木ようのともだち
自分は子供の頃、カブトムシを採るのが下手だった。なかなか上手く探せないのだ。ともだちみんなと探しに行くこともあったし、一人で行くこともあった。場所は山であったり、川縁(かわべり)であったり、まちまちで、決まってカブトムシがいそうな木にはスズメバチや蛇(へび)がいたりした。カブトムシを見つけても、その隣にスズメバチがいて、なかなか手を出しずらかったり、カブトムシがいるのが見えているのだが、その木の下には蛇がいたりなんかして二の足を踏んだりすることもあった。
家の周りには色々な樹木(じゅもく)が立っていて、そこにカブトムシがいればいいのだろうがそうした木にはカナブンだけがいたりなんかする。クヌギの木・・・しかも蜜(みつ)を木肌(きはだ)から出していないと、なかなかカブトムシは寄ってこない。そこまではわかるのだが、そうした木は山の奥の方に入っていかなければ見つからない。草むらをかき分けて、半袖、半ズボンから出した腕や足に切り傷をつけて、ようやくたどり着くのだ。
たどり着いたまでは良かったのだが、そこからが大変で木の根元を素手で掘り起こし、いないとわかれば、木を揺さぶる。大きな木であれば、その子どもグループの親玉(おやだま)が木によじ登りユサユサと揺さぶり、落ちて来たカブトムシやクワガタを下っ端(したっぱ)が拾(ひろ)うのだ。自分はいつもその拾う方だったように思う。
親玉はカブトムシがいそうな木を見つけるのが上手(じょうず)だ。自分もそうした目利(めき)きができないかと一人で山の中に入り、探したりもするのだが、だんだん怖くなり、成果もないまま引き返して来てしまうのだった。
ある夏、年上の隣のお兄さんがカブトムシとクワガタを籠(かご)いっぱいに採って来て、その半分くらいを分けてもらった思い出がある。子供心になんだか幸せな気分だった。どうしてこんなに採れるのか?採って来た場所はどの辺なのか?訊いたのだが、その地域の名前を言ってくれるだけで肝心なところは教えてくれない。そう、カブトムシを採るのが上手い人は、自分だけの秘密の場所を持っているのだ。
歳(とし)とともにカブトムシやクワガタへの興味は段々薄れて行った。高校3年生の夏に部活を引退した後、その夏の終わりに、ともだちと二人でカブトムシを採りに行った。そこは幼い少年の頃、いつも探しに行っていた近くの山ではなくて、ともだちの方の家の近くの山と言おうか、川縁(かわべり)だったのかもしれない・・・遠い記憶なので曖昧なのだが、自転車を借りて二人で採りに行ったのだ。
その場所でカブトムシとクワガタが山のように採れたのだった。ともだちが木によじ登り、ワサワサと揺らすと、面白いほどの数のカブトムシとクワガタが落ちて来た。自分は幼い少年の頃と同じように落ちて来たカブトムシとクワガタを拾った。籠(かご)があったかどうかもう覚えていない。少年の頃、あれだけ欲していたカブトムシとクワガタの大漁だ!ともだちが自分の秘密の場所を教えてくれたのかもしれないが、、、今となっては、どうも記憶が定かでない。
”今度はお前が木に登って揺らしてよ。俺が下で拾うから。”ともだちが言って来たので、”そうか、じゃあ交代だ。”と言って、木によじ登った。
ワサ、ワサ、ワサ、
慣れぬ手つきで木を揺らしてみた。なんだか、ぎこちない。自分がカブトムシを採るのが下手だと、ともだちにわかってしまうかもしれない・・・。
ワサ、ワサ、ワサ、ワサ
ボトッ、ボトッ、ボトッ
と大量のカブトムシとクワガタが落ちって行った。”うわ!こりゃもう大漁だ。”と、ともだちが木の下で言うのを聞いてホッとした。
それ以来、カブトムシを採りに行った記憶はない。
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