一種のステータスだった時期があると思う。

 私も周囲にもれずそうだった。今、趣味ではまっていることがあるから「恋人はいらない」と言わなければいけない気持ちになっていたし、人を好きになったと言うことを大っぴらにすることが憚られた。もちろん、好きになってはいけない人を好きになったというのもあるけれど。

 「恋愛はいいかな、今が楽しいし」

 そう口にしながら、私には彼氏がいたし好きな人がいた。
 私が普通の人間であることが周囲に知られるのが怖かった。恋愛至上主義者のレッテルを貼られて、ああこいつは"一般人”だと言われたくなかった。そうすることで村八分にあうような気さえした。

 声を大にして言えるような恋愛はしていない。傷ついたし、傷つけた。それを不特定多数の人たちに慰められたくもないし、理解して欲しいとも思わない。

 だって、私のこと理解できるのは、私しかいないじゃん。

 私は一時期「あおはゆき」であることをやめた時期がある。別のアカウントで、別の名前で一年ほど生きていた。とても息がしやすかった。

 リアルの友人にも知らせなかった。あおはゆきのフォロワーにも、ほとんどその存在を教えなかった。私を知らない人たちや、私に興味を持たない人たちとの会話はとても気が楽だった。
 そのアカウントなら私は恋愛をする私でいられたし、過去のこともさらけ出せた。

 出会いを求めて配信アプリをしている人もいたし、それを否定する人たちももちろんいた。それでも、リアルの恋愛について否定的な人はいなかったし、私の過去を笑い話として受け取ってくれる人が多くいた。

 好きでもない人とセックスすることが世間的に褒められない行為であることは知っている。嫌悪感を持つ人がいることだって、ちゃんと理解している。それを、大人の恋愛だなんて思わない。正直、精神年齢の幼い大きな子供のやることだと思う。

「ゆきさんの恋愛はどうかしていると思うよ」

 配信アプリで知り合った人は口を揃えてそう言った。私もそうだと思う。そして次にはこう言うのだ。

「まぁ、クズだからしょうがないよね」

 冗談のようなそれに救われていた。私は正しくなくていいんだと、許された気さえした。世間に後ろ指を刺されて「間違っている」と糾弾されることを恐れていた。クズを言い訳にして、私は過去を過去にした。

 理解して欲しいなんてこれっぽっちも思わない。ただ、私の身体の上に横たわっている過去の恋愛にちゃんと向き合ってみたかった。

 恋愛至上主義者が恋愛を煩わしく思う人たちを傷つけるように、恋愛を重要視しない人たちもまた恋愛をしている人を傷つける。どちらも間違っていないのに、お互いが正しさだけを振りかざして血を流している。

 私はきっと、無関心が欲しかった。「へー、そうなんだ」って言葉でよかったし、3秒後には忘れて欲しかった。メンヘラの独り言だと思ってゴミ箱に捨てて欲しい。

 関心を持たれることが怖い。自分が「足りない」人間であることを痛感させられる。普通という言葉が怖い。だって、普通じゃなければ糾弾される。

 こうしてnoteに書いている時点で、誰かに理解されたいんでしょ?って言われるのを想像する。そうだね、理解はしなくていいから、知っては欲しいかな。

 芸能人の不倫のニュースを見て苦しくなる。一歩間違えば、私だってそうしていたかもしれない。踏み外さなかった私が、それで正しいんだよと囁いてくる。その正しさすらも苦しい。

 自傷のような恋をしている。壊されたいし、作り直して欲しい。粗雑に扱われたい一方で、大事にして欲しいと叫んでいる。全部全部、表裏一体の感情だと思う。

 好きな人としか付き合わなくて、好きな人としかセックスしないのが正しいなんて誰が決めたの。苦しい恋が正しいなんて、誰が決めたの。消費される恋愛ストーリーにありがちな価値観が私をイラつかせる。

 そりゃ、好きな人と一緒にいるのが一番だし、好きな人とのセックスは満たされるんだろうなと思う。そしてそうじゃない恋を素敵と思うこともない。

 体験して得たのは、虚しいだけの時間と後悔。それを二度繰り返してやっと、私は恋愛を自分に許せたのだと思う。

 恋愛至上主義者にもなれず、否定派にもなれない宙ぶらりんの中で膝を抱えていた私にこう言いたい。

「あなたのことに興味を持っている人なんていないし、あなたを嫌う人のことを考える時間なんて無駄なんだよ」

 自分の選択の正しさを決めれるのは、自分しかいない。過去があるから、私は今の幸福を大事に抱きしめることができる。えも言われぬ感情を抱えて、どうしようと悩んで立ち止まって「好きだよ」に「好きだよ」を重ねて、幸せばっかりの日々を重ねられる。

 もう、嘘をつくのをやめたい。なんでもないふりはしんどいから、楽に生きていたい。理解されることなど求めない。敵意には銃口を向けて、エイム勝負してやろうじゃないか。

 もう、一人で他人の振りかざす正しさに勝手に傷ついて塞ぎ込む私じゃない。


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