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火ようのともだち

子供の頃、理科の授業が苦手(にがて)だった。実験が嫌なのだ。机に座って考えるだけでなく、わざわざフラスコや顕微鏡(けんびきょう)を使って手間をかけるのが面倒臭い感じがして、馴染めなかった。当然、成績も下がり気味で、心配した親は理科だけを特別にある先生にお願いして、週に1回、その先生の家にお邪魔して自分は教えてもらうこととなった。最初はピンと来なかったのだが、その女の先生は親切丁寧に理科の特に実験の楽しさを終えてくれて、理科の成績は次第に上昇、その内、その先生の家にも通わなくなった。

何年かして、その女の先生が癌(がん)で亡くなったと聞いた時には、ちょっとした衝撃だった。そしてまた何年もたった後、その先生の子供が自分の同級生の中にいて、ほとんど話をしたことも無かったのだが、ひょんなことから仲良くなり、またその家に遊びに行くことになった。二人の共通点は音楽好きだということになるのだろうか。

久しぶりにその先生の家に行くと、”入れ、入れ”と気兼ねなく応接間に通してくれて、いろんな閑談(かんだん)をしてから、自分のお気に入りの音楽を聴かせてくれると言う。どんなやつなのかな?今までの会話から、こいつ、自分の知らない曲も随分聴いているみたいだからと楽しみにしていると、奥の部屋からレコードを取り出してきて、プレーヤーのターンテーブルに乗せると、レコード針を落とす前に部屋のカーテンを閉めだした。”何してるのよ?”と訊くと、部屋を暗くしないと気分が出ないと言う。一体、どんな音楽をかけるのかと思っていると、高級そうなスピーカーから流れて来たのはサックスの調(しら)べだった。

プープ、プ、プー   プープ、プ、プー 

しかも、かなりの大音量。

プープ、プ、プー   プープ、プ、プー

ピアノとドラムが高速で何弾いてるのかわからない、、、

”ジャズじゃない、これ? おまえ、こんなの聴いてるの?”と言って、モノクロのレコードジャケットを見せてもらうと、そこには「ジョン・コルトレーン」と書いてあった。聞いたことがあるような、無いような?音楽はよくわからないが、こいつ、オレの想像する世界を超えた世界を知っていると思ってしまった。(笑)ジョン・コルトレーンがいいのだと言う。ジャズなんて、ロックの番組がラジオでかかっている間を埋める、ちょっと小難しい退屈な音楽だと思っていたのに、こんなに大きな音で、高級そうなステレオで聴いたら、何だか格好いいような気もする。それよりも自分が今まで聴いてきたロックとも明らかに精神性が違う、プログレロックもまあ難しそうな音楽だったけれど、ジャズはそれ以上に難解な感じがするのだが、なんとなく洒落(しゃれ)てもいる。(笑)

感心してしまって、その日以降このともだちとよく連(つる)むようになった。音楽以外の話もいろいろとして、特に文学の話もすると、またまたこのともだちは私の知らない作家さん達をよく知っていて、伊藤整(いとう せい)が良い言う。小説を貸してくれると言うので、借りて読んでみると、化学の実験の小説で、こんな舞台設定の小説なんてありなのか!?と衝撃を受け、さらには詩も読んでいると言う。

詩!?ポエム!?

そんな文学的な作業なんて経験したことがない。。。ランボーの詩を読んでいる、原文で読みたいとのことで、映画のランボーじゃないのか?ロッキーのシルベスタ・スタローンのことを言っているんじゃないのだろうな?と、一応、念のため確認すると、そうじゃないのだと言う。フランスの詩人、放浪の詩人、アルチュール・ランボーの詩が読みたいのだと言うのだ。

放浪の詩人!?

そんな存在があったなんて、まったく知らなかったよ〜。早く教えてくれよ〜。と言う感じで、詩も読み始める若かりし自分がいたのであった。(笑)

この時、ステレオを大音量で聴くことが結構楽しいということを知り、親がいない時に自宅にこのともだちを呼んで一晩中ステレオをかけたことがある。翌日隣からクレームが来てしまって、若気の至りというほかはないのだが、そのともだちとは1年か2年、集中的につきあった後はまったく音沙汰はなくなって、今は、何をしているのかもわからないのだ。

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